ご主人は創造神(クリエイター)!
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 俺は創造神。万物の神だ。今は人間の世界に遊びに来ている。
 嘘かと思うしれないが、実は右手からは何でも生み出せる能力を持っている。全能だからな。
 ただ、この期間は人間になりきろうキャンペーンの真っ最中だから、そんな面白くないことはしないのだ。まあ参加者は自分一人だけだけど。
 ところで、俺の家の中には、俺以外に四人の女の子がいる。
 夢乃、芽依、和久奈、綾だ。
 完全な神が不完全な人間に完全になってしまうと、どうやら不完全な人間らしくボロが出てしまったようで、自分が神だと感づかれてしまった。いやあ、失態、失態。まあ、実質ハーレム状態だから願ってもないことだけど。
 そして、その四人がどうやら茶の間で討論を交わしているようだった。どれ、ちょいと見学。
 観音開きの大きな扉を、わざと音が出るように勢いよく開けた。卓上で話し込んでいた四人は、突然の来訪者に一斉に振り向いた。
 四人の顔のうち、芽依の表情を見た瞬間、これは何か隠し事をしているなということに気がついた。明らかに顔が引きつっている。
 その他は三者三様だった。
 夢乃はなぜか瞳を爛々と輝かせているが、和久奈は怪訝な顔つきをしているし、綾に至っては扉を開けたのが自分だと分かった瞬間、完全に目を逸らした。
 試しに、様子を窺ってみることにした。
「なんの話?」
 向こうの出方を見るつもりで問いかけたのだが、彼女らは俺に聞こえないように、背中を向けて再び話し始めた。
――まあどうせそのうち分かるだろう。
 と、とりあえず部屋の片隅で静観することに決めた。



 沈黙の均衡を破ったのは芽依だった。
「ねえ、どうするのよ和久奈」
「何がだよ?」
「何が、じゃないわよ。このままじゃケーキみんなで食べたのバレちゃうじゃない……ああ、やっぱりあのときに代わりのケーキを買っておけばよかった」
「今さら嘆いてもねえ。大体、ケーキをタダで食べたのに、代わりのケーキを買うなんて、矛盾の典型じゃん」
 和久奈は大げさに肩をすくめた。
「しかしだな、ここで一ついい案がある……この˝ケーキを食べた˝はテーゼに相当し、˝代わりのケーキを買う˝をアンチテーゼに該当させるとすると、私の慧眼によれば両者はアウフヘーベンされることによって、˝代わりのケーキも食べる˝として位置づけられるジンテーゼが得られるのだ! 正反キュッポン合! 正反キュッポン合!」
「なんの解決にもなってないじゃないの! こんな緊張の場面でボケてないで、もっとまともな意見考えてよ!」
 隣で一人で馬鹿笑いしている和久奈を見て、芽依はため息をつかざるを得なくなった。
「もう、こうなったら諦めて正直に話そうかしら……それなら道徳規範上正しいし、私の善意志もそう言ってる気がする。あなたはどうなの、夢乃」
 と芽依は夢乃に話を振ってみたが、夢乃はさっきから神(暫定)に夢中のようだった。
 ようやく気づいたのか気づいていないのか、夢乃は瞳の奥を滾らせながら、じんわりと言葉を紡ぎ出した。
「対象の内外に自由を求めても無駄なんだわ。ただ一人で、私は神の前に自らの裸体を晒けだして、許しを請うのよ……」
「あーダメだ、理屈は通ってるけど発想が危ない。綾は?」
「神は死んだ……」
「いやいや、そこにいるから一応」
 結局、話し合いにならなかった。
 背後を一瞥すると、自称神が訝しげな目でこちらの様子を覗き込んできている。
 このままでは事実が表に出るのも時間の問題だ。
 芽依は考えた。
「やはり定言に従って有り体に白状すべきかしら。確かに神と言うぐらいだから、それぐらいのことは許してくれそうだけど……」
 しかし、それを聞いていた和久奈が今度は反論の狼煙を上げる。
「やめとけやめとけ。あの自称神ケチそうだから、ケーキ食われるなんてお約束のパターン怒らないわけがねえぜ?」
「どうしてよ?」
「考えてみろ。あいつ自称神とか言っといて、ご主人様がいない間に勝手に侵入してきたどこの馬の骨ともしれない奴が、自分のケーキを食われて宥恕すると思うか?」
「え、勝手に侵入したの? その前にこの家にご主人様なんていたっけ?」 
「うん。嘘だ」
 パーン。まるで銃撃のような、痛快な平手打ちが和久奈に炸裂した。
 芽依は鬼神のごとき形相で和久奈に迫った。
「嘘は吐いたらいけませんよ……?」
「う、嘘に厳しすぎるだろ、芽依……」
 和久奈はテーブルの上に突っ伏した。ゴン、という鈍い音が部屋中に響き渡る。
 話し合う相手がついにいなくなってしまった芽依は、諦めて自称神に謝りに行こうとした。
 しかしそのとき、今度は綾が立ち上がった。普段動作は最小限度で済ませる綾が立ち上がるのは、実に珍しい光景だった。
 綾は閉ざしていた口をゆっくりと開け、訥々と話し始めた。
「……私は何も真に神が死んだとは言っていない。そこに介在する道徳が腐敗していると言っているのだ。それにより神は死んだと私は断言している。しかし、もし、自称であっても他称であってもあいつが真の神だとしたら、この無価値な世界に意味を与える完全な創造者として己の視点からこの狭き世界を肯定できるという、超人の器をあいつが具現できるというなら、私の見解は永劫の中から枠を出ることになるだろう」
「…………結局、何が言いたいの?」
「おのが眼でその神の有無を確かめろ、ということだ」
 なんだかんだで自称神のところへ白状しろと言っているのが分かり、芽依は何だかもの凄く疲れた気分になり、ため息を洩らした。ああ、こんなこと言うのは持論に反するけど……
「幸福が逃げていく……」
 力を落とした肩に、夢乃の手が触れた。
「そのあなたの虚無にも、ケーキがないという有限さにも、死に至る病はついてまわり、あなたを本当の自己に導かせる糧にはできないわ。だから、神のもとへ行って、ありのままを晒しなさい」
「夢乃も……」
「でも神の前に何もしないまま立つのもなんだから、裸体になって――」
「それは無理」
 全力で否定しつつ、芽依は三人の意見がベクトルは違いながらもある程度は一致していることに気づいた。
「要するに、自称神のところに行けばいいんだよね……?」
 とにかく、これで三人の意見は揃ったと言うことだ。
 芽依は強引に納得させ、自称神のもとへ謝りに行くために席を立とうとしたそのとき、背後に人の気配を感じた。
 振り向くと、そこには狐疑の念をありありと浮かべる自称神の姿があった。


 さっきからケーキ、ケーキって……。
 いよいよ俺は我慢できなくなり、とりあえず一番まともな芽依の席へ向かった。
 歩み寄ると、気配に感づいたのか、芽依は即座に振り返った。瞳には何かに対する決意を感じ取れた。
「さっきから若干聞こえてたんだけど……ケーキ…………」
 ケーキという単語を口にした瞬間、芽依の眼は驚くほど見開いて、表情は赤から青、青から赤と目まぐるしくその色を変え、最後には冷や汗と思しき液体がだらだらと額から流れてきた。何だか見てるだけで楽しいな、この子。
 若干冷静を取り戻した芽依はおずおずとしゃべり始めた。
「ああああの、そそそのケーキなんですけどっ。……私たちで、その…………えーっと、その、食べちゃいました! ごめんなさい!」
 芽依は顔を真っ赤にしながら頭を垂れた。必死に頭を下げているところが何とも言えん。一般人ならこれでイチコロだろうな。
 と思いつつ、目を細めながら芽依に尋ねた。
「えーと、それは俺の用意していたケーキを四人で食べたってことで……」
「ははははい! そうですぅ、申し訳ありません!」
「あー、参ったな……今人間なりきりキャンペーン中だからなあ……」
「ええと、と、言いますと?」
「ああ、一時的に人間になりすまそうっていう俺の自己満なんだけど…………まあ、いいか」
 俺はどうせ参加者俺一人だから、と一人呟いたあと、右手を眼前に差し出し、力を込めた。
 掌上から白い光が聖なる輝きを放つ。
 俺は眩しさに目を細めながら、しかし光源から目を逸らさず、力を込め続けた。
 凝縮された白光は弾け、雷のような閃光が部屋中を白に染める。
 そして、俺の右手には突如ズシリと重たい感触が表れる。
 光が収束する頃には、俺の右手の上に巨大なスポンジケーキが乗せられていた。
「こういう能力を持つ人間もいるってことにして……さて、みんなでケーキ食べますか!」
 ケーキをテーブルの上に乗せ、俺は意気揚々に叫んだ。
 その特大ケーキに魅せられた三人がどんどんケーキの方へ近づいてくる。
「わあ、本当に神様みたいですね!」
 いやいや、芽依ちゃんそこは信じましょうよ。
「神さん、チョコレートケーキも作って止揚すれば最高のケーキがこの世に降誕するぜ!」
 和久奈、それはまずくなるだけだ。
「ああ、単独者として神の前に裸体で立てなかったのは一つの絶望ですが……私はあなたの前で自己を確立し、絶望を絶ち払いますので、どうか私の裸体を……」
 それはわかったけど、ここに神がいるのに夢乃はどこに向かってお祈りしてるんだよ。
 そしてよく見ると、一人だけ、綾はケーキに見向きもしていなかった。
「おーい、綾、ケーキ食べないのか?」
 声をかけるが、逆にそっぽを向かれてしまった。そして、緘黙の中、綾はポツリと呟いた。
「神は死んだ……ようだ」
「いやだからいるって!」


神と、神を取り巻く四人の少女たちの、慌ただしい毎日が過ぎていくのだった……。
素粒子 /Kwnx5KcSI

2010年12月30日(木)07時50分 公開
■この作品の著作権は素粒子さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
 どうも、素粒子です。
 今回でこの企画には二度目の投稿となります。
 前回は切ないお話でしたので、今回ははっちゃけた作品に仕上げたつもりです。
 読んでいただければ幸いです。

 四人が誰をモチーフにしているか、わかるかな?(すごく簡単ですけど)


この作品の感想をお寄せください。

2011年01月12日(水)23時40分 素粒子 /Kwnx5KcSI 作者レス
中佐世保さんはじめまして、素粒子です。

>よくわかりませんでしたが、楽しい感じは伝わってきました。地の文にもっと魅力があれば頑張って理解しようという気になったかもしれません。

今回はライトノベル風にということで会話文を多めに入れようとしたので、その分地の文が軽薄になったというか、疎かになったのかもしれません。
自分は地の文を書くと、どうしても重たい文章になりがちなのですが、難しい言葉などを使わなくても魅力的な地の文はいくらでも作れると思うので、この反省を今後に生かしていきたいと思います。

今回は作品を読んでいただき、ありがとうございました。

pass
2011年01月12日(水)20時11分 中佐世保  +10点
よくわかりませんでしたが、楽しい感じは伝わってきました。地の文にもっと魅力があれば頑張って理解しようという気になったかもしれません。
107

pass
2011年01月09日(日)23時55分 開蔵  +40点
カントにヘーゲル、キルケにニーチェ。こ、これはドイツ哲学の重厚さと軽快な作風によってアウフヘーベンやー!
俺神様をめぐる和久奈と夢乃の喧嘩、お屋敷は険悪ムード。そこへ、夢乃の従妹で帰国子女のパスカル子登場!
事態は混乱の度合いを増していき(ry なんて妄想もしていけそう、ってかしてますw

綾はもっと生き生きしてて良いかもですね。ニーチェの思想は生の勢いアリアリですし、夢乃とキャラが被り気味かも?

>パーン。まるで銃撃のような、痛快な平手打ちが和久奈に炸裂した。
唐突wでも、このビンタという罰は和久奈を理性的人格として認めているからこそなんですよね。いわば愛の鞭!

>右手からは何でも生み出せる能力を持っている
これは、キリ教において左手で十字を切るのは異端(だったはず)とか、
カバラのセフィラーに対する何らかの解釈に基づいてたりしますか?
最初はH× Hのコルトピや楳図かずお「神の左手悪魔の右手」を思い浮かべたのですが、なんか違う感じがして。

用語を使うのはタブー?まさか!
「哲学理論を延々と語りまくる妹」と企画要綱にありますし、少なくとも哲女企画では全然OK牧場でしょう。
愛の為す行為は善悪の彼岸。私は素粒子さんのはっちゃけた今作とキャラ達に可愛さを覚えますし、
今作がなければ私のこの「可愛い」はありえませんでした。はっちゃけや遊び、その「子ども」らしさこそ創造の源泉です。
結局のところ何が言いたいか、ですって?GJってことだよ言わせんな恥ずかしい///
もちろん、細かいことや読者に気を配らなくてよいとは言いませんけどね。書くという場に既に価値があると私は思うので。

続編をきたいします!って、このメッセージはもう通用しないんですよね。しょぼーん。祭りが終わるー。
104

pass
2011年01月09日(日)22時02分 素粒子 /Kwnx5KcSI 作者レス
モーフィアスさんへ

>不特定多数を相手に文章を書く場合、難しい言い回しはともかくとしても、特定の知識を知っていないと理解できないことを書くのは、ルール違反です。

せっかくの哲学を使ってという企画だったんで、ものは試しにということで挑戦してみたんですが、用語を使うのはタブーでした。申し訳ないです。

>これはメリハリや表現力というものを理解してない証拠です。
 時系列順に列挙していくだけでは、典型的な素人小説です。
 重要ではないところは書かないとか、事実をただ書くのではなく、作者が面白く書くとか、そういう自己編集や工夫が無いと、一本調子です。

まだ書き始めたのが半年前くらいで、書いた作品数もごくわずかですので、ここのサイトに書いてあるとおり、なるべく時系列に物語を進めていくようにしています。確かに物語を書くのが上手な方は時点移動をしても問題ないと思いますが、自分のような駆け出しはまだまだ実力が足りないと思うので。

今回は厳しいご指摘ありがとうございました。


nさんへ

>それぞれのキャラクターの特性を生かして、もっと長いお話で読みたかったです。

こういう作品は今回が初めてで、どういった感じで話を進めようか不安だったので、小説自体は短めで終わらせてもらいました。

>「神」の彼女たちに対する視点も、もの足りなかったです。
せっかく人間になりきり中なので、俗物っぽさと神らしさの対比や融合をもっと見たかったです。

確かに、主人公が神だというのに神の存在が軽視されすぎだったかもしれません。もう少し合間合間に神の視点を挟むようにすればよかったでしょうか。

今回は作品を読んでいただき、ありがとうございました。




pass
2011年01月04日(火)12時06分 n  +20点
面白かったです。
それぞれのキャラクターの特性を生かして、もっと長いお話で読みたかったです。
一人ひとりを深く知り、愛着がわく前に終わってしまいました。
笑ったり、「カワイイ!」と思ったりしていたので残念です。

「神」の彼女たちに対する視点も、もの足りなかったです。
せっかく人間になりきり中なので、俗物っぽさと神らしさの対比や融合をもっと見たかったです。

そもそも初めのケーキはなぜあったのか。
「神は死んだ・・・・・・ようだ」との判断の根拠は?
など、疑問が盛りだくさんでムズムズします。
109

pass
2011年01月04日(火)08時59分 モーフィアス  +10点
 出だしを読んだ感じ、こういう作風は、このサイトではいかにも好まれる作風に見えたんですが。
 しかし、難しいセリフが出始めてからは、ははぁなるほど、コメントがつかない理由が分かりました。
 このサイトの読者は、ああいう小難しいセリフについていくはずないです。文字の意味などを考えながら読み進める人は、このサイトにはほぼいません。
 私個人はそういうのは好きですがそれでも、ニーチェやショーペンハウアーをそれなりに知っているからついていけたのであって、そういう特殊な知識がなければ、ついていきようがありません。
 不特定多数を相手に文章を書く場合、難しい言い回しはともかくとしても、特定の知識を知っていないと理解できないことを書くのは、ルール違反です。
 まぁ言うまでもなく、作者もあれが原因だろうと思っているんでしょうけど。

 個人的には難しいセリフ部分は好きでしたが、それ以外の雰囲気は、まるでリアリティが無さすぎました。個人的には萌えとリアリティは両立できるはずだと思ってはいるんですが。
 けどこのサイトは、もとより萌えの創出が目的だ、と書いてあるしそもそもの雰囲気がこんな感じなので、雰囲気はもうあれでいいのかもしれません。そこらへんは判断つきません。

 ちなみに、私が「面白い」と言ったとしても、一般受けするかどうかには、全く関係なさそうです。

 それから、このサイトのほぼすべての人に言えることですけど、セリフと描写を時系列に列挙するだけ、という部分が多すぎです。
 これはメリハリや表現力というものを理解してない証拠です。
 時系列順に列挙していくだけでは、典型的な素人小説です。
 重要ではないところは書かないとか、事実をただ書くのではなく、作者が面白く書くとか、そういう自己編集や工夫が無いと、一本調子です。

 ちなみに、オチの10行弱ほどの部分に関しては、理解できませんでした。
・単独者として神の前に裸体で立てなかったのは一つの絶望
・綾が神にそっぽを向いてケーキを食べないのはなぜか。

 さらに言えば、つまりこの話は全体としてなんだったんだ、という根源的な問いもありはしますが……。
106

pass
合計 4人 80点


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