Shining stars bless★(問題編)
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――まさしくそういう意味で、哲学は深くよく生きるための思考の優れた方法なのである。(竹田青嗣「哲学ってなんだ―自分と社会を知る」より)


序章

 夕焼けで真っ赤になった世界を歩く。誰もいない学校の放課後、俺は忘れ物をとりに教室へ向かっていた。リノリウムの廊下が小気味よい足音を響かせる。
 カバンを左脇に挟んだまま右手で後ろのドアを開く。部屋には誰もいないと思っていたが、教室に目をやると窓際の一角にまだひとり残っていたことに気づいた。最後列の机で、イスに座りながらうつ伏せになって眠っている女子がいる。
 結城萌(ゆうき もえ)。クラスの中では目立たない子だった。高校一年の十二月にもなるが、話をしたのは数える程度だ。髪はセミショートで、背丈は平均よりわずか下。顔も少し童顔だが、その反対に体の発育は他の子と比べてみてやや発達している印象がある。
 窓が開けっぱなしだった。このままじゃ風邪をひくだろうから、自分の用より先にクラスメートを起こしてやることにする。
「おい、結――」
 そこで声が止まる。机の上には六時間目の哲学で使う教科書とノートが広げられたままで、板書の他にも大きな文字でメモが記されていた。

――約束ってなに?

 約束? ああ、そういえば今日の哲学の授業は社会契約説だったな。でも、このメモとは関係なさそうな気がする。
 確かこんな感じの授業だった。ホップズ、ロック、ルソー、どの論者も大なり小なり自然状態を否定的に見ている。
 自然状態、つまり昔の人間は何にも束縛されていない完全な自由人だったことを指す用語だ。でもみんなが好き勝手やってると財産の奪い合いや戦争がいつか勃発する。そして生きていくことすら困難に陥ってしまう。だから太古の人々は互いにルールを決めて、そのルールに触れなければ他は自由にしてよいことにした。こうして安心で平和な社会を作ろうとすることで、昔の人はやっと自由を得ることができた。そんなフィクションを主張するのが社会契約説だ。
 こんな物語を聞かされただけでは誰も彼も意味不明だろう。しかし、なぜそんな主張をしたかという理由を知り、俺は納得した。
 当時は政治と宗教が分離していなかった。国家は神聖なもので逆らっちゃいけない、掟は神が授けたもので勝手に変えてもいけない。そんな考え方は今と違ってむしろメジャーだった。しかしこのままじゃあ現状との不備があったとしても、国もルールも修正することができず、苦しい日々が続いてしまう。そこで社会契約説の出番となる。国も法律も人間同士が決め合うものだと言って政教分離を果たし、また自然状態を想像することで政治の必要性が実感をもって得られるわけだ。これが社会契約説の意義とのこと。ただ政治がどのように生まれたのかを説明するには不十分な理論ではあるが。
「……なぃ……」
「ん?」
「わかん…ない…よぅ」
「……」
 どうやら寝言のようだ。意識はまだこちらに帰ってきていない。
 結城はかわいい寝息を立てていた。それでも眉に力を入れ、悩ましげな顔をする。
 疲れて眠りに落ち、夢の世界で船をこぎながらも、何かを諦めることなく必死になって少女はもがいていた。かすかに漏れるうめき声の中には、切なげな色が混じり、うなじにかかる髪がはらりと風になびく。
 俺はその光景を前に言葉を失った。目を覚ましてやらないといけないのは分かっていたが、その行為がひどくためらわれる。
「…う、ん。……んん?」
 結城がおおきく体を動かして現実に戻り始めたのを機に、俺も謎の呪縛から開放され本来の目的を取り戻す。
「おい、起きろ。結城、結城!」
 むっくりと背筋を伸ばした結城はこちらに顔をむけ、ついで状況確認をする。
「あれ? もう放課後?」
「まあな。俺は忘れ物を取りに戻ってきたんだが、そしたらお前が寝てたもんでな」
「そうなんだ。えっと」
「深山蒼一(みやま そういち)。隣の席なんだから覚えててくれよ」
「ご、ごめんなさい。その、深山君。起こしてくれてありがとう」
「どういたしまして」
 俺はずっとノートに目を向けながら返事をしていた。
 それに釣られるように結城も視線を移す。
「は、はわわわわわ!」
 どうやら見られたくない秘密だったようで、結城は恥じらいのボルテージを一気に上げたご様子だ。そのままの勢いでノートをつかみ、胸に抱き寄せる。
 目をバツ印にしてぎゅっと縮こまる姿は、さながら小動物を彷彿させた。
「はっ! いまさら閉じても手遅れ?!」
 その通り。涙目の結城にわるいが、起きる前から目撃していたことだしな。窮鼠に追い込まれた少女は脳内電流を走らせ、滑車をカラカラ回し出す。
「あの、その、だから、えっと、つまり」
 うろたえる結城をよそに、俺はおもったことを口にした。
「ふ〜ん。難しいこと考えてんだな」
「え?」
「約束かぁ。いきなり尋ねられても答えにくいぞ、う〜ん」
「深山君?」
「それって哲学的な問いだろ? 結城って高尚な趣味もってんだな」
「そ、そんなことないよ。ちょっと背伸びしたくて気まぐれに挑戦してみただけ」
「別に恥ずかしがるもんでもないぞ?」
「だから違うの! でもやっぱり難しいね。私にはちんぷんかんぷん。ただのまねっこじゃあ検討もつかないよ。えへへ」
 結城は引きつった笑みを浮かべる。本当にそうかと疑問に思ったが、言葉にする寸前でクラスの担任が前のドアから入ってきたため、そこで流れとなった。
「二人とも、何してるの。早く帰りなさい」
「あ、は〜い。わかりました」
 元気にあいさつした結城はすぐさまカバンに勉強用具を詰め、担任が開けたほうのドアへ小走りする。
「さようなら。深山君」
 結城は別れの言葉を簡単に済ませ、そそくさと去っていった。
 少しばかり、もやもやとした気持ちが残る。まあ、ひけらかした所で全くの偏見にさらされないほど市民権を得てるってわけでもないしな。
「とりあえず、用事を済ませて帰るか」
 悩ましげな寝顔と、あのノートが心に焼き付く。それを胸に秘め、俺は教室を後にした。空はもう薄暮れ始め、星がぽつぽつと輝き出す。
 これが結城と俺が、ある『約束』を交わす物語の始まりだった。



第一章

 今は国語の時間。女子の出席番号順により、八神(やがみ)が立って教科書の朗読をしていた。ポニーテールをした女の子で、性格はイジワルなところもあるが根はいい奴だ。
 朗々と読みあげている八神には申し訳ないが、授業が退屈で眠たくなってきた。気晴らしに窓のほうを見る。
 って結城も授業そっちのけかよ!
 俺の左隣が結城の席である。肘をついて青い空を見上げていたが、きっとうわの空だろう。あいつ、ぼーっとするようなキャラだったか?
 いや、どうやら考えごとに没頭しているようである。
 そのまなざしには虚ろさとまじめさと、そしてひとさじの悲しさが宿っていた。昨日の寝顔、あの悩ましげな顔が脳内をリピートする。
 ノートを覗くと、昨日と同じ問いがあった。「約束ってなんだろう?」
 ひたむきなやつだな、と思った。哲学に夢中な少女なんて聞いたことがない。地味で普通の女の子だけど、こんな変わった一面を持つんだ。
 このままほっとくとロダンの「考える人」のごとく、石になってずっと考えにふけこんじまうだろうな。しかし今は放課後じゃない。学校の授業中だ。
 教科書と朗読の声に意識をもどす。そろそろ八神の担当部分が終わる頃だ。出席番号順だと、次に指名されるのは結城である。
 結城自身がピンチのはずなのに、当人はどこ吹く風である。けれど俺は結城を窮地から救うにした。ほっておくわけにはいかないよな。
 でも、どうやって助け舟を渡す?
 いきなり朗読の指名をされたら、結城はパニックを起こすだろう。そうなったら俺の救援に気付かない可能性だってある。かといって、下手に起こすと奇声を出されてしまうかもしれない。紙を丸めて投擲、だと気づきそうにもないし。それに周りがあるからな。
 ……仕方ないな。

「次の出席番号は、えーと。結城さん。続き読んでください」
 ……え、ええ? わたし?
 どうしようどうしよう! 授業、全然聞いてなかったよ。
 黒板、なにか手がかりない? ダメだ。板書されてることから推測してみても必要な答えにつながらない。教科書に目でしがみつくけど頭に血がのぼるばっかりだ。
「結城さーん、休みですかー?」
 時間が加速する。気まずさもコンマ一秒で積み重なっていく。
 やだ、一気にテンパってきちゃったよ。もう脳ミソとけちゃいそう!
 その時だった。

――ガシャッ!

 突然の物音にビックリする。音がしたほうへ反射的に振り向いた。
「っと、すんませーん」
 あ、昨日の――
 どうやら深山君がふでばこを落としちゃったみたい。みんなに謝りながら拾おうとしていた。
 視界の端っこで、深山君の机の上にあるノートが映った。読みやすいようにこっちに向けられている。そこには大文字でこう書かれてあった。

――教科書159ページ 三行目から

 わたしはまた驚いた。きっと読まなきゃいけないページと段落についてなんだろう。急いで教えられた所をめくり、立ち上がって朗読しはじめた。
「ふうっ」
 つつがなく発表を終えたわたしは着席する。
 深山君のほうをちらっと見た。消しゴムでノートの助言をかったるそうに消している。
 深山君とは昨日以外にも、何度かお話ししたことがある。でもそれは軽いおしゃべりを交わしただけで、お互い友達と呼べるほどでもなかった。
 身長は一般的にはわりと高いほう。髪はショートヘア。顔も体つきもスマートで、性格はちょっと不良っぽいかな? けど体育の時間にはクラスのポイントゲッターになるほど運動が得意でカッコよかった。帰宅部だけど体を動かすのは嫌いじゃないって言ってたっけ。
 でも、どうしてだろう? わたしの頭はフル回転しだす。
 ふでばこをワザと落としたのは、パニクったわたしでも助言の存在に気付けるよう仕向けるため。集中してたから、紙を投げられても気づけたか怪しいし。
 何よりも、ささやき声だと先生まで届かなくても周りに授業を聞いてなかったのがバレちゃう。
 そこまで考えて、わたしにノートを見せてくれたんだ。深山君の繊細な気遣いに戸惑ってしまう。様々な可能性も考慮した優しさは、不純な動機からはきっと生まれない。性善説に立ち過ぎてるかな?
 コツンッ、と頭に丸まった紙が飛んできた。深山君からだ。小さな用紙を広げて読む。

――昼飯を二人で食べね? かわいい哲学者さん。

 ……哲学者? ああ、今日もこれが見つかっちゃったの! バカバカ、わたし! なにやってんのよ! いやだもう、恥ずかしくなってきた。穴はどこ?! 今すぐ入りたいよ! ……いやいや、そうじゃなくて。
 どうなっちゃうんだろう? 今までずっと隠してきたのに。普通の子のように振舞ってきたのに。でもさっきの優しさは本物。それに変な人なんか食事を誘ったりしないはずだ。けれど紙の内容はわたしを小馬鹿にしたように読み取れる。でも、でも……
 いくら考えても頭は空転してばかり。まるで哲学的思考と一緒だ。わたしは昼休みが来るまでのあいだ、足元がぐらぐらする思考の迷宮をさ迷っていた。

「なあ、昨日の」
「あ、あれは本当に気まぐれだから! もう忘れて」
 さっきからずっとこんな調子だ。全然会話が成立しない。
 この学校は広い。庭も立派なもので、常緑樹で覆われた空間に点在する木陰のした、俺は弁当をつっついていた。結城は質素なバターロールとアルミ缶のホットココアをいそいそと食べている。
「ノートに」
「や、約束事なんて日頃から何の滞りもなく使えてるよね? 車の仕組みを知らなくても運転できれば、それでいいに越したことないでしょ、うん」
 結城を追い詰めたくてメモを寄こしたんじゃなかった。そんなにキザではなかったはずだし褒め言葉のつもりだった。そう、俺はただ彼女と楽しくランチを取りたかっただけなのに。
 深いため息をつく。俺は自分の考えを述べることにした。
「なあ、哲学ってそんなに悪いものなのか?」
「え?」
「哲学なんて授業で知ったことぐらいだけどさ、あれは立派な人類の英知だよ。社会契約説、だっけ? こいつは当時の人にとって政教一致を打ち破る理論的根拠を与えてくれたじゃないか。それに自然状態の論理は今でも通用するぞ。政治って醜い権力争いをするだけだと思ってたけどさ、大事な営みなんだなって視点が大きく変わったよ。それだけでも一歩大人になれた気がする。
 俺は哲学書も読んだことがない。読んだとしても専門用語だらけでギブアップだろうな。きっと多くの人も敗北してきたのかもしれない。でもな、むずかしい理屈をこねくり回してるだけだったなら、たぶん歴史の荒波にさらわれてとっくに忘れ去られてるはずだろ? でも哲学書は今でも受け継がれている。ならそこには、重要な意味が書かれてあるはずだ。
 それに人間生きてたら難しいことを考えざるを得ない時期だってある。そして昔の人だって俺達と同じ人間なんだから、同じような問題にぶつかり、悩みに悩んだ末に何らかの答えを出したと思う。その答えはきっと今を苦しんでる人にとって何らかのサポートになる。哲学ってそんな風に役立つんじゃないのか? 俺はそう信じてるよ」
 結城は何も答えない。ただひたすら俯いてるだけだった。
 気まずい空気が流れる。俺も結城も昼食を終えた。でもお互い無言のままで、ごちそうさまの一言も無い。
 何か別の話題を振るとするか。そうだ。あれを話してみよう。
「あのさ、俺なりに『約束』って何なのか考えてみたんだけど。『協力』と関係あるんじゃないかって思ったんだ」
 結城は顔を上げた。その瞳には驚きの色が伺える。何か心に触れるものがあったのか?
 でもまだ整理しきれてないのでしどろもどろな説明になってしまう。それでも俺は踏ん張ってみた。
「つ、つまりだな。約束を結ぶと協力しなくちゃいけないだろ? そしてそれ自体が約束になって、でも本当は協力しあうことが大切なんだよ。破る奴は協力してなくてだな。それぞれがバラバラになってしまって。ああ、くそ!」
 俺、こんなに阿呆だったか? 完全に支離滅裂になっちまってるじゃねえか。でも言いたいことが言葉にならない。蛙に何で踊れるのかって解説を求められた百足みたいな気分だ。
「み、深山君!」
 結城が突然、決意の表情をして俺に迫る。結城が眼前にあった。顔が火のように赤くなってたが、俺も同じ表情をしてるだろうな。
「わ、わたしの話を聞いてくれますか?」
「へ?」
「つ、つまり深山君が言わんとしてることがわかったから、間違ってないか確認するために、わたしなりに言い換えてみようかと思って、その……」
「……」
「だ、ダメかな?」
「いや、よろしく頼む」
 結城の顔がパアーッとひまわりのように花開く。そして水を得た魚のように泳ぎ出す。
 哲学者による魔法の呪文が、奏でられ始めた。
「ここにリンゴとバナナとブドウとオレンジがあるとします!
 そして四人の子どもがそれぞれ果物を食べたいって思っているの。「ボク、リンゴ食べたい!」「ワタシ、バナナ!」「あ、ずるいぞ。オレがバナナだ」「う〜ん、お腹一杯でもう入らないや」。もしも偶然に子ども達の欲求が重ならなければ、それでいいのかもしれないわ。でも今回はこのままだとバナナの奪い合いが起きちゃうでしょ?
 そこで子ども達は話し合ってルールを自分達なりに作り出す。例えば『A君はリンゴを食べる』『BちゃんとC君はバナナとブドウを半分こする』『D君はオレンジを明日食べるから残しておく』というようにね。そして形成されたルールに従い、子ども達は果物を無事に配分して食べられる。これで争いごとも起きないわ。何だか社会契約説と似てるね。
 約束ってどんな営みかを確認するための例題を出してみたけど、こんなものかな。
 ここでポイントなのが、みんなで『ルールに従う』って点だね。『A君はリンゴを食べる』ってルールに、Bちゃんは従ってリンゴには手を出さない。C君もD君も同じくリンゴを食べなくなるわ。
 出来上がったルールはそれ自体で存在するようになる。契約したあとで発効される契約書、みたいにね。そして人は契約書に協力することで秩序が保たれる。深山君が最初に言いたかったことってこうなんじゃないかな?」
「そうそう、そんな感じ」
「でね、深山君。鳥さんの研究について何か知ってる?」
「え? いや」
 鳥? 何でいきなりそんな話に移るんだ? 結城は微笑みながら話を続けた。
「複雑系という科学の分野でね、カラスについてこんな報告があるの。どうして鳥さんはあれほど統制の取れた編隊を組んで空を飛べるかわかる?」
「さあ」
「実はね、一羽一羽の鳥さんが、ある三つの命令を守ってるだけなの。一つ目「カーカー、仲間が沢山いるほうへ」。二つ目「速さと方向をみんなに合わせて空を飛ぼう」。三つ目、「おっと、ぶつからないようある程度は離れなくっちゃね」。これだけで鳥さん達は仲良く空に羽ばたけるんだ。凄いよね」
「そうだったのか。へえ〜」
「でもこれって、さっきの話と一緒じゃない?」
「え?」
「鳥さんは三つの命令を忠実に守って、集団の活動を営んでいるわ。そして人間もまた『A君はリンゴを食べる』に従ってる。どちらも社会のためにルールを遵守しているわ」
「そ、そんなバカな! だって、その……」
「だいじょーぶ! 安心して」
 結城は人差し指をピッと立てる。自信満々の笑顔だった。
「わたしも鳥さんと人間が同じ『協力』だなんて思っていないよ。だって鳥さんは機械的にルールを守っているだけだもん。人間のようにルールを増やしたり調整しないしね
 契約書は大事だわ。でももっと大事なのは、契約することそのものじゃないかな。
 わたしはね。人間的な『協力』って、きっと「ルールを守る」ことじゃなくて「ルールを守ろうとする気持ち」だと思うの。つまり「助け合おうとする心の機能」かな?」
「助け合いの、心?」
「人間は一人だと、無力じゃなくても、微力なの。でもみんなで『協力』して助け合えば、おっきな目標だって叶えられるかもしれないでしょ?
 お家を建てるのも一人じゃ大変。でも多くの人たちが集まって、計画を立てて、計画書に沿って作れば一人にのしかかる負担は分散され軽くなる。そして計画に問題点があったら、新しい協力関係を築けばいいの。
 法律も一緒。予め、問題が起こった時にどうすればいいか決めておいて、それをみんなが協力して守れば社会は無事円滑に回る。より多くの人が協力すれば、法の力も増す。赤信号、皆で渡れば怖くないみたいな感じかな?
 友達と遊園地に行くという日常もね、楽しんだ帰り道に「あの観覧車は良かった」「このジェットコースターはスリル満点」って意見交換すれば、他の人の楽しさも自分のものになって喜びが一人よりも増えるじゃない。
 逆によく遅刻したり、反社会的な人は非協力的と呼べないかな? 意図的かそうでないかの違いはあるけど。学校の遠足で遅れてくればそのぶんだけ協力で喜びを作れないし、合唱で一人だけ口パクしてたら、一人分の声量がなくなっちゃう。
 そして協力しあうことがなくなった人々は自然状態に戻ってしまう。力をあわせようとしなくなると社会が空中分解してしまってみんな無力に陥ってしまうわ。『協力』しようとする心が建築や法や遊びに行く約束の根拠なの。
 これが深山君の言いたかった『協力』なんじゃないかな?」
「……」
「み、深山君?」
「いや、話をまとめるのが上手いな〜。そうだよ、それそれ」
 例えがファンシーだけど、俺の言いたかったことのポイントをしっかりまとめられている。そうだ、人は助け合わなきゃ生きていけない。一人では出来ることなど高が知れてる。そして人にはそういう相互扶助の精神がある。
「それでいいんじゃないか?」
「だ、ダメダメ! だってわたし、この考え、とっくに廃棄してるもん」
「へ?」
「だって世の中にはナイフを突きつけてムリヤリ契約を結ばされることだってあるでしょ? そんなの、とても『協力』と言えないじゃない」
「あ〜」
「それよりもっと重要なのは、言語なの」
「言語?」
「例えばね、日本語では犬のことを漢字で書くと「大」という字に点をつけたような文字を書かなきゃいけないよね。でも英語ではディーとオーとジーを並べて「dog」と書かなきゃいけない。つまり、約束事なんだよね。
 でも言語ってどのようにして生まれてきたのか、よくわかってないの。人が約束を交わす時に必要なのが言葉よね。だけどその言葉が生まれたのは「そう約束したから、協力したから」と言ったんじゃあ循環論法になっちゃう」
「そっか。イケると思ったんだけどなあ」
「ふふ、でも深山君が前に考えついたことを言うから、驚いちゃった」
 結城が天真爛漫な笑顔を見せる。こいつってこんなにコロコロ表情を変えるんだ。やっぱりかわいいやつだよな。
 実は他にも話したいことがあった。でも迷いがあったから、まだ話題にしていない。しかし結城の笑顔で俺は決断した。
「……? どうしたの?」
 俺はポケットからあるものを取り出す。
「映画のチケットが、三枚?」
「実は俺の友人三人が映画に行く予定を立ててたんだけど、都合によりいけなくなっちまったんだ」
「深山君が観に行けばいいんじゃないの?」
「行く気なかったからさ、断ってたんだよ。それに期日が明日までだし。そこでさ」
「……?」
「映画、一緒に行かないか?」
「……ええええっ?!」
 素っ頓狂な声が上がる。当たり前か。
「そ、そんな! もったいないよ! 一枚ムダになるじゃない!」
「いいんだよ」
「深山君の家って核家族でしょ? 丁度いいじゃない」
「関係ねえよ」
「で、でも。わたしと行ったって楽しくは」
「だからいいんだって! 俺はチケットを一枚ふいにしても結城と行きたいんだよ!」
 結城は驚きのあまり一歩あとずさった。鼻と口を両手で覆い、俺を凝視する。一方の俺は玉砕かと思い、目を反らした。
 長い沈黙が流れた。周りの木々が風にざわめく。
「……わ、割り勘で」
「……え?」
 前を向く。結城は顔を赤くし、モジモジしていた。それでも彼女は言葉を続ける。
「割り勘でもう一枚チケット買えば、昼と夜で観れるでしょ?」
 その発想はなかった。ってそうくるか?! でも結城と一日二回も映画を観れるのか……
「わ、わたしなんかでよければ、一緒に、行こ?」
「あ、ああ……」
 なんだろうな、この気持ち? でも、わるくない気分だ。明日に思いを馳せるとウキウキしてくる。きっと楽しい一日になるに違いない。
 二人で明日の約束を交わしたのとシンクロするかのように、午後のチャイムが祝福するかのように鳴り響いた。



第二章

 今日は日中から曇りで寒い。服はジーパンとダウンベストで簡単に済ませてきたせいで、映画館前で俺は震えながら結城を待つハメとなった。
 時計を見るともうすぐ結城が来る頃である。
「深山く〜ん」
 声のしたほうへ振り向いた。そして俺の頬がほんのり赤くなる。
 結城は白のかわいらしいカーディガンを着ていた。ウサギのプリントが縦二列に並んでいて、ちょっとしたフリフリもついている。明らかにオシャレ着だ。スカートは紺色のロングで、ボーダー柄をしている。ポンポンの付いた白のニット帽に、ふわふわした赤いマフラーと手袋。防寒要素だけでなく、ファッションもバッチリだった。
「お待たせ。それじゃ入ろっか?」
「あ、ああ」
 何を観るかを話し合った結果、アクション映画にすることとなった。ホラーだと好き嫌いが極端に別れるし、純愛ものだと退屈してしまうかもしれない。そこでエンターティメント性の強い作品を選んだわけである。
「うわあ、楽しみ〜! 映画館なんて本当に久々だよ」
「そうなのか?」
「うん。わたし、友達と外で遊ばないから」
 こいつは別に学校でネグレクトを受けてるわけではない。むしろ休み時間の教室で女の子と普通に談笑をしていたところを何度か見かけたことがある。その時も屈託のない顔で笑っていた。
 一人遊びが好きな性格なのだろう。きっと読書とか、一人ウィンドウショッピングとか、自分だけで楽しめる趣味の持ち主なんだろうと想像した。
 劇場に入り、席に座る。まだ開演前で観客席は明るかった。
 結城は持ってきたバケットを差し出す。
「行き付けのお肉屋さんで売ってるポークパイなの。冷めててもすっごく美味しいんだから食べてみて」
「おお、ちょうど腹が空いてたとこなんだ。サンキュ」
 ガブリと一口。うん、こりゃうまい。
 結城も小さな口をあーんと開けてかぶりつく。ほっぺを丸くして幸せそうに咀嚼する。
 ふと結城がこっちを見た。えへへと笑う。その笑顔を見て俺は恥ずかしくなり、そっぽを向いた。
 俺達がちょうど食べ終わった時に開演の合図が鳴る。
「いよいよだね」
「途中で寝るなよ?」
「そんなことしないよう、もう」
 こうして俺達はスクリーンの中の世界へ旅立って行った。

「はあ〜、面白かった〜!」
 映画のあと、俺達はアンティークな喫茶店の中にいる。裸電球で照らされた室内には趣向を凝らした木製のテーブルとイスがあり、レトロな雰囲気を醸し出していた。まるで高級サロンのようだ。夜の回までは結構時間があるので、暫くはここで時間を潰すことにしたのである。
 ティーカップの紅茶を飲む。体の芯から温まり、ほっと一息つけた。
「わあ〜! ふくよか〜!」
 結城は紅茶の味にいたく感動する。目がキラキラ輝いていた。
「あ、そうだ。深山君」
「何だ?」
「今度は深山君の秘密を教えて」
「は?」
「どうしても話したくないことなら話さなくていいから。わたしの秘密を知ったんだから、これでおあいこでしょ?」
 結城はうっとりするような表情で、紅茶をクルクルとかき混ぜていた。その瞳に見つめられ、たじろいでしまう。
「いやだと言ったら?」
「ダ〜メ」
 とはいってもなあ。これといって結城に自慢できるような趣味は持っていなかった。何とか話題変換できないかと頭を抱える。
「そんなに、いや?」
 寂しそうな目をして首を傾げる。くそ、そんなふうに頼まれたら断れないじゃないか。
 仕方ないから俺はある持論を持ち出すことにした。
「……実はさ、俺は一時、アクション映画にハマってた頃があってな。一年ぐらいしか続かなかったけれど、そん時はよくレンタルビデオ店に足を運んでたな」
「へぇ〜。それで?」
「結城は今日の映画、面白かったって言ってたろ? 俺も面白いって思った。んでさ、良いアクション映画を観てると、こう感じるんだよ。『ああ、監督はちゃんとアクションがわかってるなあ』って」
「わかってる?」
「そう、何つーか。上手くいえないけど、アクションシーンがなんたるものか理解してないとこりゃ作れないよなって気付くんだ。
 巷では二挺拳銃やらカンフーやらワイヤーアクションやらCGやらが持て囃されてる。けど、それだけじゃあ面白いアクション映画ってのは作れないんだ。派手なドンパチ、アクロバットに格闘、ありえない動き、豪華な映像美、そんなものはただの飾りだ。大切なのは、そこに意味があるかどうかなんだ。
 なのに駄作は無駄なバトルを挿入する。アクションというのはシーンとシーンをただ繋ぐだけの尺稼ぎじゃない。いかに魅せるかという技巧が必要なのは認めるけど、監督はそれだけで満足しちゃいけないと俺は思うよ」
 後半はどうも尻窄みになって何が言いたかったのか、よくわからなくなってしまった。こんな話で果たして納得してくれるのか?
 結城を見ると目を閉じて「う〜ん」としきりに考え込んでる。
「……深山君、前に言ってたよね? 哲学書に挑戦してもギブアップするだろうって。つまり難しい文章に阻まれて歯が立たないからって意味だろうけど、わたしは難解すぎる文を増産するのは哲学の悪しき慣習だと思うの。
 無駄に権威付けるためだけの晦渋な哲学書はダメ。その中にはよく読むと、あまり意味のない文が書かれてあったり、「これ、あまり理解してないなあ」というのもあって、とっても時間を浪費したことあるもん。
 哲学書を書くんなら、まずちゃんと書きたい内容、つまり意味を掴んで、それから分かり易く書いてほしいな。これはわたしが日頃から思ってる昨今の哲学に対しての批判なんだけど。……あ、深山君を攻めてるわけじゃないんだからね!」
 どうやら結城にはグダグダだったのがバレてしまっていたようだ。
 しかし結城が素早く内容を理解してくれていて一安心する。俺は紅茶を一口すすった。うん、かぐわしい。
「にしてもアクション映画って俗すぎるせいか、お高い評論家には評価されてなくてな。ゴールデン・グローブ賞やエミー賞にはコメディ部門があるってのに、なぜかアクション映画部門がないんだぜ? 差別だろ?」
「あー、それ哲学でも一緒だ! ノーベル科学賞とかノーベル平和賞とかあるのに、どうしてノーベル哲学賞がないんだろ? 一応、科学哲学の分野でラカトシュ賞というのはあるんだけど」
 まあ、他の映画賞ではちゃんとアクション映画部門が存在するから別に構わないんだけどな。例えばサターン賞がそれだ。
 結城がため息をつく。
「はあ〜、でも哲学って日進月歩の勢いで発展しているかというと、そんなことないもん。とってもスローだから刺激が少ないし。人気がないのもしょ〜がないよね」
「アクションは年がら年中、どこもかしこも大量に作ってるもんだから、バブリーな気がする。そのせいかな? 低俗に見られがちなのは」
「わたし達、変な所で似てるね」
「ああ、俺達はアウトロー者同士だ」
「ふふっ」
「ははは」
 こうして俺達は喫茶店で楽しく半日を過ごしていった。

 夕方過ぎに喫茶店から出て、俺達は二回目の映画鑑賞に向かう。結城は俺の隣で歩いていた。二人の歩幅は全然違うから、俺は遅めに、結城は速めに、互いが相手に合わせようとしながら街の中を進んだ。
 俺は先程の会話を思い出していた。俺も結城も、自分の持論をぶちまけただけにすぎないのに、ちゃんと会話が成立していた。いや、成立していると思えた。賞の話もそうである。なぜ通じ合えたと感じたのだろう?
「どうしたの?」
「ん? ああ」
 今しがた思い浮かんだ疑問を結城に話す。
「あ、それって反省知だ!」
「なんだそれ?」
「ん〜とね」
 結城は人差し指を頬に当て、考えを整理してから言葉を紡いだ。
「イヌって賢いよね? ちゃんと訓練すれば牧羊犬、盲導犬、麻薬犬、災害救助犬、色んな仕事が出来るようになる立派な動物さんだわ。
 でも、イヌの知能って人間と同じじゃない。それこそ鳥さんと同じように機械的なの。『ポチ、前に教えたとおり、ここを掘ってくれ』『はい、わかりましたワン!』という感じで、生まれたあとでも学習させれば新しい反応体系を身に付ける点では、鳥さんより一歩リードしてると言えるかな。でもまだ人間的な知能じゃない。
 イヌと人間の知能の違いって何だろう? イヌの知能は反応的なの。反応、でわかりにくかったら、反射と呼び変えてもいいかもね。
 ここで学校の先生の立場になって考えてみて。いい? 子ども達に足し算を教えることになったとするでしょ。先生として子ども達にみっちり授業をする。そして教えたとおり、ちゃんと足し算ができたとするね。
 でも本当にちゃんとわかっているのかな? 子ども達に練習問題をさせてみて、仮に全問正解したとしても、この疑問は解消されない。イヌのように、学習したことをただ反射してるだけかもしれないじゃない。
 補足説明として言っておくけど、問題の複雑さは関係ないの。算数と穴掘りじゃあ一見すると算数のほうが高度で一緒くたにするのはおかしいって思うかもしれないけど、そんなことないよ。だって算数もまた規則なんだから。反射も、ある刺激、つまり入力に対して規則に従い、答えを出力する。算数もイヌの学習も同じように処理できるの。コンピュータみたいにね。
 ここで問題。イヌと人間の知能の違いをどのようにして見分ければいいのかな? 子ども達が足し算を反射活動だけで学習してるんじゃなく、人間的な知能でちゃんとわかっているのかを区別するにはどうすればいいかな? 深山君、どう?」
「さーっぱり。お手上げだ」
 俺はもろ手を挙げて降参した。
「ふふっ。ここでポイントなのが『わたくし性』なの。言い換えると『私は』という主語だね」
「わたくし性?」
「例えばうまく足し算を教えられたかどうか悩む先生がいたとするね。その先生がある日、お店に生徒が一人でいる所を発見したとするでしょ。物陰に隠れて観察していると、どうやら生徒はお菓子が食べたいらしくて、しかも100円を持っているみたい。
 すると生徒が欲しい商品を選んでレジに持って行き、会計を済ませるの。買ったのは30円の飴玉1個と35円のガムを2個。生徒は鼻歌を歌いながら店を出ていったわ。その様子を見て、先生は安堵をつくの。どうしてだかわかる?」
 そうか。成程。
「自分なりに足し算を使ったから、か?」
「せいか〜い! 人間は知識をただ溜め込むわけじゃなくて、その知識を活用するじゃない。このように自分というのを持っていて、自分なりに知識を使う知能のことを『反省知』って呼ぶの。ちなみにイヌのような反応体系による知能を『前反省知』って言うわ。
 喫茶店での会話が成立してるって思えたのも、わたしが深山君の言いたいことを、わたしがわたしなりに言い換えたからじゃないの? 最低でも、相手の主張を理解したうえでないと、あんな応答は出来ないんじゃないかしら?」
 結城の台詞で嫌なことを思い出してしまい、俺はドキッとした。
 相手の主張を理解したうえで、か。

 映画館からの帰り道、俺達は夜のイルミネーションに輝く街を歩いていた。カップルが手を繋いでいたり、両親が子どもの両手を掴んでいたりといったよくある光景の中、無言で歩を進める。
「深山君、二回目もアクション系の映画にしたけど、やっぱり退屈だった? どうして黙ってるの?」
「……」
 結城はしょんぼりと俯く。別に結城が悪い訳じゃない。悪いのは俺の心ぐあいだ。
 顔を上げ、ひとりごちた。
「俺の家ってさ、夫婦喧嘩が絶えないんだよね」
「え?」
「結城の『反省知』の話でさ、相手の主張を理解したうえでって言ってたろ? あれでちょっとな。
 小さい時からずっとだった。毎日毎日、口喧嘩ばかり。子ども心に「よく飽きねーなコイツら」って思ってた。結婚式で永遠の約束を交わしたっていうのに破ってるじゃんかよ。何が永遠の約束だ。もう呆れて物もいえねえよ。
 二人の喧嘩を見てるとさ、ズレを感じるんだよ。言動と本心が一致してねえんだ。
 例えばな、日曜にお袋が親父にこういうんだ。「テレビ見てないんだったら消して頂戴!」。でも顔を見ると親父を煙たそうな目で見てるんだ。きっと「一日中、家でゴロゴロね、うっとおしい。どこか散歩にでも行ってくれないかしら」って思ってるんだろうよ。
 そしたら親父はこう答えるんだ。「ちゃんとテレビを見てるから問題ないだろ?」。けどバラエティ番組なのにしかめつらして見てるんだ。「また文句を言い始めた。いちいち粗探ししやがって」という表情なんだよ。
 相手を理解しようとせず自分勝手に解釈してるんだ、お袋も親父も。『反省知』を全く使わず、脊髄反射のように衝動的な考えに囚われてるから理解し合えないんだ。これが『前反省知』なんだろ?」
「……ううん、違う。それは『反省知』でも『前反省知』でもない。確か心理学用語で『自動思考』っていうの」
 結城は暗い顔をしていた。きっと俺のために心を痛めているのだろう。そこまで辛くならなくてもいいのに。
「そっか。間違って悪ぃ」
 俺達の間にも言葉と本心にズレが生じていた。
「中学の頃だったかな? 気が付いたらアクション映画に夢中になってた。多分、憂さ晴らしだったんだろう。本当にスカッとするんだ。
 でもある日、親父にこう言われたんだ。「アクション映画なんて、プロモーションビデオじゃないか」って。
 俺は怒ったよ。でも言い返せなかった。どう反論していいかわからなかったんだ。だって考えれば考えるほど、単なる映像美を観てるに過ぎないって思えてきたから。
 俺は一体何に夢中になってたんだろう? どうやったって主人公のように凄えアクションが出来るわけじゃないしさ。そのうち冷めていって俺はアクション映画から離れていった。三人から誘われても行く気がなくて断ってたのはそのため。
 でも久々に観て楽しかったよ。何で楽しかったかよくわからないままだけどさ。結城と二回も観れて本当に良かった」
「……」
 結城は黙ったままだ。そりゃそうだろう。こんな話聞かされたら誰だって困る。
 俺は上を向いたまま考えた。自分の好きなこともわからない。家族もよくわからない。そんな俺に明るい未来が作れるのだろうか? 真っ当な生き方が出来るのだろうか? それがわからないってのに?
「え?」
 片方の手が温かい毛糸に包まれる。手袋をした結城が俺の手を掴んでいた。
「……」
「わ、わたし」
「……」
「こ、これぐらいしか、出来ないけど」
「……いや、そんなことない。ありがとう」
「……良かった」
 今日は一日中寒かった。なのにこうして結城と手を繋いでるだけで、心も体も温まる。
 寒い冬の夜、ネオン街の燦々と煌く雑踏の中で、俺と結城は言葉と本心を重ね合わせていた。



第三章

「メタ認知?」
「うん。それからニラーニューロン。この二つはとっても凄いんだよ」
 わたし達は今、教室でおしゃべりをしていた。映画を観に行った日からもう数日が経とうとしている。
「メタ認知って心理学用語はね、一言で説明すると何かを認知している自分を、外側から認知するためのモニター機能ってとこかな? でもこれじゃあわかんないよね。
 例えばの話、深山君が釘をスポンジで打とうとしていました」
「随分マヌケだな、俺」
 深山君が呆れた顔をした。ふふっ、そんな顔も素敵。
「このとき深山君が間違いに気づくのには、三段階必要なの。
 まず第一段階は、普通に感覚器官で情報を得て、脳で処理する段階。スポンジを握っていること。それから釘を目で捉えてること。腕を振る角度や強さ。その他もろもろを認知してないといけないわ。
 この第一段階で間違いに気づくのは難しいの。実際に釘を打って手応えがないとか、他の人から注意されてからでないといけない。だって、第一段階じゃあ局地的な情報ばかりだから。
 そこで登場するのが第二段階のメタ認知。メタっていうのは『高次の』って意味よ。これによって自分自身の局地的な情報を対象化し、大局的な目線に立って、それで「スポンジで釘を打つ自分」を認知できるようになるの。
 あとはスポンジで釘を打つ結果と望む結果を擦り合わせるだけで、間違いに気づけるってわけ。どう?」
「ん〜?」
 もう。そんな困った顔されたら、デコピンしたくなっちゃうよ。わからないならそう言えばいいのに。
 安心して、何度でも教えてあげるから。
「それで、次は?」
「ニラーニューロンはね、脳科学で別名『ものまね細胞』と呼ばれてるの。
 物とか場所を把握するだけなら、感覚器官や機械的な処理だけで十分。でも動物や人間を理解するのには、それとは別に、感情や社会性を認識するための脳機能が必要なの。
 その名の通り、まるで鏡のような神経細胞だわ。おさるさんの脳を調べた研究があってね。研究者がエサを拾う仕草を見せると、何とおさるさんもエサを取る時の神経細胞を活動させるの。つまり、見ただけなのに研究者と同じ脳活動をしたってこと。再現、まねっこしたのよ。
 人間にもミラーニューロンが備わっていて、他人が傷ついているのを見ただけで、自分も痛みを感じるの。これは快・不快にも言えることで、他の人が幸せそうにしてるのを見るだけで、何だか幸せな気持ちになれるのよ。
 理屈だけでは通用しない感情をスピーディに処理してくれる機能、それがミラーニューロンなの。社会性を身に付けるのに重要な役割を果たしているわ」
 こんな感じかな? う〜ん、どうなんだろう? 深山君にはちゃんとわかってほしいな。だってかけがえのない友達だもん。それに下手っぴな説明じゃあ申し訳ないよ。
「……ん〜、つまりだな」
「うんうん」
「放課後でさ、ノート隠しても意味ねえって気づいた結城。あれがメタ認知で」
「はわ!」
「喫茶店で、俺の持論がグダグダなのを察したのも、自分の発言が俺を攻めてる風になってたから補足したのも、メタ認知とミラーニューロン、なんだな?」
「はう〜」
 もう、いじわるなんだから。何でそんな恥ずかしいことをずっと覚えているのよ! ……ま、いっか。ちゃんと理解してくれてるみたいだしね。
「これで『約束』を説明できないか?」
「そうねえ、無理じゃないかな。だってメタ認知は自分を知るだけだし、ミラーニューロンは他者を知るだけだもん」
「そっかあ。単なる思い付きじゃダメだな」
「残念でした」
 でも嬉しい。深山君がまだ考えてくれていたなんて。それだけで十分だよ。
 前はこんな風に誰かと哲学を語り合える日が来るなんて想像もしてなかった。けど今は本当に楽しくて幸せ。金の折り鶴のように輝く英知をこうして話し合える、それだけでわたしの毎日がクレヨンの絵日記みたいに色付いていく。
 素敵な日々をありがとう、深山君。
 わたしは今、幸福のそよ風にふわりと浮かんでいた。

 結城は今、不幸のどん底にずぶっと落ちていた。
 俺達は屋上に座っている。結城は隣で顔を赤くして困り果てていた。
 理由は件の友人三人のせいである。経緯はこうだ。俺達が脳科学の話を続けてた時のこと。
「じゃあ映画を観て共感するのもミラーニューロンが関わってるんだな」
「そうそう、前に二人で観に行った映画でこんなシーンがあったよね。敵が繰り出すナイフを素手で掴んで」
「ほっほ〜う」
 俺達は同時に顔を見上げる。
 げっ、八神だ。不味い奴に聞かれちまったな。
「まさかお二人さんがそんな密会をしてたとはねえ。詳しい事情は取調室でカツ丼でも食いながら吐いてもらいましょうか? それじゃあ」
 机をバンッと叩く。
「屋上へ連行よ!」
 その後、俺と結城は友人の草薙(くさなぎ)に連れられ、屋上へ向かっていた。この男は俺より背が高く、筋肉質な体だ。髪はスポーツ刈り。確かクラヴ・マガ部という格闘系の部活に入ってたな。
「やっぱ開かないか。よし、俺ぁ久々に熱くなるぜ」
 屋上の入り口は鍵が壊れていて立ち入り禁止のはずだ。ゆえに俺も結城も屋上に入れるはずがない。しかし、である。
「これが……草薙の拳(けん)だ!」
 そう叫ぶや否や、体を一回転させた勢いからの右ストレートで、鉄製のドアノブはぶち壊されていた。
「歴史が違うんだよ」
 おいおい、公共物を破壊するなよ。いや、すでに壊れていたから構わないのか?
 結城を見る。草薙のあまりの怪力に怯えていた。仕方ないから後で「クラヴ・マガなら朝飯前だ」と嘘をついておこう。
 三人で屋上に出ると、そこには先客がいた。神楽(かぐら)が、五人分はありそうなシートを広げている。
「お待ちしておりました〜。ささ〜、こちらへ〜」
 ロングヘアで長身の女性だ。見た目は優等生で、どこかほえほえしている。しかし猫かぶりで油断ならない奴だ。教科書やノートを忘れがちで、知人からよく借りている。
 しかし、どうして神楽が先に来てるんだ? 入り口はこのドアしかない。鍵は壊れていたし、屋上はフェンスで囲まれていて外から進入できない。それになぜ五人用のシートを持参している? 屋上に集合するのは臨時の出来事だし、結城と俺の関係を知らない神楽は四人分のシートを用意する筈だ。矛盾してるだろ?
「どうかしましたか〜?」
 結城を見る。草薙以上に説明のつかない存在を前にして、ガタガタと怖れおののいていた。目から涙をちょちょぎらせている。仕方ないから後で「あいつは神様だから」と諭しておこう。
 そしてシートに座ろうとした時、八神が屋上に姿を見せる。こちらに猛ダッシュしてきて、結城の肩を掴んだ。
「結城!」
「は、はい!」
「大事な質問だから真剣に答えて!」
「は、はいーッ!」
 結城の目はグルグル回っていた。そろそろ限界が来ているのだろう。
 八神が一拍置き、こう言い放つ。
「女になった?」
 セクハラ発言だった。
「……むきゅう」
 オーバーヒートを起こした結城はそのまま膝を付いて倒れる。
「おい、結城! 大丈夫か! ……すまんな。あいつ、根っからのスケベ親父なんだ」
「何よ、こんな淑やかな美少女を捕まえてそんなこと言う?」
「自分で言うなよ」

 そんなこんなで今、結城は連中から質問攻めにされているってわけだ。顔を赤くしながら、結城は丸い菓子パンをちびちびと食べていた。
「ねえ、深山とはどこまでいった? A? B? C?」
「さっきCまで質問した奴が何を言う?」
「結城ちゃん。後で3D世界にピッタリでナイスな技、サマーソルトキックを教えてあげるぜ」
「ここは確かに三次元だが結城には絶対無理!」
「萌ちゃ〜ん。良ければ破魔矢をお売りしますよ〜。これで蒼一君とオサラバできるから〜」
「俺が災厄なのかよ?!」
「結城はナイスバディなんだから、助走をつけてフライングボディプレスすればイチコロよ! 前はオッパイで仮初めの天国行き、後ろは後頭部強打で真の天国行き。まさに『のうさつ』ね!」
「俺ぁ格闘技の究極は空中コンボだと思うんだよ。目指せ、99HIT!」
「これ、蒼一君の髪の毛よ〜。はい、あげる〜。もしも喧嘩した時は〜、たっぷりと藁人形に詰めて〜」
 もうツッコミが追いつかない。好きにしてくれ。
 ひそひそと結城に話しかける。
「悪いな。こんな悪友に付き合わせちまって」
「そ、そんなことないよ。え、えへへ」
 苦笑いしている。表に出やすい性格だな。
「おやあ? なにコソコソ話してるのかな? この八神さんに言ってミソ」
「何もねーよ。あっちいけ」
「もしかして、今度はどこのホテルでBまで行くかの相談?」
 俺はいい加減、堪忍袋の緒が切れそうになったので、八神に軽くガンを飛ばした。
「じょ、冗談よ冗談! そ、そうだ! 教室で一体なにを話していたの? ミラー何とかって言ったけど」
「あ、あの、それは」
「脳科学だよ。今はそれにハマってるそうだ。結城は読書家なんだ」
 一応、哲学って台詞は避けておいた。それから俺は、八神達にメタ認知やミラーニューロンについて簡単に説明する。
「わあ、深山君。まとめるのがうま〜い」
「結城からの受け売りなだけじゃねえか、褒めんなよ」
 ツッコミがない。八神を見ると、頑張って反芻しているようだ。
「ふーむ。メタ認知ってのはよくわからないけど、ミラーニューロンについてなら心当たりがあるわ」
 どうやら砕けた会話だけじゃなく、真面目な話にも合わせてくれるらしい。そういう所は良い奴なんだか。
 一方の二人はというと、草薙は単細胞だからついてこれてないみたいだし、神楽は超越のオーラを纏って傍観者を決め込んでるようだ。これ以上ややこしくならなくて済むから正直助かる。
「こんな話を聞いたことがあるわ。性犯罪者って、大概は共感を持ってないのよ。例えば強姦犯なんか「女は本当はやってほしいのさ」とか「抵抗するのは嫌がってるフリをしてるだけさ」とか、そんな勝手な思い込みをするのよ。何よそれ、って言いたいわ。
 だから性犯罪者の治療プログラムの中には、被害者が性被害を受けて苦しんだってことを話すビデオを犯罪者に見せて、それから被害者の気持ちを想像させながら文章を書かせるの。そうやって共感を刺激させるのね。この治療により、性犯罪者の再犯率が減ったそうよ。
 にしても性犯罪者って、そこまでしなきゃわからないだなんて最低じゃない。傷つく人を見ても共感しないなんて、人間じゃないかもね。ホント私みたいな美少女には天敵よ。おおっ怖い怖い!」
 自分の得意分野だからか、八神の説明は明朗だった。最後は余計だが。
 結城を見る。口まで出かかった言葉を飲み込むような仕草をし、渇いた笑顔を浮かべていた。
「結城、何か言いたいことがあるんなら言えよ」
「え? その……」
「なになに結城? 何でも聞いてあげるから」
「……」
「ほら!」
「……共感能力があるから、人をイジメられるんです」
 予想外の答えに俺も八神も呆然とする。
「……イジメっ子は、モノを殴るわけじゃないんです。ヒトを殴って楽しむんです。支配欲、ストレス発散、同族嫌悪、そういった欲望を満たすためにイジメます。サンドバックじゃ得られない苦悶の表情を認識して始めて、イジメが成立するんです。
 例えば、パンチで相手を殴ったとします。そしたら相手だけじゃなく、自分の手も痛みますよね? でも、その手の痛みで殴ったことが実感できるじゃないですか。
 それと同じで、殴られて泣いてる子の顔を見て、共感し、イジメの欲望の達成が確認できて、それでやっと満足できるんですよ。きっとイジメっ子にとって、ミラーニューロンで得た泣く子の痛みより、イジメ心の充実感のほうが大きいのかもしれません」
 そういや結城は言ってたよな。「ミラーニューロンは他者を知るだけ」だと。
 しかし八神はまだ納得しきれてないようだ。
「む〜ん。あのさ、結城?」
「はい」
「どうも共感と良心を区別してるみたいだけどさ、いちいち区別しなくて良いんじゃないの?」
「!」
「だってさあ、相手のことがわからないんじゃあ、自分勝手になるもんでしょ? 他人が困ってることに気づかないんだから当然の反応じゃない。自分のやりたいことだけやるんだから。
 それに相手の気持ちがわからなきゃ、優しくも出来ないわよ。当たり前でしょ、向こうの望みを知らないんだから。まずは相手のことを理解しなくちゃ何も始まらないんじゃないの?
 共感を持ってない奴なんて、はた迷惑なだけよ。相手の気持ちに気づけたら、もうそれだけで相手を傷つけられなくなるわ。逆に相手がわからないから、傷つけられるのよ。そう思わない?」
 わからないから、傷つけられる。お袋と親父のような、我の押し付け合い。俺はなんだかいたたまれなくなった。
 ……結城?
 結城の瞳には、怪しげな光が薄らと宿っていた。
 一切の冗談を許さないピンとした空気がピアノ線のように張り詰められ、結城の存在が徐々に膨れ上がっていく気がした。結城が口を開こうとする。
「――こ」
 言いかける寸前、瞳を閉じ、何かを抑えつけるかのように首を静かに振る。するといつもの結城に戻っていた。
「……それじゃあ自閉症やアスペルガー症候群の子はどうなるんですか?」
「え?」
「自閉症とは、社会性が生まれつき問題のある発達障害のことです。例えば泣いてる子を見ても「変な音を立てている」って受け止めたり、映画で二人が見つめ合うシーンでも、普通の人なら視線を顔に向けるのに、自閉症の子は背景に目を向けたりします。つまり、人をモノと捉えたりするそうです。
 一方、サイコパスと呼ばれる反社会性人格障害というのがあって、これも遺伝子が関係ある障害です。平気で嘘をついたり、暴力を振るったり、他人に対して冷徹で、罪悪感を持ちません。まさにシリアルキラーです。快楽のために殺人を犯したりもします。
 サイコパスの最大の特徴は良心の欠如。けど一方の自閉症は共感能力が低いけど良心が欠けているわけじゃないんですよ。八神さんの言い分じゃあ、サイコパスも自閉症もおんなじになっちゃいます。でもそんなわけないですよね」
 結城の口がだんだん勢いを増す。
「例えばダニエル・タメット君は、弟が自分と同じ自閉症にかかっていて、その子や他の自閉症の人達を励ますために自伝を書いたことがあるんですよ。それに同性愛者同士、パートナーと仲睦まじく暮らしています。語学の教師として一生懸命働いてもいます。とってもいい人なんです。また、狸穴猫さんもアスペですが「アスペルガーライフblog」で定型発達者研究を発表し、優れた人付き合いのアドバイスをしています。他の人も同じです。
 それなのに、それなのに……どうしてサイコパスと一緒にするんですか? 酷いじゃないですか! 自閉症の人にも優しい心があるんです! そもそも人の心なんてわたし達でも簡単に理解し合えないんですよ! 自分のことを棚に上げて、そんな言葉づかいをするから差別の温床が生まれるんです!!」
 結城がすっくと立ち上がり、大声を張り上げた。
「良心と共感をちゃんと区別して!! 言葉を大切にして!!」
 沈黙が流れる。結城の思いがけない激昂に俺達は驚いていた。
 はっと気づいた結城は、慌ててその場を繕おうとする。
「あ、あの、その」
「……結城、ありがとね」
「え?」
「私が間違ってたわ、ごめんなさい。そうね、わからないイコール優しくないってのは短絡的すぎるわ。それにイライラしてる時なんか相手の事情がわかってても優しくできなかったりするもの。結城がそれを気づかせてくれた。私の過ちを正そうとしてくれた。結城はいい人ね」
「そ、そんな。こっちこそ」
 結城は手をブンブン振って否定する。八神はポニーテールをかき上げ、結城に手を差し出した。
「ねえ結城」
「……はい?」
「こんな私だけど、お友達になってくれる?」
「……うん!」
 二人は仲良しの握手を交わす。
 結城に新しい友達ができた。それも結城の頑張りによってである。俺は無性に嬉しくなり、気づけば結城の頭を撫でていた。
「み、深山君?」
「良かったな、結城」
 そんな俺たちを見て、三者三様の反応が返ってくる。
「ったく、お熱いこって。冬なのに俺ぁ団扇がほしくなっちまったぜ」
「ヒェーヒェー、ヒェーヒェー」
「神楽、「ぇ」じゃなくて「ゅ」だからね。あーあ、私も彼氏ほしくなっちゃったなあ」
「ち、違うっての! お前らまだ勘違いしてるな!」
 三人への抗弁をよそに、結城は手のひらの中でほっこり喜び続けていた。
「えへへ」



第四章

 屋上の一件からまた数日が過ぎた。いま俺と結城は学校からの帰り道である。
 あれから結城は八神とうまくいってるようだ。前から誰かとおしゃべりはしていたが、八神とはそれ以上の親密さで繋がっていた。
 にしても今日は冷えこむな。俺も結城もブレザーであるが、結城の方は映画の日に被ってたニット帽、マフラーと手袋をしている。淡い桜色をした学生服とよく似合っていた。
 そして俺達二人は今日の帰りも哲学の話をしていた。
「原理の提出?」
「そう。哲学というゲームはね、いかに優れた原理、言い換えればキーワードを提出できるかどうかが問われる文化的営みなの」
 お遊戯の時間になってはしゃぐ子どものような、かわいい笑顔をして結城は続ける。
「まず『概念』というのを説明させてね。概念というのは、一言でいえば感覚データと感覚データを結びつける白い絹糸みたいなものなの。また、絹糸同士で結びついたりするかな。
 例えば『お花』を例題とするよ。『お花』という単語には本当に色々な感覚データが含まれているけど、ここでは五つだけにしておくね。まず一つ目、深山君が今まで生きてきた中で何度も見たことによる大雑把な視覚的感覚データ。二つ目、お花を嗅いだことによっていい匂いがする、あの嗅覚的感覚データ。三つ目、「お」と「は」と「な」を繋げて発声した音による聴覚的感覚データ。四つ目、「お」という平仮名や草冠と人偏と匕部をくっつけた記号的感覚データ。……もうここまでにしとこっか。
 それら四つの感覚データは白い絹糸で結ばれているから、わたしが「お」「は」「な」と言っただけで、深山君は「お花」という漢字やイメージを連想できる。これが概念という心の機能なの」
「それはつまりアレか? クイズでヒントを出すと、解答者がすぐに答えまで辿り着けるだろ? あれが『概念』って奴か?」
「そうそう、うまいうまい! ヒントっていうのは太くて渡りやすい絹糸を介してくれるものだから、解答者はパッと答えに到着できるってわけ。
 そして言葉のネットワークの中には、他と比べてより多くの絹糸で結ばれている部分がある。それがキーワードね。哲学ゲームは、優れたキーワードを見つけたり作ったりするのが目的なんだ」
「キーワード、ねえ」
「あと原理思考には他にも、前提条件というルールもあるわ。数学でいう公理みたいなものかな?」
「前提条件?」
「例えば深山君がお米を食べてるとするよね。なぜ食べてるかって訊いたら「お米を食べる欲望があるからさ」と答えたとして、更になぜ欲望があるのかって訊いたら、深山君はきっと答えられないと思う。仮に答えたとしても「そういうものだから」とか「欠けてるものを満たすためだから」とか、説明になってなかったり、確認しようがない物語的説明をしたり、はたまた「神が人間に欲を与えたから」なんて言い出すかもしれないわ。
 欲望というのは、まさにそれ以上さかのぼれない前提なの。そして哲学には、ギリギリまで根本的に問い詰めた末の前提条件を提出するという側面もあるわ」
 結城の『概念』と二つの哲学ルールを自分なりに噛み砕き、そしてある疑問が浮かんだ。
「となるとだ。哲学にとって『約束』とは何か、というのは究極の問いなのか?」
「え?」
「聞いた限りじゃあ、哲学ってのは言葉を重要視する文化だろ? なら言葉の問題は哲学にとって最重要課題に成り得るんじゃないかと思ってな」
 八神に「言葉を大切にして」って叫んでたし。
「ち、違うよ! 究極の問いも答えも存在しないわ! というか何でも説明できる理論は、逆に何も説明していない理論なの。
 それに、この問題は究極じゃなくて……」
 結城は物思いにふける顔をし、ぼんやりと地面を見つめていた。どうもまずったようだ。触れてはいけないものに触れてしまった俺は、別の話題へ変えようと必死に口を動かす。
「な、なあ、今の説明じゃピンと来ないからさ! こう、なんか例えを言ってくんねーかな?!」
「へ? えと、えーと? んーとそうだ! 例えば「ダフニスとクロエ」なんかだと……はわわわわわ!」
 結城が突然あわてふためき、顔を真っ赤にさせた。恥じらいを通り越して、もはやパニックである。
 これは、何かあるな。
「じゃなくて。えーと、あっ! そうそう、新渡戸稲造の「武士道」なんかそうだよ!
 えーとね、著者はある日、ラヴレー氏の家で「日本の学校では宗教教育がないのですか?」と訊かれて「はい、ありません」と答えたのよ。
 それを聞いたラヴレー氏は驚いて「宗教教育が無い? じゃあどうやって子孫に道徳教育を授けるのですか?」と返したの。著者はその質問に即答できず、愕然としたわ。
 明治の時代、日本の文化を海外に紹介して「太平洋の橋になりたい」って渡米したにも関わらず、自分は日本のことをよくわかってなくて、とっても悩んだそうよ。
 そして思索を重ねた結果、新渡戸稲造さんは気付いたの。桜と武士道が、大和魂の象徴なんだって。さらに武士道を分析し、七つのキーワード「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「名誉」「忠義」を元に英文で「武士道」を執筆したの。
 日本文化と西洋文化の比較論を展開したこの本は世界的ベストセラーになり、日本的精神のエッセンスを巧みに抽出した名作として、日本人自身にも愛され続けてるわ。これが原理思考の一つの表れかな。まさに「武士道とは死ぬことと見つけたり」だね」
「それ、「葉隠」だからな」
 てへっと自分の頭をコツンと叩く。こんな冗談も俺に見せるようになった。
「どう、わかってくれた?」
「……あのさあ」
「なに?」
「ダフニスとクロエって何だ?」
「ひゃう!」
「なあ、教えてくれよ」
 結城は頬を赤らめながら真下を向く。うん、この恥ずかしっぷりもかわいいな。
 そして結城は、ちょいちょいと手を振って「耳を貸して」というジェスチャーをした。俺はその指示に従って結城に耳を近づける。
「ふっ」
「うひゃおう!」
 耳に息を吹きかけられ、くすぐったくなった俺は驚き飛び退く。
「……深山君のいじわる!」
 ほっぺを丸くして怒りの表情をしていた。まさかこんな不意打ちをするとはな。つーか結城もいたずらっ子だったんだ。
「いいじゃねーか。気になって夜も眠れねーよ」
「ウソつき! もう知らないんだから!」
「なあ、頼むからさ」
「つーんだ」
「お願いだよ、結城」
「……」
 どうもダメみたいだ。しょうがない、諦めるとするか。
「……ダフニスとクロエは、古代ギリシャの恋愛物語なの。作者はロンゴスって名前」
 お? 話してくれるみたいだ。
「ある所に、ダフニスという山羊飼いの男と、クロエという羊飼いの女がおりました。
 幼馴染である二人は成長すると初恋に落ちるのですが、互いに「恋」を知らないので「自分達は病気なんだ」と思い込むのです。
 ある日、二人はフィレータスという老人に出会い、相談しました。すると老人は「君達は恋の特別の加護を受けている」と教えます。二人は恋という言葉を知り、そして老人から「恋に効く薬」を授かります」
 結城の顔から汗がダラダラ流れている。目が大きく見開き、かなり紅潮していた。どうしたってんだ?
「そ、その薬は三つ。ひ、一つ目は口付けを交わし、ふ、二つ目は抱き締めあい……そして三つ目はっ、服を脱いで一緒に寝ることなのです!」
「な゛!」
 劇薬じゃねえか! つーかその爺さん、只者じゃねえ!
「おーい! 結城ー!」
 って何でこんな時に八神が来る?!
 結城はまだ八神の声に気付いてない。ゆでだこ状態になりながらも話を続けた。
「ふ、二人はある朝、樫の切株で実践に移るのですっ」
「ねえー、私も一緒に帰っていいー?!」
「おい、結城!」
 マジで気付け! 止まってくれ!
「え、エッチな夢を見て、お、お盛んになってた二人は、め、目覚めてすぐに、と、床を離れて、お、お互い駆け寄り、そ、それから、それから――」
「おやー? お二人はサド伯爵もビックリなSM道具でも買おうって」
「キスするんです!」
「へ?」
「ギュッってするんです!」
「……あ、あの」
「でも本当は服を脱いでほし…い……?」
 時が止まった。エロスの時間論が世界を凍りつかせる。
 周囲にはそれほど人がいなかったとはいえ、往来の真ん中で男に向かってエロい命令をする女。明らかに淫乱女だった。
 八神を見ると、さすがの奴も硬直していた。
「ふえーん!」
 結城が突如、脱兎のごとく走り出す。
「おい待て! 結城!」
 俺は八神をほったらかしにして結城を追いかけた。
「……お、お幸せに〜」

「な? 大丈夫だって! あとでちゃんと説明すれば八神だってわかってくれるよ」
 結城は何とか泣き止んだようだ。でもまだズッシリと落ち込んでいる。
「脱いだって台詞は二人がジジィの薬に従ってことなんだろ? その前後のストーリーを言えばいいんだって。んでダフニスとクロエが、そのあと愛し合ってさ。めでたしめでたしになって」
「愛し合ってないもん」
「は?」
「服を脱いでほしいってダフニスは思うけど恥ずかしがって言い出せず、クロエも自分から脱ぎ出せないの。偶然二人は横になるけど、フィレータスの言葉の意味がよくわからず、本当に横になるだけなの」
 ピュアすぎるぞ、そいつ等!? 何でそこまで無垢なんだよ?!
「つまりね、二人の中で恋という現象は起きてるの。胸がドキドキする、食事も睡眠もロクに取れない、会いたくてたまらない。でも、それだけじゃあバラバラだから繋ぎ合わせないと「恋」は育まれないわ。人間は経験をただ集めるだけじゃなく、それを結びつけないと途方に暮れちゃうの。そして言葉を成熟させるには概念が重要になってくるってわけ」
「そ、そうだったのか。悪いな、変なこと解説させちまって」
「ううん、私が悪いの。もっと冷静に教えれば良かったにすぎないんだから」
 そのまま俺達は黙ってしまい、通学路を歩くだけだった。
 再び気まずい空気になる。どうにかして打開せねばなるまいな。
「……なあ。結城が今ハマってることってなんだ?」
「えーと、そうねえ」
「何でもいいからさ、聞かせてくれよ」
「それじゃあね、こんなのはどうかな?」
 結城が少し真面目なモードに入る。
「ここに一本のマッチがあるとします」
「ふんふん」
「このマッチに、もう一本のマッチを持ってきたらどうなる?」
「え、えと? 二本になるだろ?」
「それからね、元のマッチを半分にすれば、その場合もマッチが二本になるわよね?」
「まあ、縦割りにすれば、そうなるかな?」
 何が言いたいんだ? 話の先が全く見えない。
「ねえ、これって凄いと思わない?」
「??」
「一体どうして、合わせることと、分けることという正反対の操作から、同じ「二」が生まれるんだろう? とっても不思議でしょ?」
 さっぱりわからなかった。問題自体が理解できない。まさにガチな哲学的問いだった。
「あ、あの〜。結城さん?」
「? なあに?」
「その問題に、どういう意味があんの?」
「というと?」
「その、さ。押し付けがましいかもしれないけど、人生に目的はあるんだろうか、とかさ。社会における正義とはどのようなものか、とかさ。そういうのを考えたほうが」
「それは一般人向けの問いね」
「え? じゃあ逆のは?」
「世の中には哲学者向けの問いというのもあるの。いい、深山君? 哲学者向けの問いというのをしっかり考えないと、深山君のような問いには満足に答えられないわ。哲学者向けの問いから、一般人向けの問いの答えまでの道のりは簡単に見通せないし、一筋縄ではいかない。でもね、この二つは全くの無関係じゃないの」
「……このマッチの問いが、人生論と関係あるっていうのか? 俺には、どうしてもそうは思えない」
「……確かに深山君の言う通りかもしれない。それについては言い過ぎたかもね。でも、この問題はとっても魅力的だわ」
 そういい終わると、結城はブツブツと考えに耽っていった。顎に手を置きながら歩いている。
「そもそも数というのは何なのかしら。数について考える場合、まず序数と基数の分け方があって」
 結城は本当に哲学者なんだな。こんな問題に熱くなれるなんて素質がなけりゃ無理だ、と半ば呆れながらも感心していた。きっと俺なんかでは思いもよらぬ所から一歩踏み出し、予想もしない道を辿って、重要な答えに至るのかもしれない。
「序数を可能無限、基数を実無限と捉えられないかな? そして集合論的に」
 足取りがおぼつかないが、きっと結城なら大丈夫だろう。俺は見守るように後ろからついていった。
「けどde dicto様相を実無限としたら、可能無限をde re様相に代入しちゃうと」
 結城は横断歩道を渡ろうとする。俺と一緒に帰るようになる前は、こんな風にフラフラしつつもちゃんと道を歩いてたのだろう。信号機に目を向ける。
 赤信号だった。
「うーん、抱握で数を考えると、基数を活動的存在に、序数が永遠的対象となって」
「危ねえ!」
 後ろからガッと襟首を掴み、一気に引っ張った。そのすぐあと、結城のいた場所にトラックが走り去っていく。
 間一髪だった。
「何するの!」
「それはこっちの台詞だ! もう少しで死ぬとこだったんだぞ!」
 結城が俺の手をはたく。
「思考の邪魔されるくらいなら死んだほうがマシよ!」
 結城の瞳を見る。そこには寒気がするほどの危険な眼光が映っていた。もはや刀と変わらぬほどに危うい視線が、異様なまでに研ぎ澄まされた鋭利な目に籠められている。その切っ先をただ一点にだけ集中し、俺を射抜く。
 それに全身から発せられる雰囲気も尋常じゃない。まるで血が蒸発したかのような暗黒さを身に立ち昇らせていた。それこそ別人のようだった。
 はっとなった結城は、自分の発言にうろたえだす。
「わ、わたし、なにを言って……」
「……結城?」
「ごめん! わたし帰る!」
 そう言うと青信号になった横断歩道を、結城はダッと走り去っていった。
 かなり遅れてから追いかけようと思ったものの、すでに黄色信号に変わり始めていたので、それは叶わなかった。
 赤信号が、俺達を分断するかのように点灯する。俺は遮断された道の前で立ち尽くしていた。



第五章

 次の日の学校で、結城から即座に謝罪してきた。
「昨日は本当にごめんなさい!」
「……あ、ああ。いいって。結城が無事なら、それで」
「ううん、命は粗末にしちゃいけないのに。命あっての物種なのに」
「だからいいって。今度からちゃんと道を歩くならさ」
「……うん、ごめんね」
「わあったわあった、もうこの話はこれでお終い!」
 本当は詳しく聞きたい気持ちもあったが、このままだと謝ってばかりになりそうだったから切り上げることにした。俺は結城の辛そうな顔を見たくないのである。
「でも、不思議」
「なにが?」
「わたし、帰り道であんな風になったの初めて」
「そうなのか?」
「うん。それに、どうしてあんな恥ずかしい恋愛物語を持ち出しちゃったりしたんだろ?」
「そ、それは……」
「本当に何でだろ? 深山君といるとわたしの全てがさらけ出されるみたい。そしてわたしの中で深山君がどんどん大きくなってくるの」
 結城が両手で肘をつき、こちらを見つめてくる。
 その瞬間、世界の空気が変わった。
 クラスの雑音が消え去り、大気が俺達の周りにだけ圧縮されたような気がした。ビデオカメラのピントが俺達にだけ合わせられ、他の全部は輪郭がぼやけてしまったかのようだ。何も変わってないはずなのに、何かが変わった。
「ねえ、深山君……」
「……」
「あなたは一体誰?」
「……」
「わたしにとって一体何?」
「……」
 結城の瞳がいつものと違う。けれど昨日のような貫く目線ではない。むしろ瞳からはミステリアスな霧が放射されるみたいに分散されていた。
「お、俺は……」
「って何わたし変なこと訊いてるんだろ? 自分のことぐらい自分でわからなきゃいけないのに!」
 普段の結城が帰ってくる。そしておどけるように、照れ隠し気味の自嘲をしていた。
 思えば結城は、正常に戻るのがとても早い気がする。メタ認知ってやつを働かせまくりなのか? だとしたら結城の前頭葉は凄く発達しているのだろうな。
「萌ちゃ〜ん!」
「あ……か、神楽さん」
「はい、借りてたノートを返すね〜。ありがと〜」
「い、いえいえ。お気になさらずに」
 用を済ませた神楽はすぐに去っていった。今度は結城から借りてるのかアイツ。それにどうも結城は神楽に対し、苦手意識が拭い切れてないみたいだ。当然といえば当然か。
「にしても、萌、か。お前には萌え要素なんてないのにな」
 勿論、そんなふうには思ってなかったが、適当節に言ってみる。
「そ、そうだね。『萌え』について調べてみたことあるけど、わたしとは程遠い存在だったもの」
「え? 調べたことあるの?」
「う、うん。だって自分の名前が世間で誉めそやしているもん。気になってわたしなりに考察したことあるわ」
「へ〜。どんなものか、ぜひ伺ってみたいな」
「……」
「? どした?」
「な、何でも。けど説明するのに、ちょっと資料が必要かな。パソコンがあればいいんだけど」
「じゃあ俺ん家に来いよ。パソコンあるからさ」
「ええ?」
「嫌か?」
「い、嫌じゃないけど」
「じゃ決まりな!」
「……うん、わかった」

 わたしは今、深山君の部屋にいる。少しゴチャッとしててとても男の子らしかった。それに深山君の匂いが部屋に染み付いていて、何だかドキドキした。
 パソコンの前に座りながら、わたしは萌えの例題を次々と見せていく。それを深山君は立ちながら聞いてくれていた。
「これがツンデレ、これがメイド、これが妹、そしてネコミミ、委員長、お嬢様、幼馴染、巫女さん、魔法少女、アホの子、ロリっ娘。マニアックになってくると電波、メカ少女、ロリババアなどがあるわ」
 深山君はよくわからないという顔をしている。わたしもよくわかってない用語があるしね。
「そしてこれらの形式を作り手側が二次元のツールを利用して、とても可愛らしいキャラを作成するの。それから出来上がった作品を不特定多数の人が鑑賞する。それにより受け手側は好感を持ち、満足して、評価を下すわ。萌え文化については大体こんな感じかな」
 どうも調子が出ない。変だな? 何だかいつもと違う気がする。
「成程。アニメの制作者が萌えを作り、オタク達がそれを受け止めるんだな」
「正解。ある一定の型を作り手が選択し、その型の元でキャラが誕生して、受け手が消費するの。その流れが萌え文化ね」
 ああ、そっか。解説が硬すぎるんだ。もっと柔らかい言葉を使わないと。
「でも、これだけじゃあ『萌え』を説明したことにはならないわ。これを見て」
 わたしは「ニコニコ動画」のサイトに入り、目的の動画にアクセスした。ある萌えアニメの名場面集が画面に映る。
「へえ。画面にコメントが横切るんだ。それに意外と、文字のせいで動画が見にくくなるってこともないな」
「そうだね。あ、そろそろ超が付くほどの人気キャラが登場するシーンよ」
 すると突然、暴風雨が到来したかのように「うおおおおおっ」とか「キターーーーー!」とか「○ ○ ちゃん、萌えーーー!」といった文字が大量発生した。
 深山君が呆れ顔をする。
「……コメントのせいで画面が全然見えねえ」
「うん。でも、これが重要なのよ」
「どういうことだ?」
「これはわたしの解釈にすぎないけど、人間って叫ぶ動物なんじゃないかな?」
「叫ぶ?」
「まず、可愛いと美しいは違うわよね? 美しいは、大人の女性の美貌を褒める言葉だわ。でも可愛いは、逆に小さな子の愛らしさを褒めるのに使用する言葉でしょう。
 例えば、ある老人が可愛い孫娘の頭を撫でてやってるとするじゃない。「おお、可愛い可愛い」「うん、ありがとう」って感じで、愛でたりするでしょ?」
 深山君が屋上で頭を撫でてくれた時のことを思い出す。ほんの一瞬だけ、調子が戻った気がした。
「でも、老人は絶叫するほどに愛でたりするかしら? せいぜい、ゆるりとした面持ちと和やかな気持ちで接すると思われるの。
 しかし二次元の創作なら、いくらでも可愛さを形式に注ぎ込めるので、普通以上に愛らしい存在が創造可能になる。それこそ、技巧を尽くし、可愛いというイメージを思いの限りぶつければ、凄まじい魅力を持った可愛いキャラが完成する。
 そして受け手側が拝見し、そのキャラが持つクオリティを認識し、ただの可愛いを凌駕した存在に対して、人は絶叫するわけ。
 つまり『萌え』のキーワードは「叫びたくなるほどのかわいさ」なの」
「……そうか。成程、ね。うん」
 バカバカ、どうしてこんなにわかりにくい説明をしちゃうのよ! 深山君もわたしの調子がおかしいことに気付いてる。でも、どうすることも出来ないわたしはそれを無視して、話を続けた。
「そしてこの萌え文化とよく似たもう一つの文化があるの」
「何だそれ?」
「ロック・ミュージックよ」
「はあ?」
「ロックにも様々な形式があるわ。ハードロック、ヘヴィメタル、デスメタル、パンク、ラウドロック、ハードコア、ニューウェイブ、サイケデリック、ブラスロック、オルタナティブなどなど。
 アーティストはこの形式の中からどれか選択して、そのカテゴリーに沿ったメロディをギターやドラムやベースで生み出すの。それを観客が聴き、素晴らしいロックなら熱く激しく興奮して絶叫するわ。
 つまりロックもまた『叫び』を目標にした音楽文化なの」
「……ホントだ。似てる」
「でも勿論、萌えとは方向性が違うわ。ロックのキーワードを一言でいえば「叫びたくなるほどのカッコイイ曲」といったところかな?
 萌えの世界でも『ヤンデレ』はかわいさや一般受け度が足りないせいか需要が少ないし、ロックの世界でも『ソフトロック』はジョージ・カーリンが「ロックに『ソフト』という言葉を充てることは、ロックのファンの多くを怒らせる」として批判しているの。どちらも本筋からあまりに外れているからでしょうね。
 萌えは徹底的にかわいさを、ロックは徹底的にカッコイイ曲を追求する文化だわ。一見、似てなさそうに見えるけど、どちらも『叫び』という到達目的基準では共通してるのよ。
 わたしが「人は叫ぶ動物?」って言ったのも、何となく「どの世界でも人は似たようなことをしているのね」って思ったからなの」
 深山君は頭を整理するため「うーん」と部屋の中を徘徊し始める。
 わたしはそのまま座りながら、キーボードで「萌」という漢字を入力した。じっと画面に映る文字を見つめる。
 そう、わたしの中にも『叫び』がある。地獄から湧き上がってきたような『叫び』が。
 バックスペースキーで「萌」を消したあと、次に「ゆうき」とひらがなを打ち込んで、変換キーに指を添える。
 どの苗字の家に生まれるかなんて選べない。それにきっと親は、温かい思いを込めてわたしの名前をつけたのだろう。だけど……
「わたしは、この名前が嫌い」

「おい、結城?」
 こちらに背を向ける結城に問いかけた。あいつ、本当にどうしちまったんだ?
「萌えは叫び、か。まるで呪いみたい。きっとこの一文字によって、わたしの中に狂気が巣くうようになったんじゃないかな。それに下の名前だけじゃなく、上の名前もわたしにお誂え向きよ。一体、どういう因果論なんだろうね?」
「なあ、さっきから何を言ってるんだ?」
「深山君。昨日のことを覚えてる? わたしはどういう瞳をしてた? ……それはきっと、こんなふうじゃなかったかな?」
 結城が振り向く。その瞳には昨日と同じ、危険な眼光が宿っていた。結城は意図的に、あのゾッとするような目線をこちらに向けていたのである。
 結城が後ろ手に変換キーをタンッと押す。「ゆうき」というひらがなが「幽鬼」と変換されていた。
 幽鬼、オニ、つまりダイモニオン(鬼神)のことか!
「どう、深山君? これがわたしの本性よ。わたしは普通の女の子じゃない。こんな鬼の叫喚を宿らせた危険人物なの」
 これが少女の出せる殺気か? ビリビリする眼力に俺は完全に圧倒されていた。濁流の如き威圧感、剣山に刺されるような皮膚の痺れ、閻魔を相手にしているみたいな緊迫感。
 でも俺は怯みそうな心を捩じ込んで、反論をぶちかます。
「そんなの結城だけじゃねえだろ?! どの世界にも求道者ってのはいるもんだ! そして、その道を極めようとする連中のおかげで、その世界は飛躍的な発展を遂げたりする! 求道者イコール悪じゃない!
 そもそも結城はすぐ正常に戻るじゃねえか! メタ認知ってのを活用してるから即座に自分の間違いを正せてる! そんな結城なら危険人物リストに入ったりしねえ!
 結城は普通の女の子だよ! 大体、何で自分を貶めようとする? 結城は結城だ!」
 相変わらず後半になると何が言いたかったのかよくわからなくなってしまう。でも、結城なら理解してくれる筈だ。
 結城は危険な眼光をスッと収めてくれた。
「ありがとう。でも、わたしは……」
「私は?」
「……」
「……」
「深山君」
「何だ?」
「わたしの家に来ない?」
「え?」
「ううん、来てほしい」

 夕暮れの町を二人で歩く。遠くのほうで雲がどんよりしていた。明日は雨が降りそうである。
 結城は歩を進めながら、昔話を聞かせてくれた。
「わたしは小さい頃から変な子だった。同じ年頃の子におかしな質問をしては苦しめたり悩ませたりして、とっても浮いていたわ。まさに幽鬼ね」

――どうして砂のお城を作るの?
――作りたいからだよ
――どうして作りたいの?
――そ、そんなの周りが作ってるし……
――どうして周りが作ってると欲しくなるの?
――うるせえな、こっちくんな!
――きゃあっ!

「哲学的な問いって、問題そのものが誤解されやすくてね。ママも理解してくれなかった」

――萌、こんな時間までどこ行ってたの!
――え、えと
――前に約束したでしょ! この時間までに帰ってきなさいって!
――ねえ、ママ?
――何よ?
――約束って、なあに?
――パァン!
――とぼけるつもり? ちゃんと門限を決めたでしょ!
――うああああんっ! ごめんなさーい!!

「それからすぐだったわ、わたしの目の前で両親が車に轢かれて亡くなったのは。その時のことは薄らとしか覚えていなんだけど。……全くもって変よね? それでトラウマになるどころか、轢かれて死んでも構わないだなんて。
 両親の遺してくれた保険金が一括で入ってきて、経済面では困らなかった。でも、わたしは生きていくためにも普通の子にならなきゃって決めたわ。子ども社会から阻害されないために必死で普通を装った。その努力が実ってか、次第に偽りの仮面は、自分のもう一つの顔になっていった」

 こぢんまりとした綺麗なマンションの通路を歩く。大きさからいって恐らく1Rなんだろう。そして俺は、今の話で気付いた疑問を口にする。
「もしかして、映画で着てきた服って、前日に買ったものなのか?」
「!?」
「すげえ似合う服を着てきたからさ、てっきり一人ショッピングでもしてるんだろうって思ってた。でも昔から保険金暮らしなんだろう? それって新しい収入が一切ない生活だから、心理的にいって、最初から倹約志向の生計になるんじゃないか?」
 オシャレ着を普段から持っているか否かであり、保険金生活だから前者は難しい、それゆえ前日に購入した。単純な三段論法である。
「……一人暮らしでも身だしなみをいつも心がけている人だっているよ?」
「今更ごまかすなよ。言葉を大切にするんだろ? 身だしなみとオシャレじゃ意味が違う」
 身だしなみはあくまで清潔になるためであり、オシャレとは他人に対して美しさを魅せるためにある。
「それに、顔に出てる」
「……さすがだね、深山君。推理だけで真実を言い当てるなんて、まるで物体の運動を計算式だけで予測する科学者みたい。ううん、名探偵だね。とってもロジカルな、探偵さん」
 結城が鍵を開け、室内が眼前に広がる。
 俺は自分の目を疑った。

 なにもなかったのである。

 まるで新居そのものだ。テーブルもない、タンスもない、本棚もない、カーテンもない、テレビもない、冷蔵庫もない。質素どころではなかった。
 あるのはベッドと、机ぐらいだ。生活感が全く感じられない。
 俺は驚きつつも室内に招かれた。結城が換気のために窓を開ける。
「子どもの時から物を溜め込まない性格だったけど、これほどじゃなかった。両親がいなくなって、新しい家に来てからずっとこんな感じで住んでいるわ。
 この家にいると、何だか思考が研ぎ澄まされていく気がするの。余計な情報に掻き回されず、沈思黙考になれて、本当に哲学をしてるみたいになれる。ただひたすら『約束』について考察できる。
 きっとママとお別れする前だったからかな、わたしがこの問題にこだわるのは? 心労による不注意で交通事故、という訳ではないみたい。でもね、この問題のせいで、わたしはママに迷惑をかけてしまったままなの。困った子ね、って心配させたまま死んでいったと思うの。だからわたしは、そんな因縁深いこの問題を解かないと前に一歩踏み出せない気がするのよ。
 でも何度挑戦しても『約束』が何なのかが解けなかった。そして何度も諦めた。わたしはずっと、この迷宮にさ迷い、挫折して、立ち止まったままでいる。
 あの日の哲学の授業で、社会契約説を習ったでしょ? あれがキッカケで『約束』に挑もうとする火が再燃したわ。……そして、深山君に隠し事がバレた」
 そうか。結城にとって『約束』は究極の問題じゃない。切実な問題だったんだ。切なげで悲しげな、あの寝顔と黙考はそういう意味だったのか。
 結城は押し入れから収納ケースを引き出し、箱を開ける。
 中に入っていたのは、スポーツブラやレギュラーショーツ、そしてジャージなど色気のないものばかりだった。その一角に、他のとは違う異質な服がある。
 ウサギのプリントをした、あのカーディガンだった。
 結城はその服を取り出し、胸に抱き寄せた。
「定員さんと色々相談して大変だったわ。ファッションなんて全然わからないもの。でも、とっても心踊る一時だったわ。
 そして深山君のおかげで八神ちゃんとお友達になれた。ちょっとエッチだけど、とっても優しくしてくれる。
 なのに、お友達になる前だったとしてもよ、屋上で八神ちゃんに何て言おうとしてたか、わかる?」
「もういい、言わなくていい」
 そんなのは「こ」と鬼神だけで十分に想像できる。
 一陣の風が部屋を横切った。

「……ころすぞ、って言おうとしたんだ」

 言葉にしなくていいことだってあるのに。どうして俺なんかに、そこまで打ち明けてくれるんだ?
 結城は堰を切ったかのように嗚咽と慟哭が入り混じった声を上げた。
「わたし変よ! ちょっと言葉づかいが悪かったからって、どうして死んじゃえだなんて言おうとしたのよ! そんなのおかしいよ!
 それにこの部屋も変! なに、この殺風景な家は?! なんでこんな所で暮らしていて平気なのよ! 一日中イスに座って考えを巡らせて、それで満足? そんなの普通じゃない! どうしてなのよ? どうして?
 深山君とおしゃべりしてると凄く楽しくなる。今まで哲学を語れるお友達なんていなかったから。でも、おしゃべりするようになってから、わたしの中の狂気がどんどん膨らんでくる。お話するたびに狂ってくる! もう一つの顔が蝕まれていく! 普通じゃなくなっていく!!
 わたし、諦めればよかったんだ。ううん、諦めてた。こんなわたしに普通の暮らしなんて出来っこない! ずっと『約束』だなんて訳のわからない迷宮に閉じ込められて、この何もない部屋で死んでいくんだ! もう、そのつもりだった。そう決めていた。
 なのに、なのに……」
 結城は大粒の涙を一筋こぼして、カーディガンをギュッと抱き締める。
「……どうして、この服を買ったんだろ?」

 どんな言葉をかけてやれば良かったのかわからなかった俺は、そのまま結城の家から出ていって、今は夜の帰り道である。
 とぼとぼ歩きながら、俺は考えた。
 新居みたいな家だと最初は思ったが、それは違っていた。
 部屋に、結城の匂いが染み付いていたのである。確かにあそこで、一人の少女が住んでいるのだ。けれど、その少女はいま一人で寂しく暮らしている。
 だが、しかし。
 俺は街灯の下で、地面を見つめながら呟いた。
「結城、俺はどうすればいいんだ?」



第六章

 次の日、俺はトイレを済ませたあと学校の廊下を歩いていた。
 今朝からずっと結城とは話をしていない。結城は前のように黙考に耽っていた。ノートには「約束とはどのようなものか」
 俺のほうも、腑抜けた気分で退屈な授業を受けていた。一人で弁当を食って、一人で休み時間をボーッと過ごす。昔のようなくだらない半日だった。
 そう、俺達はただ昔の関係に戻ったにすぎないのである。ただそれだけである。
 やり場のない虚しさを胸に、薄暗いリノリウムの廊下を進む。
「ん?」
 あの悪友三人が廊下で待ち伏せしていた。きっと、結城の異変に勘付いたのだろう。
「あのなあ、俺と結城は別に何の関係もないから」
 神楽がクスクスと笑う。
「ふふふ〜、第一声がそれだなんて、自分から答えを言ってるようなものですよ〜?」
「う゛」
「蒼一君〜、まさか天からのご託宣でも授からなきゃ〜、自分の気持ちにも気付けないんですか〜?」
「だ、だからそれは違うって」
「……ねえ、深山」
「八神?」
 俺に近づいて来た八神は半泣きであった。
「お願い! 私の友達を助けて! あの子、ピンチに陥ってるわ。何とかしてあげたい……」
「……」
「けど私じゃどうにも出来ないの! だからお願い! あの子を助けてあげて! それが出来るのは、きっとアンタしかいないのよ!」
「でも、俺は……」
「うし! なら俺ぁここで一つ、お前にアドバイスをくれてやるぜ」
「アドバイス?」
「落とし神ってゲーマーの言葉だ。決戦の場に挑む時には、あえて使い慣れた武器を持っていったほうがいいってよ」
「はあ? 何だよそれ?」
「得意ジャンルで攻めろってことさ」
 草薙は拳で俺の胸を軽く叩く。
「俺ぁここまでしか出来ねえ。あとは頑張んな」
「ご健闘をお祈りしてます〜」
「……頼んだからね」
 三人は好き勝手に言ったあと、立ち去っていった。
「……」

 放課後、一緒に帰らないかと結城を誘った。最初は断られたものの、無理矢理に了承させた。けど学校と同じく、帰り道でも俺達は何も会話はしなかった。
 その途中、昨日の予想通り雨が降ってきた。
「うう〜! これだと雨宿りしなきゃいけないね!」
「よし、あそこに入るぞ!」
「え? カラオケボックス!?」
 俺達は急遽、そこで雨が止むのを待つことにした。このぶんならすぐに晴れそうだからである。
 料金は結城の分も俺が払った。保険金で暮らしてるコイツの分まで肩代わりできないほど甲斐性なしじゃない。
 室内に入るも、俺達は黙ったままだった。歌うつもりは全くない。
 ソファーでお互いにもたれ合いながら座る。結城の体温は温かかったけれど、心は離ればなれである。共通していることといったら二人とも虚ろな目で壁を見つめているくらいか。
 沈黙が箱の中を支配した。
 ちらっと結城を見る。とても悲しそうな顔をしていた。鬱屈した気持ちで塞ぎ込んでいるのだろう。
 このまま俺達は離れたほうがいいのだろうか? 俺と話をするたびに鬼神が膨れてしまうと当人が言っていた。それに俺と仲良くする前まで、結城はそれなりに普通の生活をしていたのだ。なのに俺と関わったことで崩れてしまった。俺が壊してしまったんだ。なら当然、離れるべきなのだろう。もう結城の笑顔が見れなくなったとしてもだ。
 やるせない気持ちになった俺は、首を反対方向に向ける。目にカラオケマシーンが映った。その機械を凝視する。
 俺に出来ることは本当に何もないのか、このまま終わらせてしまっていいのか、それを考え続けながらカラオケマシーンを眺めているうちに……

 あいつらの顔を思い出した。

「……」
 ありがとな、悪友三人。
 俺は今しがた思いついたことを実行するために立ち上がる。
「よし、歌うか!」
「へ?」
 驚く結城をよそに、俺はリモコンを操作し、歌いたい曲を入力する。そして画面に曲名とアーティスト名が映し出された。

Extreme Ways:Moby

「英語の歌? あ、いや日本人でも曲名やアーティスト名が英語の場合もあるから」
「偶然にも正解。まあ歌詞の意味なんてわからないけどな」
 嘘だった。本当は気になって、日本語訳をネットで調べてある。
 この「Extreme Ways」は、スパイアクション映画「ボーン・アイデンティティー」を始め、「ボーン三部作」の主題歌で使われたロック・ナンバーである。三作ともサターン賞にノミネートされた。
 一作目の「アイデンティティー」で、フランク・マーシャルはこう語る。「九・一一のアメリカ同時多発テロにより、この映画が今の時代に合うか問われた」と。しかしそれでも本作はジェイソン・ボーンというストイックで人間的な主人公を生み出し、知的でリアリティのあるアクション&サスペンスにより、混迷する21世紀の中でも大ヒットを記録した。
 二作目の「スプレマシー」では、ハンディカメラの撮影によるドキュメンタリータッチな映像と細かいカット割りなど、ポール・グリーングラス新監督の特徴的な演出術は、のちのアクション映画に大きな影響を与えた。ドキュメントのパワーとフィクションの魅力を両方兼ねたこの手法は、例えば「シリアナ」「ミュンヘン」などの社会派映画のアクション演出で見られる。
 三作目の「アルティメイタム」だと、カット割りの量が半端ない。スローや早送りといった演出はせず、四千カットもの映像を繋ぎ合わせることでスピード感溢れるアクションシーンを演出した。通常のアクション映画なら千カットほどであるから、その違いは一目瞭然である。
 さて、なぜ英語の歌を歌うのかというと、ただの照れ隠しだからだ。直球で歌えるほど俺はキザじゃないからな。
 女がピンチの時に男がするべきことといったら、そんなの一つしかねえ。助けようと奮闘するのみだ。
 哀愁あるイントロが流れ始めた。
 結城。お前を想いながら、俺は歌うぜ!

Extreme ways are back again(ギリギリの人生にもどっちまうのさ)
Extreme places I didn’t know(こんな酷い所だとは思ってもみなかったよ)
I broke everything new again(また俺は新しい人生をぶち壊した)
Everything that I’d owned(積み上げてきた全てをだ)
I threw it out the windows, came along(俺はまともな生き方を捨てた)
Extreme ways I know, will part(堅気になんかなれるはずが無い)
The colors of my sea(それが俺にぴったりの生き方)
Perfect color me(芯までどっぷりなのさ)

――家族も、好きなこともわかんねえ。そんな俺がマトモになれる筈ない。
――結城のこれまでを潰しちまった。だから最低な人生に戻って当然だよ。

Extreme ways that help me(酷いやり方だが悪くはない)
They help me out late at night(特にこんな真っ暗な夜)
Extreme places I had gone(どこにも望みのない酷いところさ)
But never seen any light
Dirty basements, dirty noise(汚ない地下室 嫌らしい雑音)
Dirty places coming through(最悪なところに来ちまった)
Extreme worlds alone(恐ろしく孤独な世界)
Did you ever like it planned(お前にこんな人生が想像できるかい?)

――あんな部屋で生活してれば頭は冴えるって? 結城はどうかしているよ。
――きっと生まれつきの哲学者なんだ。それゆえにアイツは孤独なんだろう。

I would stand in line for this(死ぬまで逃れられないのさ)
There’s always room in life for this(この薄汚い部屋で死んでいくんだ)

――でも俺は、結城が好きだから! 好きだから!!

Oh baby, oh baby(あぁ 大切な人よ)
Then it fell apart, it fell apart(俺は落ちていく 真っ逆さまに)
Oh baby, oh baby(あぁ 愛する人よ)
Then it fell apart, it fell apart(地獄へ落ちていく 真っ逆さまに)
Oh baby, oh baby(あぁ 大切な人よ)
Then it fell apart, it fell apart(俺は落ちていく 真っ逆さまに)
Oh baby, oh baby(あぁ 愛する人よ)
Like it always does, always does(逃れられない運命なのさ)

 結城はぼんやりと俺を見ている。構うもんか。二番、いくぜ!
 そうやって息を吸い込んだ時だった。

「……え?」

 結城が素っ頓狂な声を出す。顔を見ると何かとても驚いている様子だ。
 危険な瞳ではないが、目が大きく開いていて、バカみたいに口をあんぐりさせている。肘をついてた頭を少し上げた姿勢で固まっていた。
 そして突然のように満面の喜びを浮かべ、はしゃぎだしたのである。
「……やった。やったやった! ついにやったー!」
 結城はピョンピョンと部屋の中を飛び回る。事態についてこれない俺は戸惑うばかりだった。
「お、おい? どうしたんだよ?」
「深山君、ありがとう!」
「へ? 何が?」
「解けたのよ! 『約束』とは一体何なのかが!」
「そ、そうなのか?!」
「勿論、完璧じゃないわ。でもかなり妥当な線よ!」
「へ、へぇ〜?」
「それもこれも深山君のおかげなんだから」
 俺が? 俺が何したってんだ?
 そう質問しようとした時、部屋の備え付けの電話が鳴り、結城が出る。
「あ、はーい。もう時間ですねー。わかりましたー」
 どうやら退出時間がきたらしい。結城はニコニコと帰り支度をし始める。一方の俺はというと、まだ呆然としていた。
「深山君」
「な、何だ?」
 結城は真剣な表情をする。
「わたしの答えを、あなたに聞いてほしいの」
「……」
「世界中の誰よりも先に話すわ。そして深山君に正否、ううん、良否をくだしてほしいの」
「……ああ、わかった」
 俺は気を引き締め直し、帰りの用意をする。それこそ決戦の場に挑むような趣きになった。結城がどうしても聞いてほしいって言うんなら、俺はしっかり聞くまでである。
 ドアをくぐる時、結城が何かをささやいたような気がした。
「哲理は理想にも現実にも負けない」





【読者への挑戦状】
筆者:読者諸君、私はいま諸君に対して挑戦する。
とはいえ何も「唯一絶対の真犯人を当てよ」というつもりはない。それは哲学ではない。
なら諸君が挑むべき問いとは何か。
それは「誰もが納得できる哲学体系を構築してみせよ」である。
そしてもう一つ「哲学者の心を暴いてみせよ」にも挑んでほしい。
フェアプレイを規すため、必要な情報は全て提出した。
さらにヒントも示してある。あとは諸君の頭脳次第だ。
何も案ずることはない。答えはいつも諸君の心の中にある。

※ 本作品の「解答編」は十二月三十一の正午、または十八時の投稿予定です。なお、こちらの諸事情により「解答編」が投稿されなかったとしても、当方は一切の責任を負わないことを予めご了承ください。
真柴竹門 

2010年12月28日(火)13時11分 公開
■この作品の著作権は真柴竹門さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
【あとがき】
はじめまして、真柴竹門(ましば たけと)です。
この作品は私にとって処女作となります。小説のイロハも知らないので拙い部分もあるかと思われますが、楽しんで頂けたら幸いです。
「萌え」と「哲学」の融合、という素敵にバカな「哲学的な彼女」企画を知ったのは十二月一日でした。ですので、もしも飲茶さんが締め切り期日を延長せずに十一月で終らせてたら完全にアウトだったのです。
全体的なテーマは「哲学とは何か?」「哲学者とはどんな人種なのか?」「哲学的知識とはどういうものか?」の三つを一気にチャレンジしてみました。それからこんなところでしか発表できないであろう「萌えとは何か?」も取り上げました。
ミステリーの面では、フーダニット(約束論の核心)」「ハウダニット(約束の過程)」「ホワイダニット(ヒロインの動機)」を盛り込んだ【読者への挑戦状】で構成されております。良かったらチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
あとラノベはあまり読まないので、代わりにエ○ ゲー的感性を用いています(笑)。私としては「面白いエ○ ゲーは主人公も魅力的だからヒロインも輝けてるんだ!」という信条を持っておりますので、ヒロインだけでなく主人公にもこだわってみました。
タイトルのほうなんですが、当初は「恋人は哲学者」という超ひねりのないタイトルでしたので『このままでは不味い』と思い、アニメ版「ななついろ★ドロップス」のOPテーマ「Shining stars bless☆」から取ってみました。
これは構想期や執筆期の一休み中によく聞いてまして、『本作品のテーマソングか?』と疑うくらいマッチしていたため、これをタイトルに持ってきたわけです。なお原曲と本作を区別するため、本作のほうは「☆」ではなく「★」にしときました。
芦辺拓先生が「りら荘事件」(鮎川哲也)という探偵小説に対して「おもちゃ箱をひっくり返したようなミステリ」と高評価しています。
この言葉は私にとっても同じことが言えて、まさに私にとって本作品は「おもちゃ箱をひっくり返したような哲学ミステリー」です。
今回のような機会を与えてくださった飲茶さんと、そのユニークな企画にここで感謝の意を申し上げます。
最後に、私が敬愛する城平京先生の一言を持って「作者からのメッセージ」を終らせたいと思います。それでは……
――読者の皆様に、どうか機嫌良く読み終えていただけますように。


【追跡しづらいと思われた参考資料の提出】
「本」
西研「ヘーゲル・大人のなりかた」(序章の社会契約説)
吉永良正「「複雑系」とは何か」(第一章の複雑系)
牧野雅彦「はじめての政治学〜子どもと語る政治とのつきあい方〜」(第一章の契約の謎、言語の謎)
鬼界彰夫「ウィトゲンシュタインはこう考えた―哲学的思考の全軌跡1912〜1951」(第二章の反省知と前反省知)
ダニエル・ゴールマン「EQ こころの知能指数」(第二章の自動思考と第三章の治療プログラム)
ポール・ブルーム「赤ちゃんはどこまで人間なのか 心の理解の起源」(第三章の自閉症とサイコパス)
竹田青嗣「哲学ってなんだ―自分と社会を知る」(第四章の哲学ルール)
竹田青嗣「はじめての現象学」(第四章の欲望)
飯田隆「ウィトゲンシュタイン―言語の限界」(第四章の哲学者向けの問い)
橋爪大三郎「はじめての構造主義」(第七章の贈与論)
桂紹隆「インド人の論理学―問答法から帰納法へ」(第七章のチャラカ・サンヒター)
「映画」
MATT DAMON「BOURNE IDENTITY SPECIAL EDITION」(第六章のフランク・マーシャル)
「ネット」
Wikipedia(全般的に利用)
goo辞書(第五章の人物名)
中村を好きだった人のスレ(第六章の日本語訳。143から146。訳詩の「S.N」さん、無断利用してごめんなさい)
1,800 DVD映画ポータル(第六章のIDENTITY)
映画.com(第六章のSUPREMACYやULTIMATUM)
The Toastsand ?――雑学のすゝめ 星田直彦(第七章の通訳イルカ。素朴な疑問、のNo.407)
*marugao(第七章の良い説明と良い作品。RANDOM TALK in RANDOM WALKより、夏目房之介と竹田青嗣の対談)


※ 飲茶さんに十二月三十一日の十六時頃に「解決編を投稿してもいいですか? 分割投稿してもいいですか?」とメールフォームで質問しました。
  しかし返答が来ず、締め切り時間も迫ってたので、解決編投稿を強行しました。ここで、許可もお伺いせずに問題編を投稿したことも含め、心より謝罪を申し上げます。


この作品の感想をお寄せください。

2011年01月21日(金)02時51分 真柴竹門  作者レス
nさん。最後まで読んでくれてありがとうございます。
返信レスのほうも、解答編にまとめておきました。
すみませんが宜しくお願いします。


pass
2011年01月19日(水)01時51分 n  +20点
読ませていただきました。
感想を、解答編の方にまとめて書きました。
140

pass
2011年01月13日(木)21時09分 真柴竹門  作者レス
エキセントリクウさん、はじめまして。真柴竹門です。
もう誰も手にとってくれないだろうって思っていただけに、二人目の感想が投稿されたのを知った時は驚きました。そして本作品に二十点も頂けてるなんて本当に有り難いです。
ちょっと散文的になりますが、エキセントリクウさんの感想文を流れに関係なくピックアップしながら作者レスをしたいと思います。

>それと処女作でこのボリュームは大したものです。

ありがとうございます! 世間知らずの私としては「処女作のボリューム」という予想外の方向から褒められてビックリしつつも嬉しいです。
確かに本作品を執筆するのは大変でした。一日3000文字ほど進めば良いほうでしたので、そのお言葉だけでも苦労が報われたようになります。
でも本当をいうとまだ不完全燃焼なんですよね。もちろん最後まで書き上げたという満足感はあります。けれど数日経ってからこの小説を読むと「色」がないことに気付きました。
読者の皆さんにはどーでもいい裏話でしょうが、本作を書く時のことを話してみたいと思います。
私がこれを書く際に、一体何と闘っていたのか? それは気の利いた文章を書くのではなくって、文字数との闘いでした(勿論これも大変でしたが。いざキーボードを打ち始めると突然言葉が浮かんでこなくなります)。
まず、この作品を書く前から『こりゃあしっかり計画的に進めないとすぐに40000文字オーバーするな』と予想していました。とにかく書かなきゃいけない情報量が半端なかったのです。
ですので最初に大まかなペース配分を考えてみました。それが大体……

序章&終章=2000文字ずつ
一章から六章まで=6000文字× 6=計36000文字
(※六章はヒント&解決編)

という塩梅です。んで、この配分を守りながら『うわ〜しまった。6500文字も書いちゃったよ』『よし、今度は5500文字までに収めたぞ。これでチャラだぜ』と一喜一憂しながら進んでいったのです。ですから……

>そして肝心の本編ですが、もっと読みたい、と思わせるものがありません。
>たとえば、映画を見に行ったときのシーン。
>具体的な映画の内容や、登場人物が映画を見ている描写がカットされています。
>おそらく本編と関係ない、無駄だ、と意識的に書かなかったのでしょう。

……という指摘には驚きましたよ。何という鋭い観察力! まさしくその通りでして、当時は映画のシーンでこれといったのを想像してなかったのもあったので完全にカットしました。
しかも色づいたことを書き出したら6000文字なんか簡単にオーバーしてしまいます。だから泣く泣くカットした「本編とは関係ない描写」もあって、本当に「骨組み」しか残っていません。そこまでしながら文字数を守って書いて行きました。
ところがこれが五章から崩れだします。『ここはちょっと丁寧に書かなきゃな』と思いながら執筆したんです(それでも骨しかありませんけど)。
すると文字カウントで「計7500文字」と出てきてしまい、さすがにこの時は頭が真っ白になりました(笑)。ちょっとやそっと削っただけではどうにもなりません。
そのうえ六章のヒントだけで「計4500文字」ときます。ホント、笑っちゃいましたよ。2000文字だけで書く予定だったのに二倍以上! 私、なにやってるんですか?!
んで急遽、解決編だけの七章を設けたわけです。そんときは何かこうふっきれたのか、思う存分に書きました(それでもけっきょく骨だけですが)。
丁寧に今までの伏線を回収しながら書いてみると「計12000文字」という数字! つまり予定の三倍の量に膨らんだわけです。これを4000文字で書こうとしていた私は本物のバカです。
私は昔っから「ペース配分がわかってない」「目分量が超ヘタ」な人間でして、その弱点が今回の企画で最大限に発揮される形となりました。

>まず初心者にしては、文章は読みやすく、形になっているし、基本的なルールもおさえているようですね。

本当に読みやすかったですか? 執筆期の前半頃から「こりゃ不味い!」と思い、序章や一章でひらがなにしていたところを全て漢字に変えたぐらいですから。
いまは本作を改稿したいくらいです。だってあまりに色が、肉がなさすぎるんですもの。 最近になって「この小説に肉付けすると、どのくらいのページになるんだろう?」と考えてみました。
すると予想のうえでは「原稿用紙200枚」と弾き出されました。さらにプロットにまでアレコレと余計なエピソードを設け始めると「原稿用紙300枚」になるかもしれません。
そんな作品を『100枚で書けるだろうな』と考えた私って一体なんなんですか? しかも当初から『これは100枚では書けないだろうな』と気付いていたら、私の性格からいって絶対に執筆しなかったという罠!
つまりどっちに転んでも足元をすくわれるという板ばさみ状態! 俺はどうすれば良かったんだ?!(泣)。
本作を最後まで読んでくれる奇特な人なんていないでしょうが、もしいたらその人に質問したいです。これは短編で書ける作品なのでしょうか、と。

>「作者からのメッセージ」は、かなり読者を遠ざけていると思います。まあ、初心者で、処女作なら、仕方ないです。
(※問題の「作者からのメッセージ」を作者自身が抜粋)

>【主人公による告知】
>夕焼けの廊下を歩く青年
>窓の開いた教室に眠る少女
>そしてノートに記された謎の言葉
>「約束ってなに?」
>俺と彼女が出会う時、逃れられない運命が動き出す。

>【ヒロインによる告知】
>ヒロインが哲学者? 安心して、難しいことは優しく教えてあげるから♥
>死体がないのに問題編? 大丈夫、知的な冒険がキミを待っているよ☆
>フィロソジカルミステリーとハートフルラブストーリーの融合「Shining stars bless★」の世界へようこそ!
>ねえキミ。わたしと一緒に、ポークパイを食べよ?

……ああ、これはもう黒歴史ですね。オブラートで包んだご指摘、ありがとうございます……(泣)。でもこれは「処女作の熱」とはあまり関係ないように思っておるんですよね。
ほら、本の裏表紙とか帯に宣伝が載ってたりするじゃないですか? 本を買う人ってこういうのからも情報を得て「買うか、買わないか」を判断します。それと同じことをしようとしたんです。
この「哲学的な彼女」サイトの中には物書きを目指している人が何人かいると想像しております(根拠は全くないですが)。そしてここに初めて来た頃から何となく……
『どうして皆、貪欲なまでにアピールしないんだろう? カーソルを合わせるだけで「作者からのメッセージ」が表示されるんだから、それを利用しない手はないのになあ』
……と不思議がっておりました。ですから、別に物書きになりたいとは思ってないけど、かるーい気持ちで『じゃあ俺がやってみるか』と挑戦したわけです。それこそ広告のチラシを載せる感じで。
でもチラシの内容は確かに「処女作の熱」ですね(笑)。恐らく深層心理で、本編ではキャラの描写が足りてないと思っていたから強烈なのを一発かましたのでしょう。いやあ、よくこんな恥ずかしいことを書けたもんだ(笑)。
良かれと思ってしたことなのに、浮いてたんですね、私。つまり「処女作の熱」というより単に私の社会的常識が欠けてたにすぎないってことで、さっそく消しておきます。
それから6500文字もの長々とした【あとがき】も消しておきますね。これも「処女作の熱」なんでしょう。こういうのって誰かから言われない限り気付けないものなのかもしれません。本当にありがとうございます。
つーか指摘されたあとも『え? 遠ざけてたの?』って気分です。きっと認めてしまうと心が壊れてしまうから、そうならないように抑制されてるんですね。人間の心ってうまいこと出来てる(笑)。
ただ、変に消してエキセントリクウさんの感想がおかしくならないように、この場に生き恥を晒しておきますね。どうだ、まいったか!

にしても本当に改稿したいです。今度はページを気にすることなく筆を振るって、アソビを盛り込みたいです。このままじゃあ「小説めいた脚本」ですもの。
ただ誰が読んでくれるのか、という点で引っかかりそうですが。それに面倒臭がりなんでいつになったら着工するのかもわかりませんしね。

>退屈な授業も、勉強と関係ない脱線話には
>アクション映画に入り込んでしまった主人公が

いいですね、いいですね! エキセントリクウさんには悪いんですが、ヤクザネタを上手く利用すればヒロインの魅力をまた一つ表現できそうなアイディアが浮かんできました。まだ矛盾なく繋げきれてないんですけど。
そのままパクったりはせずにアレンジを加えるつもりですが、エキセントリクウさんの一例、ちょうだいしても構わないですよね? 構わないですよね?(泣)。

>ふでばこを落とすところで視点移動がありますが、
>これが小説でタブー視されているのは、おそらくご存知かと思います。

あー、あんまり好まれてないのは薄々勘付いてましたが、まさか「タブー」と言われるほどだったとは思いもよりませんでした。

>ただ敢えてタブーを犯すことはないでしょう。
>初心者の内は決まり事を守っておくのが無難です。

嫌です。守るつもりはありません。処女作だからこそ、妥協したくはないのです。
……いい加減にしろよ自分。せっかくのご忠告なんだからそれに従おうぜ、な?

>もう一度言いますが、処女作でこれだけ書ければ十分です。

お褒めにいただき、重ね重ね感謝します。
今回の執筆は本当に徒労なんかではなく有益なものでした。
これからの人生、また小説を書くかは不明ですが確かに勉強となりましたよ。
エキセントリクウさん、本日はどうもありがとうございました。これをもって返信を区切らせてもらいます。


pass
2011年01月11日(火)01時08分 エキセントリクウ  +20点
>この作品は私にとって処女作となります。小説のイロハも知らないので拙い部分もあるかと思われますが、楽しんで頂けたら幸いです。

とありますので、真柴竹門さんが小説初心者であるという前提で、感想など述べさせていただきます。

まず初心者にしては、文章は読みやすく、形になっているし、基本的なルールもおさえているようですね。ふでばこを落とすところで視点移動がありますが、これが小説でタブー視されているのは、おそらくご存知かと思います。ただ敢えてタブーを犯すことはないでしょう。初心者の内は決まり事を守っておくのが無難です。

それと処女作でこのボリュームは大したものです。モーフィアスさんは厳しいことを言っていますが、決して徒労ではありません。確かにモーフィアスさんの指摘通り、読まれなければ意味がないのですが、真柴竹門さん自身にとっては、間違いなく有益なはずです。

とはいえ、読まれなければ、小説の体裁をとっていたとしても、それは「小説のようなもの」の域を出ません。なぜなら、小説とは表現であり、表現とは対話だからです。
「作者からのメッセージ」は、かなり読者を遠ざけていると思います。まあ、初心者で、処女作なら、仕方ないです。誰でもこうなります。書き上げた興奮で、周りが見えなくなってしまうんですよね。

そして肝心の本編ですが、もっと読みたい、と思わせるものがありません。
たとえば、映画を見に行ったときのシーン。

>こうして俺達はスクリーンの中の世界へ旅立って行った。

「はあ〜、面白かった〜!」

具体的な映画の内容や、登場人物が映画を見ている描写がカットされています。
おそらく本編と関係ない、無駄だ、と意識的に書かなかったのでしょう。
私なら、書きます。なぜか。面白いから。
ドラクエの面白さは、ぱふぱふなど、本編と関係ないアソビにあります。
退屈な授業も、勉強と関係ない脱線話には進んで耳を傾けます。
アクション映画に入り込んでしまった主人公が、思わず前に座る人の後頭部に回し蹴りを決めてしまった。振り向いたその人がヤクザだった。ふと周りを見るとコワそうな人たちが主人公を取り囲んでいる。絶体絶命……などと展開させることも可能です。

これは一例です。
次を読みたいと思わせるための工夫を、できるだけ考えてみましょう。
いろいろ方法があるはずですから。

もう一度言いますが、処女作でこれだけ書ければ十分です。
もっともっと書き続けていけば、どんどん良くなっていきますよ。
142

pass
2011年01月04日(火)04時55分 真柴竹門  作者レス
どうも、モーフィアスさん。真柴竹門です。去年の十二月から「人間の本性を考える(中巻)」やら「あさま山荘1972(下巻)」を読みたいなあって思ってても、色々あってまだ読めず、悲しい気持ちのまま再び作者レスです。
つーかモーフィアスさん! 私のレスが投稿されてから五時間半後の深夜遅くに投稿ですか?! 夜遅くまでお手数かけてしまい、申し訳ありません! いや、凄い人です。うん。

>うーん。
>なんで解説しようとするんですか?

この言葉には二つの解釈が可能です。
一つ目は『真柴ってしつこいなあ、絡んでくるなよ!』という嫌悪の気持ちです。
もしそうであったなら、どうもすみません! このレスで最後にしておきます。このあと、もしモーフィアスさんが罵詈雑言を投げかけてきても反論しませんから。
というか、こういうやり取りをあと二〜三回繰り返せば、絶対に「作品への評価」を超えた喧嘩になってしまいそうな雲行きがするから、というのもあります。
飲茶さんも「作者は読者の批評に対して、反論や批判をしないでください」「読者は、作品の批評の枠を超えた、作者個人に対する中傷をしないでください」と言ってますしね。
二つ目は『社会契約説を、なぜ解説するか?』の疑問という解釈です。恐らく「なんで解説」と「知ってほしいというのは」との間に一行の空欄が無い点から考えて、二つ目の解釈が正しいのでしょう。
ですから、二つ目の解釈がモーフィアスさんの主張だと、こっちが勝手に信じて話を続けます。
ちなみに、もしかしたら「その専門用語が、この物語では必要なんですから」の言葉に引っかかったのではないでしょうか?
しかしこれには同じことしかいえません。はい。

>知ってほしいというのは
>たとえば、「伝説のオウガバトル」というゲームに

確かに、興味のない「伝説のオウガバトル」の話をいきなりされても戸惑うばかりか、迷惑千万です。あと「知ってほしいなあ」というのが私の中にあるのかといえばあります。
しかし、この件に関しては次のように回答しましょう。例えば、そうですね。時事ネタの「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」で説明しましょうか。
「もしドラ」を買う人は本屋で、まずタイトルを見て『これは高校野球とマネジメントの話をする本だな』と認識し、その上で買うか買わないかの判断をしてから、レジに行きます。
ならば、この読者はこの小説を読み進めていくうちに、途中で野球のちょっと専門的な話とかマネジメントの詳細な話が出てきたとしても付き合ってくれるんじゃないでしょうか? 勿論、限度はありますが。
そしてこのロジックは今回にも適応可能です。このサイトに来る人は、十中八九「哲学的な彼女」を通って、それから投稿小説を読みます。
とすると「約束? ああ、そういえば今日の哲学の授業は社会契約説だったな」と書いてあるのだから、読者は少しくらいなら社会契約説の解説に付き合ってくれるばかりか、興味を持つと思われます。絶対的に、とは言いませんが。
これは、読者の批評に対しての反論に、なっていませんよね? なってたらごめんなさい。

>小説でしょ? 解説本じゃない。
>小説を書くということは、面白い物語を書くことであって

全くその通りです。これには私も同意見です。小説は面白い物語が書かれてなければいけないでしょう。
けど、モーフィアスさんは「ソフィーの世界」をご存知ですか? 世界的な大ベストセラーとなった哲学ミステリーです。
暴力的なまでに縮めて言えば、この小説はアルベルトという爺さんがソフィーという女の子に哲学の授業をしてやる小説なのです。
その授業がまた楽しいんですよ。つまらない授業じゃないです。本当に「楽しい哲学授業」というのを追体験させてくれる名作です。
ああ、小説というのはマンガや映画やビジュアルノベルと同じく、追体験が深く関わってくる表現方式だと思っています、私は。
さて、その小説から目次を(ちょっと恣意的ですが)一部抜き出してみると「デモクリトス」「ソクラテス」「プラトン」「アリストテレス」などなどズラリと哲学者の名前が並んでいます。
そして章ごとに、その哲学者のことをアルベルトがとっても愉快で面白い解説をしてくれるんです。つまりなにが言いたいかというと、面白い解説ならば教科書のようなことを小説に書いてもオーケーだと思うのですよ。
ちなみに、私の「社会契約説」の話は面白いのかというとですねえ。……ああ、全然面白くないですな。つまらない授業的ではありませんか。
アルベルトとは雲泥の差です。何か泣きたくなりました(笑)。でもそれは「主人公が」説明してるからなんですがね。
はあ〜、出だしって本当に難しいです。私には改善案がまったく思い浮かばないのですよ。それに締め切りが終了したっていうのに、冒頭を全面改訂というのはいけない気がするんですよね。字数オーバーしたくせに何を今更ですが。

>「社会契約説」をまず知ってもらえば、この作品が面白くなります
>というのは、他人のことを考えていない、独りよがりな思考です
>「社会契約説」なんて、ほとんどの人は別に知りたくない。それを知らなきゃ楽しめない作品なら

別に社会契約説をしっかり把握してなければ本作は楽しめない、なんて書いた覚えがないのですが? もし何かしら誤解を招くような記載があったのならここで謝罪します。すみませんでした。
私としては、冒頭で社会契約説をしていたことを完全に忘れられると流石に不味いのですが、しかし物語の後半ごろまで『そういや冒頭で社会契約説の話をしていたな』ってのが読者の記憶の片隅にあれば、それで十分なのです。
まあ「あれだけクドクドと説明しておきながら何をいうんだこの作者は?」ですけど(笑)。

>序盤からいきなり連発する、こういう台詞の数々。

この辺についても、前回の作者レスの社会契約説での話と同じく、一応は私なりに計算して書いているんです。
ただし「面白いか、面白くないのか」という観点からの計算じゃないんですがね。ホント、モーフィアスさんの言葉は身に染み入ります。

>「……なぃ……」
>「わかん…ない…よぅ」

この二つは、主人公が授業の記憶想起から現実に戻ってくるためのキッカケだったり、まだ眠っているかどうか主人公が判断するための材料だったりします。
それから意味不明な単語を提示することで、読者に次の台詞の注意を呼び込もうという理由もあります。……つまらないですね。

>結城はかわいい寝息を立てていた。
>俺はその光景を前に言葉を失った。

このあたりの描写についてはツッコまないで下さい。完全に描写力不足です(笑)。

>「…う、ん。……んん?」
>「おい、起きろ。結城、結城!」

これも主人公が現実に戻ってくるためのキッカケ。
そして「おい、起きろ」で「俺は結城に声をかけて起こす」という地の文を減らしました。無意味な減らし、ですが。
それから「結城、結城」で主人公がヒロインにどういう呼称をしているのかの提示もしたのです。……つまらないですね。

>むっくりと背筋を伸ばした結城はこちらに顔をむけ、ついで状況確認をする。
>「あれ? もう放課後?」

さあ寝るぞって布団に入ったのならともかく、つい居眠りしてしまって気付けば周りの風景がガラリと変わっているんです。そして自分を起こしてくれた優しい人がいるのなら、状況確認の動作やら質問やらをするのはそんなにおかしなことでもないかと。
それから「むっくり」が可愛い描写ではありませんか? ダメですか? ダメですよね……

>「そうなんだ。えっと」
>「深山蒼一(みやま そういち)。隣の席なんだから覚えててくれよ」

これは完全に作者がキャラを操作しました。本当ならヒロインの頭脳だと隣の席の名前を忘れてるなんてありえないのです。
こっちとしては「早く主人公の名字と名前を提示したほうがいいのかな?」と考えて、このやり取りをしました。まあ、ヒロインは寝ぼけてたってことで。
あと「隣の席なんだから覚えててくれよ」は、確かに読者から見てつまらない台詞でしょう。しかし、普通の人間なら当然の反応だと思い、言わせた訳です。

>「ご、ごめんなさい。その、深山君。起こしてくれてありがとう」
>「どういたしまして」

これも当然の反応を描いたまでです。つまり「結城はかわいい寝息を立てていた」「俺はその光景を前に言葉を失った」以外は、人間の自然なやり取りを描写したのです。
この主人公やヒロインが住む世界は西洋的ファンタジーやらSFなんかじゃない、いや、例えそうだとしても、彼らがいる場所は私達の常識が通じる日常の延長なんだと暗に示しています。
そこまで考えて描写していたのか? と尋ねられると「……いや、そんなことない」でありますが(笑)。まあ、でも、ちょっとだけ、心の奥で、きっと、多分。……あはは。
(※続く)


pass
2011年01月04日(火)04時50分 真柴竹門  作者レス
モーフィアスさんの二回目の感想に対する作者レスその2

それから、確かに私には面白かったり気の利いたりした文は書けないのですが、あまりにアクロバットな文はこの世界に合ってないと思いました。これが私の計算です。
確かに、例えばこんなの……

「おい、起きろ。結城、結城!」
ガバッ!
「神と人は契れるかしら? 超越の彼方は彼岸の向こう。なら紙も音波も生け贄も、砂塵となって飛沫と消える。
言質は祝福に仇なして、宣誓は末世に光明を。フラクタクル、雪の乾いた根源よ。ジャッジメント、肉のぬめった究極よ。
我はルールに絡まれて、今日もプロミスに成し遂げる。生きることは縛り縛られ捩じ切って、そして言葉は後世に紡がれる」

……とか、いきなりワケワカメなことを言い出したら、そりゃインパクトあって読者のハートをキャッチ出来るかもしれません。
しかし「こんなの結城じゃねーーーっ!」って心が警告音を鳴らすんです。そして脳内でも主人公の深山が「……」と白い目で唖然としちゃってるんです(笑)。

(※ちなみに感想の殆どを執筆してから、疲労困憊ながらも今回の怪言動を書きました。
三十分で終わると思いきや、丸一時間かかりましたよ!
結城的意訳:うーん、お正月に神社で五円玉を捧げて祈っても、神様には絶対に届いていないんじゃないかしら?
ならどんなことをしようとも、きっと徒労に終わっちゃうのね。
にしてもヤクザって恐いよー! 「お前あの時ああ言っただろ〜が〜」って脅して平和な家庭を潰すもん!
でも結婚の約束はとっても素敵よね。ある理由で世の中全体が暗い時なら、なおさらよ。
複雑系のフラクタル現象が雪の結晶を作るけど、それに人の手は一切含まれていない。
逆に正義って肉体を持つ人の手によって作られていくわ。それこそ過激で潔癖な人がたまに暴走して究極の正義を求めたりするくらい。(作者注:あさま山荘事件のこと)
ルールは日常のどこにも存在するわ。学校なら校則、って感じでね。そしてプロミスつまり日本語で約束というのをしたら、その約束事は「約束を交わした過去がある、実在する」のと同じくらい決定的に守らなきゃ。
生きていたら新しく作られる約束事に縛られるし、またわたしも誰かに対して「明日のお昼にパン屋さんの前で集合よ」って約束事を作り出すわ。
でも不味いルールだったら破っちゃう。それこそ革命よ! なんちゃって☆
言葉も結局は約束事。そしてわたし達の使う日本語などの言葉は未来の子ども達に託されていくわ。意訳、終了!
……ふう。三行の文よりも爆発的に書くことが多かったが、それでも約三十分で済みました。
にしても結城と深山の物語はもうとっくに終わってるのに、何でまた結城脳を使わなくちゃいけないんだ?)

話を戻して、結城のキャラだけでなく、世界観のためにも言葉を選ぶ必要があります。実際に、アクロバティックすぎる地の文とかはこの世界には全く合わないんですよ。
「初稿・刺青殺人事件」で杉江松恋は高木彬光(有名な探偵小説作家)に……
「高木はたしかに美文家ではないが、小説の内容に合わせた文体の選択眼を持っていたし、機会をとらえて推敲を行った後の文章は常に格段によくなっている。
つまり文章に対する鋭敏さは備えていた作家であった」
……と評しているから、私は文章力は確かに重要だけど究極じゃないと思っています。そして今回の小説では私の文体でもイケるんじゃないかと思ったわけですが、やっぱダメですか?
「じゃあ、お前に文体の選択眼や、それを表現する力があるのか?」というと……ありません(泣)。
何かさっきから墓穴を掘ってばかりのような気がします。ただ単に「表現力がないから日常描写に頼っただけだろ?」ということで私が結局ダメダメなわけですよねえ。
はっ! まさかこれが「素人が一番よくやるパターン」ですか? 畜生、一応意味を持たせようと思ってたのに!
ああ、今日は何て無駄な駄文を書いてしまったのやら……

>「は、はわわわわわ!」
>こんな台詞をカギ括弧で抜き出すというのは

すんません。「コイツが萌えキャラだ」と提示するつもりで書きました。可愛くないですか?(笑)。というか、これがちょっとしたトレードマークってキャラも存在してまして。
えっと、私ってエ○ ゲー愛好家ですので(あとがきにて既に記載。マニアってほどじゃないが)。だからか、こういう台詞は聞き慣れているんですよ。
例題を出せって言われると、そうですね。美少女ゲームアワード2007で大賞を受賞した「遥かに仰ぎ、麗しの」(初回版は約一万二千円、安い買い物だ)で、こんな台詞がありまして。サブキャラの上原奏が……
暁「いや……それがさ、司が俺と同室になりたいってごねて困ってたんだよ」 司「えええっ!?」 美綺「おおっ」 奏「はわわわ も、もしかして暁先生の方もそういう!!」 暁「一目惚れってヤツらしいんだが、俺の方には、そういう趣味ないからさ」 奏「ほっ……」
とやり取りするんですが、これがまた可愛くて。
モーフィアスさん、資料に疑いを持ったり興味を持ったりしたのなら、無料の体験版に第01話が収録されてるそうです(私は未確認ですが)。良かったらそちらをどうぞ!
しかし、久々にかなっぺの「はわわわ」を聞きましたな。……うん、良い。
話を戻します。えっと、そうですよね。エ○ ゲーは小説と違いますもんね。エ○ ゲー要素を小説に取り込むというのは、小説に無礼なのかもしれません。ちょっと考えさせられます。
ってか、私の文章力ってエ○ ゲーより劣るような気がするんですが!(泣)。いやいや、私と違ってエ○ ゲーのほうが商品なんだから、エ○ ゲーのほうが勝っていて当たり前ですか。

>どうやら国家機密ですらチラシに見えるほどの究極の秘密だったようで、恥じらいのボルテージを一気に上げたご様子だ。
>人生を100回繰り返したとしてもたどり着けるかどうか、というほどの境地で慌てふためく様は、
>こうして見ている文にはなんとも萌えるシチュエーションだった。結城はそのままの勢いでノートをつかみ、胸に抱き寄せる。

……凄すぎる。これ、本当に僅か五時間半の間で作ったんですか?
この文章力、私なんかには全く手の届かない領域のように思えてきます。いや、逆立ちしたって届かないですね。
けどモーフィアスさん? 「こうして見ている文にはなんとも萌えるシチュエーションだった」ですけど「文」じゃなくて「分」ですよね?
まあ私も「いやいや、ミステリーで解決編だけ面白くないっしょ?! んなこと出来ませんよ!」の所で「解決編だけ面白くない」ってわけのわからん文を書いてますからね。「解決編だけ読んでも面白くない」だろうが、自分!
はっ! もしかしてモーフィアスさん?! これは私の実力を試すためのトラップですか? だとしたら、マジで半端ねえッス!!

>この作品は、作者の趣味であり

全くもってその通りです。私にはこれを否定することが出来ません。何故なら既に「解決編」のあとがきで……

>芦辺拓先生が「りら荘事件」(鮎川哲也)という探偵小説に対して「おもちゃ箱をひっくり返したようなミステリ」と高評価しています。
>この言葉は私にとっても同じことが言えて、まさに私にとって本作品は「おもちゃ箱をひっくり返したような哲学ミステリー」です。

……と書いてありますからね。当然、私にはモーフィアスさんのお言葉を受け入れるしかないのです。

>読者のことを意識できていません。
>他人が読んで面白いかどうか、を意識できなければ

そのことはもう、モーフィアスさんの一回目の感想から痛感しています。このサイトの住民に読んでもらえる作品なのかというと、きっと違うのでしょうね。今では『別の投稿先にすべきだったのではないか?』という疑問すら湧いています。
でも、この作品を受け入れてくれそうな所なんて、ここぐらいしかないように思えるんです。他の小説受け付けしている所を調べてある上での発言なのか、というとそうではないんですがね。
あとね、私が読者のことがよくわかっていないというは、恐らく私の読書スタイルが関係してくると思うのですよ?
例えば図書館で本を借りたり、本屋で本を買ったりします。立ち読みじゃないですよ。
そして、その本がつまらなかったとします。そしたらモーフィアスさんだけじゃなくて一般の人も、きっと読まなくなるんじゃないでしょうか?
買った本ならともかく、図書館の本なら尚の事です。でも、私は逆なんですよ。
図書館の本だろうと、途中でその本を放り出すと凄く負けた気分になるんです。後ろから「やーい、最後まで読めなかったんだー」って指を差されて、プライドがズタボロになるんです。
ですから、それこそ斜め読みでもいいから兎にも角にも最後まで読むんです。難しい本で意味がわからなくてもラスト一ページまで目を通すんです。
最後まで読めなかった本がある、それは私の敗北なのです。
モーフィアスさんが一回目の感想で「冒頭数行でみんな読むの止めてます」と書いてありますよね。
私も理屈では勿論このサイトの住民の気持ちはわかるんですよ。しかし感覚的にピンと来ないんです。
まあ、こんな大層なことをいっときながら、途中で読まなくなった本とか連載作品とか山のようにありますし、ペラペラと最初や真ん中や最後だけめくって「あ、これつまんね」と判断して本棚に直すってこともしてますけどね(笑)。

さて、書くこともなくなったし、この辺で失礼します。
あ、そうそう。一月二日にモーフィアスさんの「終末崩壊序曲!」を読みました。
まだ感想を書いてませんし、いつ書くかもわかりません。ですがきっと書きます。
それまで、首をかなり長くして待っていてくださいね。
では、本日もありがとうございました。


pass
2011年01月02日(日)04時41分 モーフィアス  0点
 うーん。
 なんで解説しようとするんですか?
 知ってほしいというのは、あなた個人の意向で、他人が知りたいわけじゃないんですよ。誰しも、興味のないことをわざわざ教えてもらいたくないんですけど。

 たとえば、「伝説のオウガバトル」というゲームにあなたがまったく興味も関心もなかったとして、それを説明するために、まずシュミレーションRPG一般の解説から書かれていたとして、そんなものを、読む気になりますか? 小説でしょ? 解説本じゃない。
 小説を書くということは、面白い物語を書くことであって、教科書じゃないんですよ。

 「社会契約説」をまず知ってもらえば、この作品が面白くなります。てゆーか、読めません。是非知ってください。

 というのは、他人のことを考えていない、独りよがりな思考です。
「社会契約説」なんて、ほとんどの人は別に知りたくない。それを知らなきゃ楽しめない作品なら、読みません。読むことは義務じゃないんだから。

 それから、はっきりしておかなければならないと思いましたので、言います。
 私はこの作品、ろくすっぽ読んでいません。

 理由は上で説明したことと、さらに、ばかばかしいから。
 序盤からいきなり連発する、こういう台詞の数々。
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「……なぃ……」
「ん?」
「わかん…ない…よぅ」
「……」
「…う、ん。……んん?」
「おい、起きろ。結城、結城!」
「あれ? もう放課後?」
「そうなんだ。えっと」
「深山蒼一(みやま そういち)。隣の席なんだから覚えててくれよ」
「ご、ごめんなさい。その、深山君。起こしてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「は、はわわわわわ!」
----------

 はっきり言って、小説のことが分かっていません。
 こういう意味のないセリフを時系列順で列挙するのは、素人が一番よくやるパターンです。
 作品というのは常に作者が自分でメリハリをつけて、退屈にならないよう、嘘くさくならないよう、手綱を引かなければなりません。
 面白く無いシーンはカット、もしくは作者がはしょって語る、
 意味を成さない台詞は、作者が面白く語る、
 みたいに。

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「は、はわわわわわ!」
 どうやら見られたくない秘密だったようで、結城は恥じらいのボルテージを一気に上げたご様子だ。そのままの勢いでノートをつかみ、胸に抱き寄せる。
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 こんな台詞をカギ括弧で抜き出すというのは、小説ではありません。
「は、はわわわわわ!」は、要りません。こんな台詞を書くと、作品が安くなります。自分は素人ですと証明しているようなものです。どうしても慌てふためく状態を表現したいのであれば、作者が自分で表現するのが小説です。

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 どうやら国家機密ですらチラシに見えるほどの究極の秘密だったようで、恥じらいのボルテージを一気に上げたご様子だ。人生を100回繰り返したとしてもたどり着けるかどうか、というほどの境地で慌てふためく様は、こうして見ている文にはなんとも萌えるシチュエーションだった。結城はそのままの勢いでノートをつかみ、胸に抱き寄せる。
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 この作品は、作者の趣味であり、面白いと思えるのは、作者だけ。
 読者のことを意識できていません。
 他人が読んで面白いかどうか、を意識できなければ、読まれる作品は書けませんよ。
 逆に言えば、その点を深く理解していれば、他人のアドバイスなんて、要らないはずです。一人でどんどん上手くなれることでしょう。
129

pass
2011年01月01日(土)23時09分 真柴竹門  作者レス
モーフィアスさん、酷評ありがとうございます。元日の再放送「ハーバード白熱教室」を聞きながら作者レスをします。
実は私も投稿を終えて年を越したあとに『あれ、出だしが弱すぎない?』と気付いたのです。
けれど、この作品は小説のイロハを勉強する暇すらない時間の間に執筆しなくてはいけなかったのですよ。
とにかくキーボードを一文字でもタンッと押さなきゃ始まりません。
ですからいつも読んでる紙の小説のような出だしになってしまったのでしょうね。
ネットとかの投稿小説は殆ど読んだことが無かったのも理由かもしれません。言い訳がましいでしょうが。
ただ何で「社会契約説」という他人の哲学を紹介したかったのか?
その理由は、一応これが哲学を全く知らない一般人でも入りやすい話題だからです。
いきなり分析哲学とか紹介されても、ついてこれない人が多いと予想しております。
これは「ハーバード白熱教室」のような政治的・思想的な哲学は逆に、日常との関わりが無い、または凄く薄いですからね。
例えば突然「論理とは何か? 否定とは何か?」から「ウィトの絵画の否定」を解説したってダメでしょ?
一応、冒頭から「論理、否定」を話して『約束』の話題に組み込もうと思えば可能でした。かなりガチで難しくなりますが(いや、やっぱ無理か)。
そして「一般人が(哲学者ではなく)、哲学を肯定する主張するシーン」のための伏線としても役に立ちます。
ですから、クドクドと説明したのですよ。一応、この辺は計算して書いてます。

もう一つ、モーフィアスさんは「冒頭は面白くないと!」という立ち位置から助言してくれたのでしょう。
でも私はモーフィアスさんとは違った立ち位置から、この冒頭にしたのです。
それは「ロマンティックな冒頭」という理由です。
だって、文学的なヒロインとの出会いとしては王道で最高のシチュエーションですもの!(その描写が成功してるかは別ですが〔笑〕)
まあ、でも確かに、モーフィアスさんの意見は的確でしょうね。
ネット小説を全く知らない私に、ご教授いただきありがとうございます。

>このサイトの読者に読んでもらおうと思ったら、哲学や文学が入り込む余地はほとんど無いと思います。
>クライマックスだけ、書いてみればよかったんだと思います。

いやいや、ミステリーで解決編だけ面白くないっしょ?! んなこと出来ませんよ!

>といっても、専門用語が山ほど使ってあるので、それらを排除して、ですけど。

う〜ん、これは「モーフィアスさんが最後まで読んでくれた、嬉しいな!」と捉えていいのか?
それとも「作者からのメッセージ」の【追跡しづらいと思われた資料の提出】を見たにすぎないのか?
えっと。ちゃんと読んでくれましたか、モーフィアスさん?
だって、その専門用語が、この物語では必要なんですから。

最後に。たとえ0点でも、この作品をクリックして一行でも読んでくれたことに感謝します。
ありがとうございました。


pass
2011年01月01日(土)14時16分 モーフィアス  0点
 残念ながら、この作品もほとんどの人には読まれてませんよ。
 私の作品と同じく。
 冒頭数行でみんな読むの止めてます。

 この「哲学的な彼女」イベント、「文学的」「哲学的」書き方もそれなりにありのはずだ、と思った人は、もれなく勘違いです。
 そういう要素はあってもいいけど、あってもなくてもどうでもいい。
 とにもかくにも、冒頭から面白そうな感じでなければ、誰も読みません。考えて理解しなきゃいけないような文章も、誰も読みません。

 さて、作品に関して。
 冒頭の2行。 
 これが普通の小説なら、冒頭でテーゼなどをまず示しておく、というやり方は普通にありです。普通の小説なら悪くない出だしですが、このサイトでは、通用しません。
 なぜなら、面白くないから。このサイトの読者は、文章の意味を考えたりはしません。冒頭の2行は、「ただ面倒くさいことが書いてある」、という認識しかしてくれません。

 夕焼けで真っ赤になった世界を歩く。

 本編の出だし。普通の小説としてなら、少し表現を考えているな、と見受けられるのですが、このサイトでは意味はありません。
 で、その後に描写が数行描かれて、登場人物の説明が数行。
 残念ながら、併せて10行ほどのこの場面までで、ほぼすべての読者は読むの止めていると思います。
 描写というのは、小説において、面白くない部分です。解説・説明も同じ。面白く無い文章が数行続いたので、読者のほとんどはこの時点で撤退です。

 作者としては、こんなに短時間で読者が離れていくことを想定していないかもしれませんが、たいていはもうこの辺で離れてしまっていることでしょう。
 その後も、
――約束ってなに?
 の行の下では、今度は他人の思想や専門用語の解説をしています。
 これで完全にアウト。すべての読者はここより下に読み進んではいないでしょう。

 残念ながら、たくさん書いたのに、まったく読まれていません。
 作品の出来も、実力も、何も見てもらえていません。

 このサイトの読者に読んでもらおうと思ったら、描写や解説は一切禁止。
 冒頭から自信のある場面を書き始め、無駄な展開は一切削除。そして常に面白そうな書き方に頭を使い、考えないと理解できないような難しい表現は一切禁止。

 このサイトの読者に読んでもらおうと思ったら、哲学や文学が入り込む余地はほとんど無いと思います。
 クライマックスだけ、書いてみればよかったんだと思います。
 といっても、専門用語が山ほど使ってあるので、それらを排除して、ですけど。
 作品の途中を一気に飛ばして最後に目を通してみた人も、やっぱりおしなべて挫折です。
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pass
合計 3人 40点


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