She said to me, “GODSPEED”.
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She said to me, “GODSPEED”. 舞い降りたキミは「駄」天使

「この時を待っていた」
 ダーツェンは、女性にしては低い声で言った。
 中性的な顔立ちに張り付かせた怜悧な笑みが、彼女の美しさを醸し出している。
 白磁のように血の気が失せた白い肌に白い髪。血のように濃い赤の瞳が、街の輝きに照らされてぎらついた。
 華奢な体格がはっきりと見てとれる上半身、それと対照的なゆったりした作りの下半身の着衣は、スタイリッシュというより前衛的過ぎて筆舌し難い。
 そんな白い光沢を放つ着衣を纏ったダーツェンの足元に広がるのは、青い星。
 彼女が見つめる先は薄暗い。
 夜となり闇に支配されようとしている街で、それでもなお光が集まって瞬いている。 
 ダーツェンは眼下に広がる光の集合を見ながら、決して人には見ることのできない回廊を歩いた。そして、そこから身を躍らせた。
「……全ては、ここから始まる」
 彼女の身体は地球に吸い込まれるようにして、その姿を小さくしていった。



 オレはおまえとの出会いに感謝したい。
 たとえ、それが別れる運命だったとしても。

「どういうつもりだ!」
 目付きの鋭い男子生徒は声を大にして叫んだ。
「『我が校伝来の呪術書』だと! 笑わせんじゃねえよ!」
「ちょ、ちょっと待った。落ち着いてくれよ」
 ともすれば飛びかかってきそうな剣幕の男子生徒を、オレはどうにかして制止する。
 しかし、ガタイの良い彼相手ではそれも覚束ない。オレは思わず後ずさってしまう。
「おまえら新聞部の適当な記事のせいでな、こちとら三日続けてありもしない『呪術書』捜索に当たってんだぞ!?」
 いやいや、オレだってなにも捜索して下さい、だなんて頼んだ覚えはないぞ。
 などと堂々と言うこともできず、ぎこちない愛想笑いを浮かべるので精一杯だった。
 文芸部に所属するこの男子生徒の対応に、オレは追われていた。
「いや、オレ達だって、ちゃんと元は取ってるから。ちゃんとあるって、『呪術書』」
 オレはこの鋭い眼光を放っている男子生徒に尻込みしつつも、なんとか応対していた。
 彼の放つ殺気に挫けそうになる自分を必死に叱咤した。
「じゃあ、どこだよ?」
 彼の無言の圧力に屈した。
 もう駄目だ。
「確か、資料庫だ」
「資料庫なら全部調べた」
 ギラリ。
 情け容赦なく人を襲い、骨の髄までしゃぶる飢えた狼を彷彿とさせる眼光の鋭さに、オレは震えた。
「あの量を全部調べたのかよ。……じゃあ、閉架書庫だ」
「そっちも全部調べた」
 彼の手が伸びた。オレは思わずカエルのように飛び跳ねて避けた。
「いや、閉架書庫は閉架書庫でも、古書資料棚の方だ」
 彼は震えるオレの言葉を聞くと、手を引っ込めた。
「じゃあ、最初からそう言えよ」
 鼻を鳴らして新聞部部室を後にした。
 ドアが閉められた。
 恐ろしい容貌だったが、ドアを閉める際は至極丁寧だった。
「あー、マジでしんどい」
 ようやく呼吸を再開する。新鮮な酸素が心地良い。
 そして、台風一過と言わんばかりに机の上に突っ伏した。
「てか、何でオレだけこんな目に……」
 溜息をついた。
 納得がいかない。オレもさきほどの彼くらい体格が良ければ、こうしてナメられることもなかったんじゃないか、と思うと腹立たしい。
 というか、不条理だ。理不尽だ。
 オレは今際の不幸に溜息をつきつつ、過去の幸せに思いを馳せていた。

 文芸部の男子生徒の言う『我が校伝来の呪術書』とは何か。
 その由緒は横浜開港つまり江戸時代後期にまで遡ることができる。
 その書には、かつての海洋の覇者オランダの国家機密として扱われていた。
 その文章にはイギリスで厳しく弾圧された「魔女」と呼ばれた呪術師が記した魔法の書だったなどと言われているが、それは違う。
 実は血を血で洗う「魔女」達の戦いによってある高名な「魔女」がその書に封印されており、その魔女が封印を説いた者の願いを叶えるという。

「……という、噂があるんです」
 少女は説明が終わると、締めに柔和な笑みを浮かべた。
 オレは飛んでいた意識を手繰り寄せると、こくこくと頷いた。
 いかん。
 彼女から発せられる幸せ成分満点の香りに、うつつを抜かしている場合じゃない。
「そんな噂があるんだな。いや、知らなかったな」
 オレはさも興味があるかのように、神妙な面持ちで頷いた。
 男たるもの、いついかなる時も紳士であれ。それでいて、内心は満面の笑みだ。
 それは何故か。
 まずは来月の学内新聞のネタが思いがけずに舞い込んできたからだ。
 次に、何よりここが重要だ。
 情報提供者がオレ好みの女の子だったからだ。
 癖一つない真っ直ぐな髪は恐らく染めたことなど一度もないのだろう、黒く輝いている。
 前を綺麗に切り揃えていているが、それもまた彼女の美しさを十二分に引き出している。
 オレは今まで俗に言う「前髪パッツン」にはあまり好印象を抱いて来なかった訳だが、今日この瞬間それは覆った。
 ヤベえ、こんなにも「前髪パッツン」というものは甘味で甘美なものだったのか、唸らざるを得ない。心の中で。
 まるで古き良き大和撫子を体現した彼女に、好感度はウナギ登りで右肩上がりだ。インフレしたテンションで気が狂ってしまいそうだ。
「で、実のところ。その噂、本当なの?」
 オレは訊ねた。どうにかここで喰いついて離さないことで幸せを存分に享受したい。
 少女は笑みを浮かべた。そして、一冊の本を取り出した。
 アルファベットのようでありながら、似て非なる言語で記された背表紙。西洋を思わせる古臭い紋章や記号が並んでいる。
 オレは思わず手を伸ばすと、本が「やめてくれよ」と言わんばかりにすっと避けた。のではなくて、彼女が本の端を引っ張った。
「外観の写真を撮影するのは構いませんけど。中身はちょっと……」
 彼女はそう言って、机の上に置いた。
 彼女の言葉は今時珍しく丁寧で、押し付けがましいところはない。
 しかも、それでいてそのように言われると、オレはこの本に手を触れることが躊躇われた。
 マズいな。オレは一人心の中で呟いた。ホレてまうやろ、と。
「まあ、実際のところ、『呪術書』などと呼ばれるこの本は、我が校が開校当初から保管しているという舶来の古文書なんですけどね」
 彼女はそういうと、舌をちろっと出して恥ずかしそうに笑った。
「なんだ、そうだったのか」
 オレもつられて笑った風を装う。
 いや、そんなことだろうとは思ったけどさ、などと内心思いつつ、彼女との今後の良好な信頼醸成に努めるために笑みを絶やさない。
 オレは『呪術書』の外身だけ写真に収めた。
 こうして、一連の取材は呆気なく終了した。
 彼女が鞄に『呪術書』をしまい、腰を浮かそうとしたところで、オレは慌てて呼び止める。
 ここでみすみす返してなるものか、断じて。オレはタダでは帰さんぞ。
「あー、そうそう。そういや訊きそびれちゃったけど、キミの名前、教えてくれねえか?」
 一旦そこで区切り、「いやいや、それなんてナンパ?」と思って、失言をフォローするべく間髪入れずに口を開いた。
「あ、いや別に下心がある訳じゃなくてだな。ほら、一応誰からの情報提供か、ちゃんと記さなくちゃいけない内部規定とかあってさ」
 正直に白状すると、そんなものは存在しない。口から出まかせである。オレとて必死である。
「……匿名じゃ駄目ですか?」
 彼女は眉を寄せて訊ねてくる。
 おいおい、それは冗談キツい。名前すら教えてくれないとか、ちょっと薄情なんじゃないか。
 それとも、オレの心があっさりと見透かされたりしちゃったんだろうか。それは由々しき事態だ。
 ここで屈したら負けだ。オレは口を開いた。
「……あ、いやそれなら仮名でもいいから」
 自分で自分を殴りたい衝動に駆られた。
 いや全然良くないだろ。本名知らなくてどうするんだよ。
 オレは自分で自分に突っ込んだ。
「そうですか、じゃあ……」
 彼女は首を小さく振って、逡巡しているようだった。
 頼む、オレの眼力。彼女の名前を、どうか彼女の名前を。オレの左目よ、今こそ本気出せ。
 彼女は笑った。
「銀河。宇尾江銀河(うおえぎんが)です」
 オレは息を飲んだ。
 グッジョブ、オレの左目。よくわかんないけれど、なんか思いが通じた。
「……良い名前だな」
 オレは話を書きとめたノートにその名を記す。
 銀河。
 オレは心の中で、その名を反芻する。
 彼女の美しさとその名前は、酷く合っているように思えた。
 オレは彼女のご両親の先見の明に脱帽した。彼女のような楚々とした、けれども決して他の娘に見劣りしない可愛らしい大和撫子に相応しい名前の様に思えたからだ。
「それでは、わたしはこれで。『呪術書』を閉架書庫へ返してこなくちゃいけませんので」
 銀河は丁寧に頭を下げた。手入れの行き届いた黒髪がふわっと騒いだ。
 ああ、ちょっと待った。まだだ、まだ終わらんよ。
 せめてメアドを。オレにメアドを教えてくれ。できれば、赤外線送信で。
「それでは、失礼しました」
「いやいや、こちらこそどうもありがとう」
 オレは手を振った。
 駄目だろ、オレ。
 オレは心の中で頭を抱えた。
 そこで手なんか振ってる場合じゃない。メアドを訊け、メアドを。
 銀河は男の心を撃ち抜く実に魅力溢れる笑みを浮かべて、部屋を後にした。

「ああ、あの子にまた会いたいなあ」
 オレは呟いた。
 宇尾江銀河。
 その願いは奇しくも現実のものとなる。



「ここが下界か」
 ダーツェンは漆黒の帳が降りた街に降り立った。
 ランドマークタワーの屋上ヘリポートから眺める壮大な夜景に、彼女は圧倒されていた。
 街並みは輝きを纏うことで、黒一色に塗り潰そうという夜の野心的な思惑に対抗せんと灯りで満たした。
「思っていたよりも良いところだな」
 ダーツェンは目を瞑り、夜風を全身で浴びるように手を伸ばした。
「ようやく、おまえと出会える」
 ダーツェンの身体が虚空に投げ出される。
 彼女の身体は高度三百メートルから飛び降り、宝石の様に輝く街へと手繰り寄せられていった。

 季節は冬。
 夕日がせっせと地平へ降り、一足早く夜の闇が街を覆う。
「寂しいぜえー、寂しいぜえー」
 オレはママチャリを漕ぎながら叫んだ。
 ママチャリもオレの叫びに応じて、ぎーぎーと不快な高音域の金属音を奏でた。
「あー。ちくしょう、リア充なんて皆残らず爆発しろってばよ……」
 オレは横浜という街を呪った。
 横浜という街は、生き地獄である。
 というのも、可愛い少女と格好良い男子の二人組で溢れているからである。
 そこもかしこも男女男女男女。そこにオレがいようものなら、男女男男女男女である。綺麗に対となった秩序ある世界が男一匹の存在によって無粋にも打ち砕かれることは、両者にとって不幸だ。
 オレもまた、カップルとカップルの間を泳がなくてはならない。それが何よりの苦痛だ。オレには、手を繋ぐべき彼女という存在がいない。これはちょっとした脅威だ。
 もしかして、オレは前世では女の子とのいけない遊びにうつつを抜かしていたのではあるまいか。
 だから今、この世でオレは、慢性的な女の子不足に悩まされているんじゃなかろうか。
「こんなんじゃ満足できねえ……」
 オレの心は大いに荒んだ。
 しかも、ちょうどこれから到来するクリスマスを前に、この横浜という街は完全に浮足立っている。
 至る所に赤と緑の電飾が輝いて、押し付けがましいクリスマスファシズムに憤りを隠せない。
 ふと脳裏に、宇尾江銀河の朗らかな笑みが浮かんだ。
「しまった、クラスとか聞き出すの忘れた……」
 オレは肩を落とした。
 幸い、名前さえ知っていれば後はどうにかなりそうだが、それでも情報は多いに越したことはない。
 でも、オレはよくやっていると思う。オレは硬派な紳士だから、そもそも女の子にこうして名前を訊くなんて滅多にないことだった。
 ああ、オレは本当に大した奴だよ。よくやった、実によくやった、ホント器が違う。
 ……などと思って、一歩を踏み出したことに満足し、一歩しか踏み出せなかったことは棚上げする。

 油断大敵。
 セルフ大喝采に耽っていて、オレは注意力が散漫になっていた。
 その時、後ろから迫っていたロードレーサーにオーバーテイクされた。
 夢見心地だった手前、オレは咄嗟のハンドル操作を誤ってしまった。
 つくづく、ツイてない。
 タイヤが脇の歩道に乗り上げて、左右に大きく揺さぶられた。
 車体の後ろ半分が道路沿いに設置されたガードレールと擦れた。
 首根っこをぐっと掴まれたように、オレの身体は自転車から引き剥がされ、砂利だらけのアスファルト相手に熱い接吻を交わす事になった。
 からからと、タイヤが寂しく空転する音が頭上で聞えた。
 口の中で、鉄特有の苦くてしょっぱい風味が広がる。
 オレは上半身を何とか地面から引き剥がす。身体中が痛い。
 オレはよろよろと立ち上がり、ママチャリをとりあえずガードレールの隙間から歩道へ移動させる。
 痛い。そしてイタい。傍で見ていて痛々しい。恥ずかしいにも程がある。
 オレはぼんやりと遠くを見据えた。そして精一杯、現実から目を逸らした。
 おお神よ、オレが一体何をした。

 幸せ成分満点の香り。
 その匂いがしただけで条件反射的に穏やかになる芳香が、オレの鼻孔をくすぐった。
 この香りを、オレはどこかで嗅いだような気がする。
 オレは振り向くと、目に飛び込んできたのは水色のハンカチ。
 そして、笑みを浮かべた宇尾江銀河の姿だった。
「大丈夫ですか?」
 オレはぱくぱくと唇を空転させた。
 言葉が音を有して出てこない。
 よもや、アスファルトと激突した衝撃で頭がおかしくなったんじゃあるまいか。
「あ、え……」
 オレが上手く反応できないことに対してじれったく思ったのか、彼女は差し出していたハンカチでオレの口元を優しく拭った。
 ハンカチの仄かな芳香も心地良い。それが原因で鼻血が出てしまうかもしれない。
「ほら、口が切れて血が出てますよ」
「ああ、ありがとう」
 今のオレにはその言葉で精一杯だった。我ながら情けない。
 彼女は優しい手付きで、砂利塗れになったオレを叩いてくれた。
 禍転じて福となす。塞翁が馬だ。

 日が落ちて夜になった。
 かつて黒一色に塗り潰されていた世界は、今では光で溢れている。
「悪いな」
 オレは呟いた。
 銀河は首を傾げた。
「わざわざ自転車修理にまで付き合ってもらってさ」
「別にいいんですよ。一人じゃ大変だと思ったのは本心ですから」
 ちょうど、オレと銀河は、転倒の衝撃ですっかりご機嫌斜めとなったママチャリを野毛山の自転車屋へ運び込んで修理依頼を申し込んだ帰りだった。
 オレはついてきた彼女の仕草に心をときめかせていたせいで、今では整備士になんて注文をつけたのか、すっかり忘れてしまったが……そんなことはどうでもいい。
 ともあれ、本当にどう「転ぶ」かわかったもんじゃない。
 オレは今、ようやくこの横浜という街で、女の子と肩を並べて歩いている。
 幸せすぎて死んでまうやろ。と関西人でもないのに心の中で呟いた。
「そういや、家ってどこなの?」
 オレは何気ない風を装って訊ねた。
「丁度対岸の方なんですよ」
「そりゃ凄いな。対岸ってことは、川崎とかの方か?」
「ええ。京浜工業地帯のすぐ横って感じですね」
 臨海部は東京から続く工業地帯が広がって、独自の風景を生み出している。
「じゃあ、桜木町駅まで送ろうか?」
「え、いいんですか?」
「もちろん」
 オレは強く頷いた。
 ここでみすみす返してなるものか。ギリギリまで粘ってどうにか今後に繋げたい。
「でも、私、今日は歩いて帰ろうかと思って」
 桜木町から川崎までは京浜東北線を使えばあっという間だ。
 しかし、歩きとなると何時間かかるかわからない。
 オレは一瞬迷った。
 これは、オレを撒く言葉なのか。その笑みの奥では嫌悪の表情を浮かべているのか。
 それとも、逆にオレと長い間いたい、という慎ましやかな意思表示なのか。その笑みの向こうでは、恥じらいで顔を染めているのか。
 ああ、恋愛経験がなさ過ぎて判断に困る。
「じゃあ、オレはどうすればいいかな?」
 オレはそんなことを言った。
 馬鹿か、お前は。オレは自分で自分を心の中で罵った。
 そんなところであっさり主導権を明け渡すなんて。
 ここは「着いて行く」の一択だろ。他に選択肢ないだろ。そうだろ、オレ。
「そうですね……」
 彼女はううむ、と可愛らしいことを呟いて思案している。
「……お任せします」
 彼女は笑みを浮かべた。
 こうなったら、この笑顔に賭けるしかない。
 オレは頷いた。なに、男は度胸だ。
「じゃあ、キミの安全のために……付き合わせてくれ」
 はたして、彼女は頷いてくれた。
 オレはガッツポーズをした、心の中で。
 今日は良い日だ。



「由々しき事態ですね」
 ダーツェンはぽつりと呟いた。
「ええ、承知しておりますよ。わたし自身ではギンガウォーレを倒せないでしょうから」
 ダーツェンはぶつぶつと独り言を呟きながら、建物と建物の間を軽快に飛び越えた。
 地上三十階という高さを、ダーツェンはさして気にする風もなく駆け抜けていく。
 夜の街に、彼女の影が浮かび上がった。
「問題はありません。そのために授かったアルメヴィラルエールですから」
 ダーツェンはそういうと、自身の剥き出しの右肩を優しく撫でた。
 彼女の肩は闇夜に溶け込むことない、ぞっとする白さを称えていた。

 二時間の経過はあっという間だった。
 その頃には、オレはすっかり彼女に「お熱」だった。
 白状すれば、彼女が新聞部に『我が校伝来の呪術書』などというネタを提供したのは、ひょっとしてオレに気があったからなんじゃないか、だなんて自惚れるくらい心を躍らせていた。
 異性の女の子と話すのはこんなにも楽しいことなのか。ああ、やっぱり前々からこれを思う存分享受してきたリア充は皆揃って吹き飛べってばよ、などと思った。
 周りの風景はがらりと変わり、海沿いに沿って建てられた広大な工業地帯の横を走る産業道路を歩いていた。
 その荒れ具合には、眉を顰めざるをえない。
 至る所に赤錆びが浮いた冷蔵庫やバイクが不法投棄され、ところどころにガラクタが散らばっている。
 通行人は皆無だし、道沿いに設置された街灯は間隔が広くて薄暗い。
 こんなところで暴漢にあったら、やりたい放題やられそうである。
 正直なところ、こんなところを歩いて帰ってはいけないと思う。そう思って、何とかオブラートに包んでその意を伝えようと、オレは銀河の顔を伺った。
 先程まで朗らかに笑っていた銀河の顔から、笑みが消えていた。途端に、苦しそうに胸を押さえた。背を縮ませ、息が荒い。
「……おい、どうした?」
 ぐらついた彼女にオレは思わず手を差し伸ばした。
 軽快な音がして、その手が振り払われる。
 オレは彼女の所作に衝撃を受けた。あの優しい銀河が、オレの手を振り払った。
 オレは怪訝な表情で彼女を見つめた。
 顔面蒼白となった彼女は、唇を動かした。
 声は出ていない。しかし、オレにはなんて言っているのかわかった。
「……逃げて?」

 全てが遅かった。
 不意に鼻を突く、焦げくさい匂いが漂った。
 何だかそれが自分のすぐ近くで発せられるな、などと思い、眼下を見て絶句した。
 制服の袖が沸騰したかのように溶け出して、オレの腕は自らの赤い鮮血で滲んだ。一拍遅れて襲ってきた強烈な痛みに、オレはのた打ち回った。
 すぐに患部をさすりたい。さすって痛みを軽減したい。しかし、表面の皮を失った腕に触れると激痛が走った。
 一体何が起きたというんだ。訳がわからない。
 足元で砂利が擦れる音がした。
 銀河が痛みに震えるオレを見下していた。その顔に表情はなく、冷やかな視線に背筋が震えた。
「どうやらこの勝負は、わたしの勝ちみたいね……」
 その口調は、銀河に似て非なるものだった。人を小馬鹿にした様なニュアンスを、隠す事なく漂わせている。
「……おまえは?」
「なに、その問いは? まるでわたしが宇尾江銀河じゃないみたいな風の質問は」
 彼女はそう言うと、顔を歪めた。
 そんな表情、全然銀河っぽくない。オレはそう感じていた。
 彼女はその場にしゃがみ込むと、手を掲げた。
「悪く思わないで。でも、わたしはこうするしかないの」
 不吉な気配がひたひたと迫って来るような気がした。
 オレは反射的に目を閉じてしまっていた。
 何が一体どうなってしまったんだ。勝負? 意味がわからない。怒涛の展開についていけない。
 そして、オレはこんなところでむざむざと殺されてしまうのか。自分の死ぬ理由すらよく知らずに、こんなに呆気なく……。
 オレは息を飲んだ。
 そして、願った。
 死にたくない、と。



 三つの線が交わった時、物語が動き出す。
 この物語が喜劇か悲劇か。
 恐らく、神は知っている。

 空気の塊に押され、オレは地面に転がった。
 皮一枚剥ぎ取られた部分に砂利や石が触れて、オレはぎゃあぎゃあ悲鳴を上げた。
 死ぬ。
 死ぬ程痛い。
 でも、まだ死んでない。オレは、生きている。
 オレは涙で瞳を濡らしながら、顔を上げた。
 眼下にかざされていたはずの銀河の腕に、何かが刺さっている。
 銀色の羽が生えた、ダーツ。
「ちょうど良いタイミングだったみたいだな」
 頭上から声が聞えた。
「……これを投げたのは、あなた?」
 銀河は腕に刺さったダーツを抜き取ると、その場に捨てた。
「いかにも」
 現実から乖離したいでたちの少女は、威風堂々の面持ちで呟いた。
「……おまえは?」
 オレはよろよろと力なく立ち上がった。
 彼女は笑った。その品のある笑みに、ともすればオレはすがりたくなる。
 しかし、彼女の姿は見れば見る程胡散臭い。
 中性的な顔立ちは、可愛いというよりも美しい、という表現の方が相応しい。胸がなければ男と見間違えたかもしれない。
 短い白髪は涼やかで、大きな瞳は夕日の様に赤い。
 露出した肩の肌なんかもまるで血が通っていないように白っぽくて、なんだか生きている感じがしない。なんだか作り物めいたミステリアスな雰囲気を纏っている。
 上半身は身体にぴたっとくっついていて、彼女の身体つきの良さをこれでもかと訴えている。逆に、ズボンはだぼだぼだ。ブーツから、日本人離れした脚の細さは窺える。
 闇夜に浮かぶシルエットは、袴みたいなイメージだ。しかし、その現代日本の服装文化からすれば甚だ理解に苦しむ格好をした少女の登場に、オレは困惑した。
 で、誰この人?
 よもやコイツもオレを狙ってる、とかはナシな。いや、マジで。
「わたしの名は、ダーツェン。神が人を生み出す前に、そのプロトタイプとして生み出した序列第一七六位の天使さ。長い間、天上界でただ見守っているだけだったから、同僚からは駄目天使ということで『駄天使』などとと言われているが、まぁいい」
 端的に言おう、何それ。
 正直に言おう、さっぱりわからん。
 願ってもない救世主が発した意味不明な自己紹介に、オレは頭を傾げた。
 大体、天使ってなにさ。いや、全然説明になってないから。訳わかんないから。
「それよりも……」
 ダーツェンと名乗る彼女は言った。
「そんな酷い怪我を負って、大丈夫か?」
「……大丈夫じゃない、大問題だ」
 オレはほうほうの体でようやく立っているようなものだ。痛みと吐き気で倒れてしまいそうだ。
 一応、気遣ってくれるのは、ありがたいんだけどさ。
「そんなこともあろうかと、わたしはおまえにプレゼントを送ろう」
 彼女は、右肩に手をやった。
 空間が歪み、そこから光輝く長い棒のようなものをゆっくりと引き抜いてゆく。
 まるで、手品を見ているみたいだった。
 自らの目を疑った。
 彼女は、自身の身長よりも長い槍を取り出すと、オレに向かってぶっきらぼうに投げた。まさに、「投げ槍」だ。
「それはアルメヴィラルエールだ。神の鍛えし投矢。つまりは長いダーツだ」
 オレはまじまじと受け取った槍を眺めた。
 眩い光沢を宿しているのに、まったく重量がない。ティッシュのように軽い。それでいて、妙にしっくりときて、手に馴染む。
「神はこれを物干し竿として使っているらしい。長年『干されていた』わたしに対する皮肉だろう。……もっとも、神が洗濯などをしている姿など、わたしは見たことがないがね」
 彼女なりの気の利いた冗談らしいが、正直なところあんまり面白くない。
 なんだよ、物干し竿って。神も洗濯すんのか、洗濯板でゴシゴシと。
「くれぐれもアルメヴィラルエールから手を離さぬように。ギンガウォーレの剣圧に汚染されてしまうからな」
「ギンガウォーレ?」
「目の前に佇む彼女のことだ」
 ダーツェンの指に従い、オレは銀河を見た。
 銀河の姿が揺らいだ。
 次の瞬間には、そのいでたちが変化した。
 上半身は身体のラインを浮き上がらせ、下半身はゆったりした、袴にも似たスタイル。
 血の様に赤い髪に鋭い眼光。顔付きは銀河そっくりなのに、厳しい表情に変わる。
 銀河改めギンガウォーレは虚無を掴むと、手を引いた。
 どこから抜いたのか、その手には一振りの太刀が握られている。その反った刃が赤く光った。
「久しぶりだなあ。わたしも彼女とは久しく会っていないんだ」
「おまえ、オレを助けてくれるのか?」
 オレは思わずたじろいで、ダーツェンに訊いた。
「わたしの使命。それは堕天し地に降り立ったギンガウォーレを天上界に連れ戻すこと。そのために神はわたしに、おまえを頼る様に言った。だから、ここで死なれては困る。神の言うことは絶対だからね」
「で、あの子……銀河は一体何者なんだ?」
 オレは叫んだ。
「さっき言っただろ? あれがギンガウォーレだ。わたしが天上界に連れ戻さなくてはならない宿敵であり、おまえが倒さなくてはならない、運命の女だ」
「あの子が……!?」
「もっとも、ギンガウォーレと『銀河』という少女とはどうやら違うようだ。この世界にギンガウォーレが降り立った時、人の姿をした、おまえの言う『銀河』なる少女を生み出した。普段はその『銀河』という少女の姿で過ごしているようだが……」
 そう言って、大胆不敵な笑みを浮かべるギンガウォーレを睨んだ。
「あれが、その大本、というよりも、正体だ」
「わたしを天上界に連れ戻す? それは滑稽ね」
 ギンガウォーレは笑った。
「ともかく、力を貸してくれよ?」
 ダーツェンは片方の目を閉じた。いや、こんな時にウインクすんな。
 ダーツェンの白い衣がはためいた。
 先程まで彼女がいた空間を、赤い閃光が切り裂いて、大地を大きく削り取った。
「くそっ」
 その余波がオレにも襲いかかる。
 ダーツェンから手渡された巨大な槍が、衝撃波を防いでくれる。
 しかし、傷付いた腕の痛みは一向に引かない。剥き出しになった神経を引っ掻かれている様な感覚に手元が覚束ない。
「さすがのアルメヴィラルエールといえど、一度傷付いたおまえの身体までは癒さない。それを肝に銘じるんだな」
 オレはギンガウォーレに向き直った。
「おまえは、オレの敵なのか?」
 ギンガウォーレは首を振った。
「さあ。それはあなた次第。わたしは、あなたが敵として立ちはだかりそうだったから、先手を打っただけで。やめてくれ、と言えばやめるし、戦えというのなら……」
 ギンガウォーレは刀を構えた。
「容赦はしないわ」
「そうか。じゃあ……」
 オレはアルメヴィラルエールを構えた。
「黙って帰ってくれ。オレはこんなところで先手を打つとか言うふざけた理由で死にたくない」
 ギンガウォーレは溜息をついた。
「でも、あなたはそこの駄天使さんと組んで、わたしを捕まえるんでしょう? それは困るわ」
 オレはちらりとダーツェンを伺う。
「まあ、最終的にはそうなると思うがね」
 唐突に刀が振り下ろされた。
 正面から強い衝撃波が襲ってくる。オレは思わずアルメヴィラルエールにしがみついた。
 周りの風景が一瞬にして変わって行く。
 無機質なコンクリートでできた工場の壁がひび割れて風化していく。
 アスファルトが剥がれて、剥き出しの茶色い地肌が顔を出し、大型トラックの車体がアルミ缶のように潰れて転がった。パイプの配管があらぬ方向にくねくねと折り重なる様に曲がる。
「さて。あなたは一体どうする? わたしになぶり殺されるか、わたしをなぶり殺すか」
 ギンガウォーレは刃先をオレに向けた。
「二つに一つよ」

 人間、命が賭けられれば、大抵のことはできる。
 それは嘘だ。
 人は、ただその場の状況に流されるだけだ。
 結局、人は決断しなければ何もできない。
 何も変わらず、何も変えられない。
 ――決断、しなければ。

 ギンガウォーレの剣先から放たれた強烈な赤い波。
 オレはアルメヴィラルエールを盾代わりにして、それを防いだ。
 てか、剣なのに射撃兵器みたいに使えるとか、反則なんじゃねえの。
「守ってばかりじゃ状況は変わらないぞ?」
「そう言うなら、手伝ってくれよ!」
 ダーツェンは頬を掻いた。
「まあ、手伝うこともやぶさかじゃないが。本来、天使同士で争うことは神によって厳しく制限されているんだ。例え、ギンガウォーレが堕天した堕天使であろうとね。だから、お膳立てくらいしかするつもりはないよ」
「ホントダメな天使だな、おまえ!?」
 オレは声を荒げた。
 じゃあ、何のためにここまで来たってんだ。ふざけるのも大概にしろよ。
「奴が従者とか呼べば、そいつらくらいは倒してやってもいいのだが……。まぁ、いい」
 ダーツェンは懐から一本のダーツを取り出した。
 ダーツは銀色に瞬いていて、恐ろしく長い。銀色の鳥の羽が生えていて、芸術品の様な美しさを称えている。
「我が名ダーツェンの由来にして、神から与えられた数奇な能力の賜物を、本舗初公開ということでご覧に入れよう」
 御託はいいからさっさとしろよ。てか、そのダーツはさっき見たし。
 ダーツェンは手にしたダーツを虚空に向かって投擲した。
 その針は翼が風を捉えて高く舞い上がった。最初は緩慢な動きだったのに、ぐんぐんと速度が上がって行く。
「これは……」
「的に向かって矢を当てる能力さ」
 やがて電光石火の早さとなって、ギンガウォーレに向かって襲いかかった。
 しかし、ギンガウォーレは軽々と身を躍らせると、事もなげにダーツを避けた。
「おい、避けられたぞ!?」
 ダメじゃん、その能力。てか、的に向かって矢を当てるって、普通にダーツ投げとるだけやないか。どや顔してまで言う程の能力じゃないし。
 ギンガウォーレは姿勢を立て直すと、剣先をダーツェンに向けた。
「序列一七六位の分際で、このわたしに立ち向かったことを後悔させてあげる」
 ギンガウォーレは鼻で笑った。
 剣が赤い光を帯びた。
 ダーツェンは特に武器を携行していない。よもや、彼女は生身でギンガウォーレの攻撃を防げるのか。
「さよなら、ダーツェン」
 ギンガウォーレの笑み。
 紅の光が飽和すると、闇を切り裂いた。耳に染みる不快な爆発音が周囲に轟いた。

「ダ、ダーツェン!?」
 オレは思わず叫び声を上げた。
 あの赤い閃光が自分に向かっている時こそ気付かなかったものの、傍で見ていると身震いがした。
 赤い光が黒い世界を染めた。
 剣先にあったビルの煙突が根元から叩き折られ、地球の重力に従って崩れ落ちた。物音と共に砂煙が周囲に立ち込める。
「あっさりヤラレやがった!?」
 オレは目を見開いた。
 煙の先からダーツェンの姿が見えることを願った。しかし、無情にもただ視線の先に広がるのは、完膚なきまでに破壊された世界だった。
 オレは思わず唇を噛み締めた。
「てめえ! やりやがったな!」
 オレは目を怒らせて、ギンガウォーレを睨んだつもりだった。しかし、彼女はまったく別のところを見ていた。
 自分の肩。
 そこに刺さったダーツを。
「……これは、一体?」
 ギンガウォーレは眉を顰めた。
「あのね、勝手に死んだかのように語らないでくれるか?」
 オレが振り返ると、ダーツェンはしれっとした顔をして言った。
「……え、一体何が?」
 事態が上手く飲み込めない。
 てか何、無傷でさも何事もなかったかのように佇んでんの、おまえ。
「言っただろう? わたしの能力がなんであるか」
 ダーツェンは肩を竦めた。
「でも、あのダーツは当たらずに避けられたはずじゃあ……」
「さっき言っただろ。わたしの能力は、的に矢を当てる能力だと。つまり……」
 ダーツェンはダーツを構えた。
「わたしの投げた矢は目的物に必ず当たる。決して、目標を撃ち漏らしたり、違えることはない。一発必中の投擲能力。それがわたしが神から与えられた力」
 オレは息を飲んだ。
 それなんてチート。神は中二病患者か。
「なるほど。一度は避けたダーツが再度わたしを狙い、肩に刺さった。それで剣先がぶれて難を逃れたと」
 ギンガウォーレは肩に刺さった釘の様に長いダーツを引き抜いた。
「しかし、針一本ではこのわたしを倒す事は不可能じゃないかしら」
 ギンガウォーレは笑った。
 ダーツェンもそれに合わせて笑う。
「だから、彼に会いに来た」
 二人は押し黙って、視線を交差させた。
 オレもまた、アルメヴィラルエールを構えて、ギンガウォーレを睨みつけた。
 頼む、退いてくれ。
 オレは信じもしない神に祈った。
 どれくらいの時間が流れただろうか。
 厳めしい表情だったギンガウォーレは表情を崩すと、溜息をついた。
「いいわよ。今日のところは彼の願い通り、引き上げるわ。でもね……」
 ギンガウォーレは言った。
「わたしの件からは手を引く事。しっかり忠告致しましたことを、どうかお忘れなく」
 浮かべられた上品な笑み。
「では、失礼」
 彼女の姿が闇に消えた。
 オレは目を瞬かせた。
 終わった、のか。
 ダーツェンは隣に来ると、ふうっと軽く息をついた。
 高い音がした。アルメヴィラルエールがオレの手から離れ、地に転がり落ちた。
 ギンガウォーレの姿がなくなって緊張の糸が切れたからか、オレの身体は言うことを聞かずに膝をついた。
「大丈夫か?」
 彼女はオレを見下ろしながら言った。
「……大丈夫じゃない」
 オレは重たくなる瞼に抗えなかった。



 オレはあの時、決断できなかった。
 結局、オレはあの場の流れに流されただけだった。
 しかし、神はオレに決断を求める。
 ギンガウォーレと対峙するか否か。
 オレは、再度その問いを突き付けられる。
 他ならぬ、ギンガウォーレその人によって。

 焦点が定まる。
 赤い瞳とおはようを交わす事になった。
「わたしからすれば、あの邪気は香水のようなものだが、人にとっては猛毒の様だ」
 ダーツェンはオレの腕をなぞった。
「紫の痣となって残ってしまったが、まぁ、死ななかっただけマシと思った方がいい」
 オレは起き上がった。
 そこには見慣れた風景が広がっていた。オレの部屋だ。
「おまえ、オレの家知ってたのか?」
「わたしは、おまえのことはよく知っているよ。おまえが生まれるずっとずっと前から眺めていたからね」
 彼女は部屋を見回した。
「わたしは物知りなんだ。そこのポスターがルイス・ハミルトンであることを知っているし、そのカレンダーは上条衿の書いたものだし……何よりスニッカーズは人類の極みだ」
 彼女はそう言うと、口をもぐもぐと動かした。
 さては喰いやがったな、スニッカーズ。
「それと、おまえが大人しそうで心穏やかな異性が好きなこともよく」
「こら」
「そして、起伏に富んだ女性が好みなのもよく存じているよ」
「ギャー!」
 オレは素っ頓狂な奇声を上げた。
 てかプライバシーの侵害だろ、それは。
 それは健全な男子生徒には言わない、暗黙のお約束だろうが。
「そ、そんなところも全部お見通しなのか!?」
 ダーツェンは頷いた。
「胸の大きさで女性を判断するべきではない。そして、そこまで夢とロマンを求めない方がいい。現物を見て幻滅するから」
 オレは床に崩れ落ちた。
 死ねる。二回は余裕で死ねる。
 なんだこれは。エロいオレへの罰なのか。
 神よ、健全なオレを許したまえ。いや、マジで。
「あ。そういえば、アルメヴィラルなんたらは?」
 気を失った拍子に取り落としてしまったような気がする。
「おまえの右肩に収めてある。あと『なんたら』じゃない。アルメヴィラルエールだ」
 オレは何気なく右肩をなぞって、その真意に至って愕然とする。
「何それ!? 右肩って、え……どういうこと!?」
 オレは手をばたばたさせて慌てふためいた。
「だから、アルメヴィラルエールはおまえの右肩に眠っている。使いたい時には、肩の上に広がる『空虚』に手を伸ばして、あとは掴めば引き出せる」
 いや、説明したつもりだろうが、オレには意味がわからない。
 何それ、神様の作った武器は体内に収納可能なのか。
 それって、おかしくないか。
「身体にアルメヴィラルエールが宿っているうちは、ギンガウォーレによる汚染だって防いでくれる。なんせ、神が鍛えた投矢だからな。おまえは天使じゃないから、投擲しても必ず目標に当たる、なんてことは起きないけれど。それでも神のご加護に感謝するべきだ」
 オレは曖昧に頷いた。
 ついていけない。
 神とか天使とかアルメヴィラルなんとかとか、意味がわからない。
 もし神がいるというなら、問いたい。神は、オレに何をしろと言うのだ、と。
 オレは慌てて首を振った。いや、そんなことよりも問わねばならないことがある。
「それよりも、銀河は!? 銀河はどうなった?」
 ダーツェンは豪快に笑い飛ばした。
 そして、笑い終えると、眉を顰めた。
「それはさっき言っただろう? だから、宇尾江銀河という存在は、ギンガウォーレがこの世に溶け込むための隠れ蓑だ」
 オレは口をぱくぱくと鯉の様に動かしていた。
「じゃあ、オレが学校で話していた銀河は……」
「ギンガウォーレの操り人形だよ」
 オレの脚から力がふっと抜けて、ベッドに力なく腰掛けた。
 立ち上がろうにも、膝がいうことを聞かなかった。

 ニュースをつけると、臨海部の工場火災で持ち切りだった。
 東京湾に軒を連ねた多くの工場が操業停止に追いやられているらしい。
 オレは頭を痛めた。
 だけど、オレのせいじゃないよな。オレは巻き込まれただけだから、どっちかっていうと被害者だよな、などと思った。
 良心の呵責に苛まれていると、風呂場で悲鳴が上がった。
「なんだこれは!?」
 オレはその声にテレビから顔を逸らした。
「迸る温かい水、立ち込める湯気。これがシャワー……。人間の知恵の結晶ってところか。実に洗練されたものだな」
 オレは思わず大声を上げてしまった。
「素っ裸でこっち来るな!?」
「……どうした? 目が痛いのか?」
「早くあっち行けよ!」
 幸か不幸か、肝心なところは見えなかった。しかし、網膜に焼き着いた白い裸体は脳裏から拭えない。
「おや、現物を見て幻滅したか?」
「うるさい黙れ!」
 オレは怒鳴り声を上げた。オレのピュアなこころを弄ぶな。不覚にも、心臓が暴れ出してしまったじゃないか。
 てか、シャワーくらいで飛び出してくんなよ。それとも、天上界にはないのか、シャワー。
 オレはどぎまぎしていると、鼻唄が聞えてきた。
 納得がいかない、いろいろと。

 オレはベッドに横たわると、ポケットをまさぐった。
 そこから出てきたのは、水色のハンカチ。
 宇尾江銀河。
 ギンガウォーレの生み出した、この世界に溶け込み、オレに近付くために用いた操り人形。
 オレは目を瞑り、大きく溜息をついた。
 なるほど、そういうことなら全て合点がいく。
 後々ダーツェンと組んで自分を打倒するであろう人間をさっさと片付けるために、オレ好みの女の姿で現れて、ダーツェンと出会う前に消す。
 至極当然なことじゃないか。
 オレは心の中で笑った。
 目を瞑っても、銀河の朗らかな笑顔が浮かんでくる。
 オレは洟を啜って、水色のハンカチで瞳を拭った。
 幸せ満点の芳香が漂って、なおさら泣けた。

「不思議なものだな」
 オレがベットでうずくまっていると、ダーツェンは声をかけてきた。
「何がだよ?」
「いや。せっかく神が人に意志を与えたというのに、素直じゃないなんて」
「おまえ誘ってんのか!?」
 オレは起き上がってダーツェンを睨もうとして、また叫び声を上げた。
 ダーツェンは、白いバスタオル一枚というもの凄い格好だった。
「服を着ろ、服を!?」
 そして、笑みを浮かべてこっちを見んな。
 どこか勝ち誇っていて、相対的に負けている様な気がするから癪に障る。
「洗ったんだ」
 しれっと言ってみせる。
「だから、アルメヴィラルエールで乾かそうと思って……」
 彼女はそう言うと、オレの右肩に手を伸ばして人体に収納可能な物干し竿疑惑のあるアルメヴィラルエールを引き抜いた。
 何度見ても、その光景は手品そのもので、納得できない。
 彼女はかなり大仰に振りかぶったので、その拍子に白いバスタオルが床に落ちてしまった。
 オレは悲鳴を上げた。
「だから言ったんだ!」
「なんだ、嬉しくないのか? わたしの裸だぞ?」
「嬉しくない! 大問題だ!」
 オレは声を大にして叫んだ。何度も何度も叫び過ぎてもう喉が痛い。
「その割には顔が赤いぞ?」
 ちくしょう、これは健全な男子の極めて正常な反応だ。断じて、助平だからじゃない。たとえ助平だったとしても、助平という名の紳士だ。
 てか、そもそもなんでそんなに開けっ広げで放漫なんだ。
 オレはダーツェンから引き抜いたアルメヴィラルエールを受け取ると外に出た。
 アルメヴィラルエール。神が鍛えし魔法の投矢。
 オレはダーツェンが洗った着衣をアルメヴィラルエールに通す。
「しかし、本当に乾くのか?」
 この世にはドラム式乾燥機という、大変便利な人類の英知があるのだが。
 それとも、それ以上にこのアルメヴィラルなんたらは凄いのか。
 オレは軽くアルメヴィラルエールを振るった。
 アルメヴィラルエールに引っかけていた、水が滴っていたダーツェンの着衣から湯気が上がった。
 それだけじゃない、刃先から火花が飛び出したような気がした。
 オレは思わず、奇妙な声を上げていた。
「なるほど、物干し竿疑惑の訳がわかった……」
 オレは白い光沢を放つ着衣を握ろうと手を伸ばし、すぐに手を引っ込めた。
 オレは声にならない叫びを上げ、思わず周囲を飛び跳ねた。
「すっげえ熱い!?」
 オレは掌をじっくり眺めた。真っ赤に腫れ上がって、ところどころから焼き肉の香ばしい香りがする。
「納得いかねえ!」
 オレは声を荒げた。
 なんだか、ここのところずっと叫んでいるような気がした。

 オレは真っ赤になった手を振りながら、窓に手をかける。
「……天使って下着穿かないのか?」
 いや、さすがにオレも天上界にブラやパンツがあるなんて、思っちゃいないけど。
 それでも、女の子はちゃんと下着をつけていて欲しいと思った。
 神は天使達に中二病みたいな能力を与える前に、天上界にワコールを作った方がいいと思う。
「てか、こんなに熱くなってんのに、焦げないって凄えな……」
 ダーツェンの服、一体何でできてんの。
「これから着るのに畳まなくてもいいんじゃないか?」
 ダーツェンに服を差し出すと、至極まっとうな指摘を受けた。
「あ、ああ。そうだったな、いや、つい癖で」
 ダーツェンはしげしげと服を眺めた。我ながら丁寧に畳んだ服をどこか嬉しそうに眺めている。
「一人は寂しいか?」
 オレは押し黙った。
 彼女は言った。オレのことをずっと見ていた、と。
「寂しくなんかないさ。オレは生れてこのかた、ずっと一人だったからさ」
 オレはダーツェンから背を向けた。
「そうか、ならいい」
 彼女はそう言うと、服を身につけ始めた。オレはその間、ダーツェンに対して背を向けていた。
「わたしもずっと一人だった」
 ぽつり。ダーツェンは呟いた。
「随分と長い間、神からお声がかからなかったからな。お陰で、皆から笑い物となった」
「……おまえは寂しいのかよ?」
「いいや」
 ダーツェンは首を振った。
「眼下に広がる青い星を眺めていたからな。肩身が狭くて何だか窮屈な気分だったが、それでも退屈はしなかったよ」
「ふうん」
 オレは曖昧に呟いた。彼女の気持ちがわかるような、わからないような、どっちつかずで宙に浮いている様な変な気分だった。
「そうだ。おまえ、ダーツで遊ばないか?」
 彼女は笑った。その笑みはクールビューティー、といった趣だ。
「で、勝った方がこのスニッカーズを頂く、というのはどうだろう?」
 いや、それ元からオレのだから。
 てか、天使の癖に喰い意地張りやがって。
「そもそもおまえって、目標を違わず狙い撃ちにできるんだろ?」
「もちろんだ。では、早速始めようか?」
「だが断る」
 負けるに決まっている勝負じゃないか。
「そうか。それは残念だ……」
 ダーツェンは思い切り肩を落とした。
「わたしはおまえとこうして、少しでもいいから親睦を暖めようと思ったのだが……」
 彼女は物憂げに眉を寄せた。
 さすが天使、その美しさは無類で他を圧倒している。
 そんな顔をされただけで、オレはひょっとして非常に罪深いことをしてしまったのではないか、と罪悪感に苛まれた。
「……えっと、今の発言、取り消すわ」
 ダーツェンは目を輝かせた。
 オレは、その光に不穏な気配が覗いている事に気がつかなかった。

「天使は神の使者として派遣され、神意を人に伝え、時に人間を守護する者。天の使い、として神から派遣された者……文字通り『天使』という訳だ」
 どうやらダーツの形状は問わないらしい。投矢として投擲できるものなら、ダーツェンは狙い通りのところに当てることができた。
 ダーツェンの足元にはスニッカーズの山々が築かれ、遠目から見ると山脈のように見えた。スニッカーズ山脈。天使らしからぬ大人げなさである。
「で、序列第七位のギンガウォーレはさじを投げた、と」
 オレはダーツを投げた。
 丸い的から外れ、壁に激突すると床に転がってしまった。
 ダーツェンはオレを見据えた。
「神は命じた。ギンガウォーレを天上界へと連れ戻せ、と。それ故、わたしはここにいる」
 オレは頷いた。
 彼女はダーツを構えると、宙に放った。
 ダーツは、真っ直ぐ的の中心に刺さった。
 まるで、羽ばたいている様に。自分の意思があるかのように。
「じゃあ、ギンガウォーレは神の小間使いが嫌になって?」
「さあね」
 ダーツェンはダーツを指で弄んでいる。
「ただ、ギンガウォーレの気持ちもわからんでもないがね。わたし達の多くはそれに無自覚だが、わたしの思いも行動も、その結果という未来でさえ、神にとっては自明なのさ。中にはその未来さえ見る天使もいるくらいだからな。残念な事に、わたし達は運命に弄ばれているのさ」
 オレは思わず言葉を飲み込んだ。
 彼女の表情は、人間の様に脆かったからだ。
 オレは何か言おうとしたが、結局何も言い出せなかった。
「そうだ、おまえはこのスニッカーズの山をどう見る?」
 急にダーツェンは自分の足元に築かれた山を指差した。
「いや、見るも何もないだろ?」
「そうか、これは面白いと思うぞ」
 そう言うと、ダーツェンは山から一つスニッカーズを取り出すと、包みを解いて頬張る。
「さて、この山に何か変化は起きたかな?」
「……いや、一本なくなっておまえが喰ってるだけだろ」
 全戦全勝を運命付けられた能力を濫用して、オレから取り上げたスニッカーズの山だ。忌々しい。
「じゃあ、これは?」
 一本を早々とたいらげると、包装紙を床に落とした。
「ゴミだろ?」
「おまえに訊ねよう。これは山か?」
「山な訳ねえだろ」
 てか、ゴミ箱に入れろよ。
 ダーツェンは器用に足の指を使って、またもやスニッカーズの袋を掴むと手に移しかえてかぶりついた。
「これでどうだ?」
「いや、さっきと同じだろ? スニッカーズの山からまた一本取っただけだろ」
「そうか、じゃあ……」
 そうやって、山から袋を拾い上げては頬張って行く。
 てか、そうやってイッキにスニッカーズ喰うと太るぞ。
 味わって食べないと、食べられるスニッカーズに対して失礼だ、とオレは思った。
「ふう。あらかた片付いたな」
 ダーツェンは腹と背中がくっつきそうなくらい厚さのない腹部をさすった。
 一体その薄い腹のどこに、こんなに貪欲な食欲が宿っているっていうんだ。
「おい、片付けんなよ!?」
 そもそも元はと言えば、オレが食べようと思って買ってきたのに。
 しかも、目の前でうまそうに頬張るな。こっちも無性に食べたくなってきた。
「……お前な、もう二本しか残ってないじゃないか」
「さて、これはスニッカーズの山か?」
「な訳ねえだろ!?」
 あれだけ豊かなスニッカーズ山はとうとう二本しか残ってないぞ。どうしてくれるんだ。喰わない分はオレが食べようと思ってたのに。
「で、包装紙の状態は?」
「……なんか、チョコまみれの包装紙の山が一大勢力を誇ってるんですけど」
 オレは眉を顰めた。
 おまえが片付けろよ、この山。
「わたしはスニッカーズ一本をたいらげる度に、山と包装紙の状態を問うてきた訳だが。そもそも、スニッカーズの山、と評した時、山の意味とはなんなんだろうな」
 オレは眉を顰めた。
「いや、山の意味って、要は『山の様に沢山ある』ってだけだろ」
「そう、沢山。沢山だ。で、沢山って何だ?」
「沢山は、そりゃ……いっぱいってことだろ?」
「うん、で、何本のスニッカーズ、あるいはその包装紙が集まれば、『いっぱい』になるんだ?」
「知るかよ」
「そう、わたしたちはそれを知らない。だが、わたし達は多く積まれたスニッカーズを見て、『ああ、スニッカーズの山だな』という。一本一本の『スニッカーズ』でしかなかったものが、一定数の数が集まった途端、『スニッカーズの山』として認知されるし、そこに意味が生まれ、わたしもおまえもそれを認めた訳だ。で、これは凄いことじゃないか?」
 オレは唸った。
 そんなことはどうでもいい。



 夢を見た。
 宇尾江銀河と笑い合う、そんな夢だ。
 別に何か特別なことが起きた訳じゃない。
 とりとめのない話をして、二人で笑っていただけだ。
 そんな単純な夢だったのに。
 オレは涙を流していた。

 夜が終わり、日が上ってきた。
 オレは冷えた床に背中を刺激され、目を覚ました。
 力なく起き上がると、ベッドの上ではダーツェンがぐうぐうと寝息を上げていた。
「……この駄天使め」
 オレはこめかみに血管を浮き上がらせた。
 いつの間にオレのベッドに潜り込んだんだ、こいつ。
 しかも、家主であるオレを蹴落としてベッドの中心で惰眠を貪るとか論外だろ。
 オレはベッドをあまねく支配する駄天使を見下ろして溜息をついた。
 やめよう、朝から怒るのは。
 オレは朝食の支度をしながら物思いに耽った。
 これから、オレはギンガウォーレと対峙しなくてはいけない。
「なあ」
「ん?」
 ダーツェンは起き上がって来るなり、おはようも言わずに、オレが食べるために焼いた食パンに齧りついた。
 しかも、オレの服を勝手に借用したばかりか、それを寝巻として使っている。これは実に由々しき事態だ。ただ、男物のぶかぶかの格好をした女の子は、それはそれで可愛かったので黙っておく。
「たとえば、の話なんだが」
「うん?」
 オレは口ごもった。
 なんと言えばいいのか。オレは慎重に言葉を選んだ。
「銀河を助けて、ギンガウォーレを倒す、ってのは可能か?」
 ダーツェンはそれを聞くと、大声を上げて笑った。
「……いや、何を言い出すかと思えば。それは恐らくできない」
「できないって、おまえ、天使だろ?」
「天使だろうが堕天使だろうが、駄天使だろうが、できることとできないことがある。全知全能の神じゃあないんだ」
 オレは唇を噛み締めた。
「まあ、宇尾江銀河自身の身柄の確保自体はどうにかなるかもしれない。というのは、彼女はアルメヴィラルエールみたいなものだ。おまえはそれを武器として使い、ギンガウォーレはそれを隠れ蓑として使う」
「それって、どういうことだ?」
「アルメヴィラルエールみたいな空間に、普段ギンガウォーレの本体がいる。逆に、ギンガウォーレの本体が、居る時は、逆にその空間に銀河がいる。つまり、アルメヴィラルエールを『虚無』から引き抜く時のように、ギンガウォーレの『虚無』から宇尾江銀河を引きだすことができる。つまり、救出可能ってことだ」
 オレは笑みを浮かべた。
「だけど、ただ救えばいいってもんじゃない」
 ダーツェンはオレの笑顔を見ると早合点するな、と言わんばかりに息を吐いた。
「まず、宇尾江銀河の存在。それはギンガウォーレにとって、この世界で暮らす仮の姿であり、他の天使達の監視の目を潜り抜ける欺瞞なんだ。そして、はじめておまえと会った時の様に、人気のないところまで誘導されて殺されかけた様に、ギンガウォーレは自由自在に宇尾江銀河を操ることができる」
「マジかよ。一体どうやって?」
「人の意識に介在するのさ。人間の意思決定は潜在意識下における欲求の競合の結果なんだ」
「正直に言おう、さっぱりわからない」
「説明しよう。おまえの中には沢山の欲求がある。珈琲を飲む、テレビを見る、お手洗いに行く、寝る、遊びに行く、銀河のことを話す……。そういったしたいやりたいがぶつかり合って、プライオリティ――優先順位が高いものが結果として行動に繋がる。珈琲を飲むよりも、お手洗いに行くよりも、銀河の事を話したい。その欲求が『おまえがこの話をしたい』という認識に繋がって、『じゃあ、銀河の話をしよう』と思って、こうしてわたしに話しかけるという行動に繋がった、という訳さ」
「じゃあ、まさか……」
「ギンガウォーレは宇尾江銀河の欲求のプライオリティ、これを報酬系というのだが、そにに作用して銀河の行動を操っている訳だ。電車で帰るよりも、歩いて帰る欲求を過大に見積もらせることで、彼女は『歩いて帰る』という選択をする訳さ」
 オレは何も言えずに押し黙った。
「つまり、彼女は自分が自己決定していると思っているはずだが、それは幻想で、実態はギンガウォーレに操られているって訳さ。しかも、報酬系に作用することで『操られている』ということを悟られずに操ることができる」
「じゃあ、銀河はそもそもギンガウォーレなる存在がいることすら知らないってことか」
「多分ね」
 オレは眉間に皺を寄せた。ダーツェンはそんな顔をするな、とばかりに髪を掻き揚げた。
「つまり、彼女を助けたとしても、根本的な解決には至らない。彼女を操る大本、つまりギンガウォーレを倒さぬ限り、彼女に本当の自由は訪れないってことさ」
「そこを……どうにかできないのか?」
「それは難しいな。例えばおまえ達は『この仕事が終わったらバイト代がもらえる』などと、長期的な報酬を予測することで、疲労や空腹といった短期的欲求を抑えて仕事を優先できる。つまり、銀河の本来の欲求が、ギンガウォーレが過大に見積もった欲求よりも強ければ意思は操られない。しかし、欲求を操作する大本を叩かないと……」
 ダーツェンは深い溜息をついた。その溜息の深さが、困難を如実に表している。
「ここまで話したからおまえもわかってくれていると思うが、そもそも潜在意識下のことだからな。そうなると当人の努力じゃどうにもならない次元の話になる。だから、残念なことを言うようで悪いけれど、そこには最初から期待しない方がいい」
「わかった。じゃあ、ギンガウォーレを倒せばいいんだな」
「む」
 ダーツェンは唇を曲げて口ごもった。
「まぁ、その通りだ。要はギンガウォーレによる報酬系の干渉から銀河を救えばいい、ということだ。だが……」
 ダーツェンは咳払いをした。理知的な彼女らしい所作だ。
「ギンガウォーレは強い。しかも、例え堕天使とは言え、天使同士の争いは表向きはご法度ということになっている。わたしはあくまで天上界に連れ戻すのが使命だし、それ故、アシストくらいはするつもりだが、わたしが直接しゃしゃり出てギンガウォーレを完膚なきまでに倒すっていうのは……」
「わかってる。そのためのオレなんだろ? つまり、ギンガウォーレを直接ぶん殴るのはオレの仕事だから、てめえでやれってことだろ?」
 彼女は頷いた。
「わかった。で、実際のところ、どうやってギンガウォーレを倒せばいい?」
「さあ」
 オレは壮大に転んだ。
「さあ、って何だよ」
「まぁ、アルメヴィラルエールを使って戦うのがいいと思う」
 それくらいオレでもわかるっての。
 オレが訊きたいのは、もっと個別具体的な話だ。
「しかし、ダーツを投げて援護、支援くらいはするつもりだから。わたしとしては、あんまり気が進まないんだがね」
「神様の命なんだろ? 別にいいんじゃないのか?」
「そりゃそうだ、神は絶対だからね。でも、天使同士の争いを禁じるのも神の命なんだよ。だから心が痛いよ」
「てか、神様は一体何をしてんだ? 神様にかかればちょちょいのちょいじゃねえの?」
「その通りだ。でも、神は忙しいからね」
 何それ。
「でも、今回は助けてくれた方だよ。ギンガウォーレの場所を教えてくれたしね」
「そのためのステルス性を有してたんじゃないのかよ?」
「確かに、天使に対してはバッチリだったけど、神の目まではごまかせないよ」
 じゃあ、仕事しろよ、神。
「そもそも神は何でこんなに無関心な訳? 神様がはりきれば、人類は戦争とかで血みどろにならなかったと思うんだけど」
「それはまたいつか、話すとしよう」
 ダーツェンは表情を緩めて笑った。 

「多分、今日も会うと思う」
 玄関で靴を履いていると、ダーツェンがオレの背に話しかけてくる。
「誰に?」
「銀河、そしてギンガウォーレに」
 オレは頷いた。
「気をつけろよ。銀河はいつおまえに牙を剥くかわからないからな」
「そんなこと、わかっているさ」
「まあ、アルメヴィラルエールがあるから、腕を焼かれることはないと思うが。おまえ自身が強くなった訳じゃないから過信するな。わたしもすぐ近くで見ているから」
 オレは頷いた。
「ただ、疑心暗鬼になることはない。ギンガウォーレとて、せっかく人間に紛れている以上、派手におまえを襲う事はないだろうし、昨日の一件を見る限り、ギンガウォーレは色々と弁えてる」
「つまり、不意打ちというよりは正々堂々……正面から来る?」
「もともと、堕天したとはいえ、ギンガウォーレは高尚な天使だった。おまえを試すことはあっても、おまえを汚い罠に嵌めることはない。腐っても鯛、堕ちても天使だ」
 オレは思わず息をついた。
「……知った風な口を利くんだな」
「ああ、よく知ってる」
 ダーツェンは笑った。
「ゴッドスピード(神のご加護を)」

「失礼します」
 丁寧なノックが新聞部部室に響いた。
 その声にも驚いたが、何より戸から現れた姿にオレは息を飲んだ。
 宇尾江銀河。
「昨日は送ってもらってありがとうございました」
「ああ、うん」
 オレは曖昧に頷いた。
 オレは結局、彼女を家まで送り届けることができなかった訳だが。恐らく報償系をいじられて、そんなことを言っているんだと思う。
 いや、きっと記憶とかもいじられているんじゃないか。
 オレは、心の中でギンガウォーレに対する怒りを爆発させていた。
「どうしました?」
「え、いや。別に!」
 オレは憎悪をふりほどいた。
 ダーツェンの話が本当ならば、彼女に罪はない。
 ただ、堕天使に隠れ蓑として使われて、操られているだけだ。
 ――助けなければ。
 オレのこころのなかで、その言葉がずっと木霊していた。
「あっ!?」
 銀河は声を上げた。
 彼女の言葉に、オレは反射的に身体を強張らせた。
「……どうした?」
「手、火傷してますよ?」
 彼女はオレの手を取った。
 白くてすべすべした肌触りに、どぎまぎした。
 銀河は息を飲んだ。オレの紫色の痣が浮いた腕に、驚いているようだった。
「あの、痛くないですか?」
「ああ、凄え痛い」
 ギンガウォーレの芳香は人間にはキツいらしい。オレの腕は見るに耐えないことになっている。
 銀河はオレの手を、恐る恐ると言った感じで触った。その手付きは慎重そのものだ。
「とりあえず、保健室で包帯を貰ってきましょうか? 何かに触れる度に痛いでしょ?」
 オレは目を見張った。
「……いいのか?」
 銀河は微笑んだ。その笑みは天使のように優しくて慈愛に満ちている。
「ええ」
 彼女は言うが早いか、救急箱を保健室から借りてくると、流れるような手付きで紫色の痣が浮いた手に処置を施した。
 オレはいつ彼女が反旗を翻すか気が気じゃなかった。いつ昨日の様に襲ってくるか、おっかなびっくりという感じだ。
 しかし、彼女はきっとオレのそんな気持ちには気付いていないのだろう。穏やかな表情を浮かべて黙々と作業に没頭している。
「凄えな」
「え?」
「いや、手慣れてるんだな、って思って」
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
 銀河ははにかんだ。銀河は凄く大人びているのに、笑うと子どもっぽい幼さが見え隠れする。
「とりあえず、消毒をして、ガーゼを貼って患部が擦れないようにはしておきましたけど……」
 銀河は形良く整った眉を顰めた。
「近いうちに病院へ行くことをおすすめします」
「そうだな」
 保健室に道具やガーゼを返した後、二人で肩を並べて歩く。
 ついこの前までは願ってもないことだったのに、今はこの状況を手放しでは喜べない。
 ギンガウォーレがオレを試す。
 一体、どうやって。
 オレは頭を掻いた。気苦労でハゲてしまうかもしれない。

 運命というのは、残酷なもので。
 オレと彼女を放っておいてはくれない。
 そっとしておいてくれれば、良いものを。

 地面が揺らいだ。
 オレは思わずその場に膝をついてしまった。
 そして、振動の先に立った黒い人影に、オレは目を見開いた。
 華奢な身体を包む、ギンガウォーレのような独特の黒装束。顔は目元から鼻まで覆面を被っていて、その表情は伺えない。
 晒した口が怜悧な笑みを浮かべている。その笑みに苛立ちと殺気を覚えた。
「……これが試練か?」 
 その人影が手にしたラッパを吹いた。
 突風がドリルのように渦巻いて、オレのすぐ脇を駆け抜けた。
 電柱が、標識が、看板が、路上に止められていた車が、とにかくその空間に置いてあったものが二転三転した。
 オレは咄嗟に右肩の上に手をやった。何もない空間をオレは今確かに掴んでいた。そのしっくりくる手応えを確かめると、イッキに引き抜いた。
 アルメヴィラルエール。
 衝撃波を盾のように封じてくれる、まさに攻防一体の武器だ。アルメヴィラルエールを構えて、銀河を庇う。
「へえへえへえへえ。キミがダーツェンと組んでいる人間かあ」
 覆面が甲高い声を発した。
「……ギンガウォーレの下っ端か?」
「そうそうそうそう。ボクはバルオメロン。見ての通り、ギンガウォーレの小間使いさ」
 そう言うと、ラッパを口へ当てた。
 オレは思わず身構える。しかし、予想とは裏腹にラッパの口から「ぷおー」という気の抜けた音がした。
 唖然としているオレを指差し、バルオメロンがけらけらと不快な笑い声を上げた。
「で、下っ端風情がオレになんのようだ?」
「ヤダヤダヤダヤダ。わかってる癖にー」
 そう言うと、バルオメロンは頬を膨らませた。
 ラッパから吐き出される竜巻が、一直線に襲ってくる。風が剃刀の刃のような鋭さをもって襲う。オレは銀河を庇いながら、どうにか受け流す。
「へえへえへえへえ。さすが神から与えられしアルメヴィラルエール。ちょっとやそっとじゃ壊れないか……」
 バルオメロンは耳にする者を不快にさせる、高音域の笑い声を上げた。
「ただただただただ、かなり分が悪いよねー。アルメヴィラルエールを上手く使いこなせなければ、宝の持ち腐れな訳だし。木偶人形を守って戦うなんて、可哀想に」
 オレは思わず息を飲んだ。バルオメロンのその言葉に戦慄した。
「……おまえ、親分が宿った銀河もろともオレを倒す気か?」
「もちろん」
 バルオメロンは即答した。その答えを肯定するかのように、強烈な竜巻が襲う。
「だって、この絶好の機会を逃す訳ないだろ?」
 バルオメロンは品があるとは言い難い笑いを浮かべた。
「キミはそいつを守って戦わなければならないけど、ボクは全力でキミと戦えるんだから」
「くそっ、下剋上のつもりかよ」
「あれあれあれあれ、キミはちょっと勘違いをしているみたいだなー。確かに、キミが守ってるソレは親分の器だけど……」
 バルオメロンは唇の端を吊り上げて、白く整った歯を覗かせた。
「器は壊れたって、変わりはいくらでも作れるんだから」
 バルオメロンはそう言うと、へらへらと気の抜けた笑みを浮かべた。
 地面目がけて風をぶつけると、バルオメロンの身体はふわっと宙に浮かんだ。ラッパから噴き出される風が間髪入れずに、オレへ向けて猛然と襲ってくる。
 銀河がまいてくれた白い包帯に、赤い点が浮かび上がった。ギンガウォーレ戦で怪我した腕から血が滴っている。
「ほらほらほらほら、ボクの攻撃を全部受け止めてたら、アルメヴィラルエールよりも先に腕が千切れちゃうぞー」
 バルオメロンが上げる奇声に、オレは思わず舌打ちをした。
「おやおやおやおや、どうしたの? そんなの放っておいて、逃げちゃえばいいじゃん?」
「ドちくしょうめ、絶対泣かしてやる!」
 オレは歯を食いしばった。
 今までこんなに痛い目に遭ったことが、果たしてあっただろうか。
「なになになになに、熱くなっちゃってー? 背中がお留守だと、また焼かれちゃうんじゃないのー?」
 バルオメロンの言葉に、オレは凍りついた。
 オレは、次の瞬間には自分が守りたいと思っている存在によって、殺されているかもしれない。
 その疑念は、たちまちオレのこころの中に広がった。
「あれあれあれあれ、……気を散らしてる余裕なんてあんの?」
 その一瞬の隙を突いて、強烈な風がオレを襲った。
 前面から叩きつけられる衝撃に、オレの姿勢が崩れよろけた。
「ほんと、馬鹿な奴ー」
 バルオメロンがはああ、と大きく息を吸った。
 マズい。アルメヴィラルエールを掲げ続けなければ、竜巻にまき上げられて終わりだ。
 歯を食いしばった。一瞬の疑念が招いた窮地に、オレは追いこまれてしまっている。
 その時、オレの視界が遮られた。
 癖のない黒い髪がオレの目に飛び込んでくる。
「へえへえへえへえ、何かと思えば……」
 バルオメロンが思わず、といった感じにラッパから口を離した。
「大将、ちゃんと操っといて下さいよー。ぶっ壊しちゃいますよー?」
「……銀河、何やってんだ?」
 オレは一回りも小さいその背に問うた。
「わたしは、あなたと同じ事をやっているだけです」
 髪がさらさらと揺れて、優しさを湛えた瞳が向けられた。
「……わたしを守って、くれたのでしょう?」
 その言葉が、オレのこころを打った。
 オレは手に力を込めて姿勢を立て直すと、銀河を押しのけて前に立つ。
「おまえ、何で堕天した?」
 バルオメロンは口を曲げた。
「あれあれあれあれ、キミは勘違いしてるみたいだね。ボクは天使じゃないぞ?」
「……じゃあ遠慮はいらないな?」
 まるでその言葉を待っていたかのように、ダーツが空に放たれる。
 天使相手じゃノリ気じゃないダーツェンの唐突な登場に、バルオメロンは声を上げた。
「ちっ、ダーツェンか!?」
 バルオメロンはすぐにダーツに向かってラッパを吹いた。
 轟音と共に生み出された衝撃波がダーツを襲う。ダーツの矢が槍の先のように尖った風に煽られて、無残にも吹き飛ばされる。
「はっ! さすがは序列第一七六位。所詮はこの程度か……」
 バルオメロンはすぐに余裕を取り戻すと、へらへらと笑い始めた。
 そして、ラッパを吹く。圧縮された空気の塊が襲いかかる。
 今までに味わったことのない衝撃に、オレは思わず掲げていたアルメヴィラルエールを下げてしまう。
 途端に、強烈な風によって吹き飛ばされる。
 オレの身体も、背後で庇っていた銀河もそれぞれ、アスファルトに叩きつけられた。
 アスファルトの硬い感触が懐かしい。最近やたらと地べたには縁がある。
「ばいばいばいばい、憐れな坊や……」
 バルオメロンは息を大きく吸った。
 オレは顔を顰めた。
 今ここでアルメヴィラルエールを掲げれば、オレはこの攻撃には耐えられる。
 だが、先程の攻撃で吹き飛ばされた銀河までは守れない。
「……下らない愛と共に死にな」
 オレはアルメヴィラルエールを大きく構えた。
 見捨てるのか、何も知らない銀河を。
 それとも賭けるのか、オレは自分の命を。報われるかどうかもわからない、想いのために。
 オレは歯を噛み締めた。
 ――わたしを守って、くれたのでしょう?
 こころに、銀河の瞳が浮かび上がる。
 オレは唇を歪めた。
 馬鹿、そんなもん最初から決まってる。
「賭けてやる。オレはこの命を賭けてやるぜ!」
 だから、頼む。奇跡よ、起きてくれ。
 起こるなら、今しかねえだろ。
 バルオメロンのラッパから、法螺貝の笛のような低く響く音がした。その風が馬上槍のように進んでくる。
 オレは、渾身の力でアルメヴィラルエールを振るった。
 アルメヴィラルエールの刃先から、紅の炎が噴いた。バルオメロンの吹いた竜巻を一瞬にして掻き消した。
 炎の渦は、自身の勝利を決して疑わなかったバルオメロンの身体すら一瞬で焼いた。黒装束はさらに深みを増した黒に焦がされ、華奢な身体は地面に崩れ落ちた。

 オレはその光景を、ぼんやりと眺めた。
 自分の身に起きたことがよくわからなかった。
「そんなに強く振ったら、街中を火の海にしかねないな」
 いつの間にか隣に立ったダーツェンは、顔を曇らせた。
「なんで、炎が?」
 オレは目を丸めた。
「神はアルメヴィラルエールを物干し竿として使ったらしいと言っただろ?」
 ダーツェンは笑って、オレの背中を優しく叩いた。
「服を乾かす時には気をつけろ。力一杯振るったら、消し炭になって二度と着れなくなる」
 オレは火傷した掌を眺めた。
 ダーツェンの服を乾かす時、火花を散らしたことを思い出した。
 ああ、なんでこんな肝心なことを忘れるかな、オレは。気が動転してそれどころじゃなかった。
「しかし、彼女もろとも襲うとはね」
 ダーツェンは言った。
 オレは銀河をおぶりながら、帰路についていた。意識のない人間は重い、と言うがそれを見積もっても銀河は軽かった。ちゃんとご飯喰ってんのか、心配になる。
「天使にとって、人は代わりがいくらでもいる存在なのか?」
 オレはダーツェンに問うた。
「確かに、そういう奴はいる。しかし……」
 ダーツェンはオレに向き直った。
 その赤い瞳がきらりと輝いた。
「神は確かに、おまえを頼れと言った」
 オレは何も言えずに、ただこくこくと頷いた。



 銀河をベッドに寝かし、オレとダーツェンは改めて向かい合った。
「さっきのは一体どういうことなんだ?」
「言ったろ? ギンガウォーレはおまえを試している、と」
 オレは眉間に皺を寄せた。
「……そろそろ話してくれねえか?」
 ダーツェンは溜息をついた。
「ギンガウォーレは良い奴だったよ」
 彼女は髪を掻き揚げた。
「特に、人間に対しては積極的だった。慈悲深かった、とでも言えばいいのかな。神が与えぬ慈愛のほとんどは、彼女によるものだ。神は厳しいお方でね、なかなか人には救いの手を差し伸べることはしなかった」
 ダーツェンは素気なく言った。
「そのうちに、情でも移ってしまったんだろう。なんせ、彼女は献身的だったからね。天使随一の人間通のギンガウォーレは、もっと人を知ろうと決意した。天から彼らを眺めるのではなく、自ら進んでその中に入ろうと思った。しかし……」
「神はそれを許さなかった?」
「ああ。天使は天上界に住むことを定められていたからね。どんなに干されたって、下界に降りる事は許されなかった。そこで彼女は堕天した訳さ」
 ダーツェンはそういうとふう、と軽く息を吐いた。
「彼女は天上界から多くのものを持ち出し、下界へ配った。数々の人智を超えた天界の品は、この世界を劇的に変えた。ギンガウォーレの堕天と、天上界からの恩恵の流出に、大天使達は動き出すことになったんだが……。何分、高位を占めたことのあるギンガウォーレ相手に有効な手立ては打てず、ついに神が号令をかけることになった」
 オレは頷いた。
「ようやく決心がついた」
 オレは努めて力強い口調で言った。
「たとえギンガウォーレがどんなにいい奴だったとしても、銀河を切り捨てようってんならオレは戦うぜ」
 ダーツェンは深く頷いた。
「それでこそ男だ」
 ダーツェンは手を掲げた。
 オレは彼女の手を力強く握りしめた。
 血が通っていないかのように白い彼女の手は、とても温かかった。

「前からずっと訊きたかったんだけど」
「どうした? 急に改まって……」
「魂って、あるのか?」
 せっかく天上界から天使がやってきたんだ。日頃の疑問の解決するのも悪くない。
 ダーツェンは黙った。
「おまえ、何か宗教はあるのか?」
「いや」
 オレは無宗教だ。
「無宗教にも関わらず、肉体に宿ってこころの働きを司る不滅の霊魂とか精霊っていうものを信じているのか? 下手な宗教よりもタチが悪いぞ」
「むっ……」
 オレは口ごもった。
「わたしがなんで報酬系だとか話してたかわかるか? 古来肉体が滅びても消えない魂とかいう存在を一体どういう根拠を以て信じているんだ?」
「それを言われると……」
 ぐうの音も出ねえ。
「しかし、そう考えると面白いだろう?」
「え、何が?」
「スニッカーズの山さ」
 ダーツェンは笑った。
「人は一体何人集まれば群衆と呼ぶんだろうか。神経細胞は一体どれくらい集まればモジュールとして機能するのか。意識は一体どれくらいのモジュールが連結すれば生み出されるのか。どれだけモジュールが死んでいれば、意識がないと言えるのか……」
 オレは黙った。
「ソリテス・パラドックスというらしいね。針は一体何本あれば針の山と呼べるのかな」
「針の山って、地獄にあるっていう山か? じゃあ、魂はともかく天国とか地獄はあるのか?」
 ダーツェンは首を振った。
「おまえは変なところで物知りだな。おまえ達が抱いている、死後向かう来世なんてもの、わたしは今まで見たことがない。まあ、堕天使のたむろする場所や大天使達が住んでいる天上界の領域があるけど。そこに人間は立ち入れないだろうな。まあ、なんなら、今度神に訊いてみるよ」
「そう言えば、神はおまえに命じたみたいだけど。神はオレには何か言ってた?」
 彼女は首を振った。
「いや、神はおまえを頼るようわたしに言ったが、神はおまえには何も言っていない。神の言葉は天使にとっては絶対だけど、人は違う」
「そうなのか?」
「そういう風に、神は人をお作りになられた」
「なんでまた? 神が良いこと悪いことを決めてくれりゃ、人殺したり血生臭い戦争を続けたりしなくていいんじゃないのか?」
「天使は神に従い、人は己に従う。そういうことさ」
「だけど。人間は、善悪の判断がつかないから野蛮なことになっちゃってる訳だろ? いっそのこと、天使みたいに自分のいうこと押し付けりゃ良かったんじゃ……」
 ダーツェンは笑った。
「それについては、また今度話そう」

 その趣は、現代の眠れる森の美女だ。
 ベッドで眠る銀河の黒髪に触れると、優しい香りがした。
 普段オレの使っている枕に頬を寄せて、静かな寝息を立てている銀河は、愛おしい存在のように思える。
 いつか、オレと銀河は恋人となり、こうしてベッドで眠る日が来るのだろうか。
「……ん」
 穏やかな眉が波打ち、銀河の身体が身悶えした。
 ヤベえ。起こしちまったか。
「おはようございます」
 枕からよろよろと顔を上げ、傍らに座っていたオレを見るなり銀河は言った。
 オレは乱れた髪をそっと撫でて、寝癖を直してやる。銀河の柔らかそうな頬に朱が差した。
 彼女の恥じらいを前にして、オレも何だか気恥ずかしくなってしまい、思わず手を引っ込めた。
「あっ、悪い! これは、その……」
 オレは良い弁明が思い浮かばずに、鼻を掻いた。
 しかし、髪に触れた手から香る銀河の芳香に、オレは余計顔を赤らめることとなった。
 なんで、女の子ってこんなに良い香りがするんだ。
「いえ、別に……」
 銀河も手を振った。その時に揺れて垣間見える耳が赤い。
 何やってるんだろうな、オレ。
 銀河は毛布の中に顔を埋めた。その所作が小動物めいていて、凄い可愛い。
 沈黙が流れる。
「学内新聞、読みましたよ」
「え?」
「面白かったです。ウィットに富んでいて」
 銀河ははにかんだ。
「ずっと、気になっていたんです。学内新聞を書いている人は、一体どんな人なのかなって」
 銀河は言った。
「ちょうど、校内の七不思議を募集してるって書いてあったから。わたし、いてもたってもいられなくなっちゃって……」
 彼女の照れた笑みに、オレはどういう反応をしていいのかわからなくなる。
 それは、銀河の想いなのか、それとも、ギンガウォーレに操られているだけなのか。
 オレの隙を突くために、銀河に言わせているんじゃないのか、という疑念がオレには拭えない。
 その一方で、オレは思ってしまう。銀河の言っていることを信じてもいいのではないか、と。
「今日のことは、何だかよくわからないけれど……」
 銀河はオレを見つめる。
「……凄い、格好良かったです」
 オレは思わず銀河の身体をやんわり押して、ベッドに倒していた。
 銀河は驚いた様に目を見開いたが、すぐにオレの意図を察すると目を伏せた。
 仰向けになった彼女は、身をよじった。切り揃えられた黒い前髪が揺れた。
 オレはじりじりと彼女との距離を詰める。
 軽く絡めた彼女の手が、ぎゅっとオレの手を握りしめた。
 マジかよ。オレは心の中で歓喜の声を上げた。
 柔らかそうな唇から洩れる吐息に、オレの心臓は高鳴る。
 仰向けになっても存在感がある胸と、オレの胸がぶつかる。
 柔らかいが程良い弾力が、オレの胸板を押し戻そうとする。
 オレは彼女に何か呟こうとして、後頭部に感じた衝撃に現実へと意識が引き戻された。
「……早まるなとあれほど言ったんだが、大丈夫か?」
 ダーツェンがスニッカーズ片手にくちゃくちゃ咀嚼しながら、オレを見下ろしていた。
 オレは電光石火の早業で、慌ててベッドから飛び退いた。
 銀河はうつ伏せに転がると、毛布に顔を埋めた。

 オレの頭部を襲ったスニッカーズを床から拾った。
「いくらなんでも不用心だ。あまりギンガウォーレに対して警戒する必要はないが、だからと言って無防備になって良いはずがない」
 ダーツェンは形良く整った眉を曲げた。
「おまえも素っ裸で死にたくはないだろう?」
「そこまでやるつもりはねえよ!?」
「……じゃあ、どこまでやるつもりだったんだ?」
 見るな。そんな目でオレを見るな。
 別に、他意があった訳じゃない。ただの純粋な好意だったんだ。
「……どっから見てた?」
 オレは銀河から逃げるように、キッチンへ落ち延びていた。
「なんということはないさ」
 ダーツェンはしつこくついてくると、人の悪そうな笑みを浮かべた。
「……おまえが彼女の髪を愛おしそうに触るところからだからな」
「それは『一番最初から』って言うんだよ!」
 一部始終、とも言う。
 てか、そんなところから黙って見てやがったのか。
「しかし、おまえもなかなか大胆じゃないか?」
「うっさい!」
 オレは顔を手で覆った。
 自分自身、納得できていない。
 いや、銀河はマジで可愛い。だけど、オレは彼女を愛しているのか。
 先程ベッドで押し倒してしまったのは、ノリのような気がする。
 急に銀河に対して、申し訳なさがこころの底から込み上げてくる。
「なあ、オレは銀河を愛してるんだろうか?」
「第一段階だな」
 ダーツェンは鼻で笑った。
「戸惑い、疑い、そうやって人は愛していくんだ」
 ちくしょう、どや顔して言うな。
「そうやって自分に問うことは重要だ。それは相手を想い、また自分を想うことに繋がる。自分を大切にすることは、相手を大切にすることと同じくらい重要だ」
 オレは押し黙った。
「なあ、天使はこういうのも自明なことなのか?」
 ダーツェンは頷いた。
「そりゃ楽でいいな」
「だが、空しい」
 ダーツェンは言った。
「わからないことがあるから、人はわかろうと努力することができる」

「夜道に二人で大丈夫か?」
 ダーツェンは眉を寄せた。
「大丈夫じゃないかもしれん」
 オレは言った。
「じゃあ、遠くから見守っているよ」
 ダーツェンはそう言うと、人間離れした脚力で夜の街へ跳躍した。
 まあ、ダーツェンは天使なので人の常識を当てはめることはできないだろうけど。それでも、俄かに信じ難い。
 銀河と二人、肩を並べて歩く。
 二人きりになりたかったのに、いざ二人になると、どう接すれば良いのかわからない。
 それに、ギンガウォーレに襲われるんじゃないか、という不安もある。
 それを思うと、本当にもどかしい。
 銀河と言えば、俯き加減で中々目を合わそうとしてくれない。彼女のそんな態度に、ちょっと傷付く。
 やっぱり、いきなり押し倒しちゃったのはマズかったよな。後悔の念がオレのこころをちくちく刺激した。
「あの」
 銀河はぽつりと声を出した。
「お?」
「あの、気分を害さないで聞いて下さいますか?」
「あー。と、いいますと?」
 なに、その凄い思慮と遠慮に満ち満ちたニュアンスが滲んでいる言葉は。
「白髪の女の子とは一体どういう間柄なんですか?」
 オレは口ごもった。
 どういう関係なのだろうか。
 オレは狼狽した。
「えっと、銀河にはどう見えたの?」
「……もしかして、彼女とかだったり?」
 どうしてそうなった。
 オレは声を大にして叫んだ。
「いや、そんなことはない! オレは今フリーだから!」
 銀河は険しい表情を崩した。
「そうなんですか?」
 銀河は微笑んだ。
「ちょっと意外です」
 オレは思わず頭を掻いた。
「そ、そうか……?」
「ええ」
 オレは空を見上げた。
 意外。
 それって、オレが格好良いってことか。そう考えてもいいのか。
 参ったな、そんなこと言われると舞い上がってしまう。
「あの……」
「ん?」
 銀河は立ち止まった。
「わたし、あなたのことが……」
 オレは息を飲んだ。
 何その文言。
 まるで、オレのことが「好きだ」と言わんばかりの空気は。
 マズいぞ。これはマズい。
 それとも、これもギンガウォーレの策略か何かか。
 いや、策略でも罠でも何でもいい。どんと来い、どおんと。
 その時、銀河の表情が凍りついた。
 朗らかな笑みが消えていく。その表情をオレは知っている。これが一体どういうことか。
「おい、銀河?」
「……明日、大黒埠頭で待つ」
 銀河の声。
 だが、普段の銀河ならば決して出さない様な、低い声。
「そこで決着をつけよう」
 冷ややかな表情を浮かべた銀河。
「……もしや、ギンガウォーレか?」
 銀河は長い黒髪を翻すと、夜の街に消えていった。



 先送りにしてきた決断を、オレはようやく下す事になる。
 戦わねば、得られないものがある。
 多分、そういうことだと思う。

 眠れぬ夜は長い。
 オレは闇に浮かぶ三日月を眺めた。
「なあ、どうして人のこころって見えないんだろうな?」
 オレは呟いた。
 もし、銀河のこころが見えたなら。
 ギンガウォーレの策略などと思わず、銀河の好意を受け入れることができるのに。
 胸が締め付けられる思いだった。
「大事なものは見えん。そういうことだ」
 ダーツェンはぽつりと呟いた。
「天使の中には、未来や『こころ』を覗く能力を与えられた者がいるが、彼ら彼女らを見ていると、何とも言えない気分になる」
「わかる故の悩み、って奴か?」
 ダーツェンは頷いた。
「一寸先は闇、というが、自分の歩み道の先に墓場があったら皆尻込みする。そういうことだ」
 オレは眼下に広がる闇を眺めた。
「わかっていると思うが、ギンガウォーレは強いぞ?」
「ああ。だが負ける気はしない」
 オレは言った。
「ギンガウォーレをぶっ倒して、銀河を救う。それがオレの使命、だろ?」
 ダーツェンは頷いた。
「ゴッドスピード」
 オレは笑った。
「おまえもな」

 風が横浜の街を駆け抜けた。
 暗闇に沈む大黒埠頭に佇む赤毛の影。
 かつて神に仕えた高位の天使ギンガウォーレ。銀河の生みの親だからか、ギンガウォーレと銀河は非常に似ていた。まるで銀河が凶暴化したような感じがする。
「……雁首揃えてお出ましって訳ね」
「ギンガウォーレ、最後に言う。おまえとは戦いたくない」
 オレは言った。
「取引しないか?」
 ダーツェンは眉を顰めた。
「オレは銀河の身柄を得られれば、手を引いてもいいぜ」
「おい、おまえ……」
 ダーツェンは唇を尖らせた。
「どうだ、ギンガウォーレ。良い取引だと思わないか?」
 ギンガウォーレの瞳がぎらりと凶暴に輝いた。
「確かに。わたしはいくらでも『器』は作れるからね」
 ギンガウォーレは唇を歪めた。
 オレはゆっくりとギンガウォーレに近付いて行く。
「なんなら、ここでアルメヴィラルエールを捨ててもいいぜ」
 オレは右肩の上に手をやった。
 少しずつ、じりじりと近付く。
 オレとギンガウォーレの間に風が割り込んでくる。
 距離を詰めるにつれて、ギンガウォーレの相貌が鮮明になっていく。
 その端正な顔に浮かべられた狂気がはっきりと見えてくる。
「……取引する気なんてないんでしょ?」
 赤い刀が翻った。
「ほんと、残念ね」
 赤い閃光が駆け抜ける。
 オレは咄嗟に左手を振るった。その手には、アルメヴィラルエールが握られている。神の御加護とやらがオレを攻撃から守ってくれる。
「なるべく避けろ! 全て受け止めていたら手が持たない」
「わかってるって!」
 オレも怒鳴り返した。
 しかし、ギンガウォーレの放つ一撃一撃が強過ぎて、なかなか彼女に近づけない。
 オレはアルメヴィラルエールを振るう。炎が噴き出す。まるで火でできた爪だ。
 ギンガウォーレはその爪の間へと身体を滑らせて避ける。
「……戦い慣れてんな」
 ギンガウォーレの動きには無駄がない。
 逆に、オレはなかなかうまく動けない。
 アルメヴィラエール自体は紙の様に軽い。しかし、両腕をかつてギンガウォーレに溶かされた時の傷が、今に響いている。
 また、ギンガウォーレは神通力を使えるが、オレはアルメヴィラエールの力に頼り切っている。
「これじゃあ倒せねえ!?」
 赤い光が瞬いて、アスファルトを深く削り取っていく。
 正面からぶつかった訳じゃないのに、強烈な風にあおられて姿勢が崩れる。
 手痛い一撃が襲いかかる。アルメヴィラルエールを掲げたというのに、オレの身体は宙を舞った。
 頭が一瞬、真っ白になる。
 次の瞬間には、硬い地面に全身を強打する羽目になる。身体の奥から吐き気が暴れ出す。
 腕を覆った包帯の結び目が解けて、白い布がひらひらと腕の端で踊り出す。
「……なに、まだまだ」
 オレは身体を地面から引き剥がす。
「大丈夫だ」
 ダーツェンが、風に吹っ飛ばされただけでボロボロになったオレに対して声をかけた。
「安心しろ。おまえはただ、アルメヴィラルエールを投げればいい」 
「おいおい。オレにはおまえみたいな一撃必中能力はないっての!」
 まるでレーザービームのような攻撃を交わしながら、オレは叫んだ。
 一方的な展開に戸惑いを隠せない。
 大体、アルメヴィラルエールを投擲しようにも、距離を詰めなければ話にならない。
「ところで針の山、っていうけれど、一体何本の針が集まれば山なのだろうか……」
 ダーツェンはぽつりと呟いた。
「こんな時にスニッカーズの話……じゃなかった、ソリテス・パラドックスか?」
 いい加減にしろよ、この駄天使。
「ギンガウォーレ、おまえはかつて言ったな。一本のダーツではこのわたしは倒せない、と」
 ダーツェンはギンガウォーレを見つめた。
「確かに、一本でおまえを倒す事など、不可能だろう。しかし、幸いにもわたしは素晴らしい能力がある。一本で駄目なら、二本で。二本で駄目なら三本で。それでダメなら……」
 ダーツェンは舌を出して笑った。
「……その数を増やしたなら、どうだ?」
 彼女は両肩の上に浮かんだ『虚無』に手を伸ばすと、銀色の帯を引き出した。
 その光沢に見覚えがあった。
 銀色に輝くダーツ。
 しかし、そのダーツがこんなに沢山あると、まるで生き物の様に見える。
 数多のダーツはまるで龍のようにうねりながら、ギンガウォーレに向かっていく。
 ギンガウォーレはおびただしい数のダーツを巧みに避ける。
 彼女の早さに、絶対必中のダーツは追いつけない。
 それでも、目標に違わず当たる投矢の群れは、着実にギンガウォーレを追い詰めていく。
「おまえは人だ。それ故、アルメヴィラルエールを必中で投擲することはできない」
 ダーツェンは言った。
「だが、見ろ。放たれた無数の矢はギンガウォーレの逃げ場を奪っていく」
 オレは声を張り上げた。
 手にしたアルメヴィラルエールに力を込める。
「やがて、ギンガウォーレは一つの場所に追いやられていく。そして、その場所こそ……」
 そして、紙よりも軽いアルメヴィラルエールを構えた。
「ギンガウォーレの墓標が立つ場所だ」
 終わる、この一撃で。
 オレはギンガウォーレを倒し、銀河を救う。
 オレは歯を食いしばった。
 目の前にいるギンガウォーレの像が歪む。まるで、水面に写り込んだ像が騒ぐように。
 それは、まだ終わらないと告げる一幕であり、今まで先延ばしにしていた決断を迫る合図だった。
 ギンガウォーレとオレの前に立ちはだかった小柄な姿に、オレは凍りついてしまう。
「……銀河?」
 両手を掲げてオレを制する宇尾江銀河の姿が、ギンガウォーレの前に立ちはだかった。



 この物語は喜劇なのだろうか。それとも悲劇なのだろうか。
 オレはキミのために戦ってきたのに……。
 最後に立ちはだかる壁が、キミだったなんて。

 ダーツェンは眼下に広がる展開に息を飲んだ。
「くっ、ここまでお膳立てをしておきながら……」
 ダーツェンは思わず唇を噛み締めていた。握った拳が小刻みに震えている。
 ――詰めが甘かった。
 最高のカードを押さえぬまま、ここまで来てしまった自分達の不甲斐なさが今では恨めしい。
 彼はアルメヴィラルエールを握りしめたまま、凍りついている。その剣先が小刻みに震えている。
 その間にギンガウォーレは当たりそうなダーツを手当たり次第、刀から発する赤い光で消し飛ばし、ダーツェンを牽制する。
「人は辛いわね。いろいろと葛藤があって」
 ギンガウォーレは笑った。
 自分の優位を確信した笑い。自身の揺るぎない勝利を満足している表情。
 勝者の笑みだ。
 微動だにしない銀河の頬を、ギンガウォーレの指が触れた。
「残念だけど、ここまでよ」
 ギンガウォーレは虚無から小刀を取り出した。
 銀河は脇目も振らず、その柄を握ると構えた。
「……ここで、幕引き」
 ダーツェンがかつて見た、柔和な表情を称える銀河ではない。
「逃げろ!」
 ダーツェンは渾身の力を込めて叫んだ。
 彼は喉仏を上下させた。その顔は傍から見ていても、酷く苦々しい。
 ダーツェンは無駄と知りながらも、ダーツを放った。
 しかし、どう考えても絶対必中のダーツでは間に合わない。
「今の彼女は報償系を操られている! おまえの知っている『銀河』じゃない!」
 果たして、彼はアルメヴィラルエールを下げた。
 ダーツェンは思わず息を飲んだ。
 ――理解できない。
 アルメヴィラルエールを下げた以上、神のご加護は期待できない。
「……まさか、死ぬ気か!?」
 天上界きっての強者ギンガウォーレをここまで追い詰めておきながら。
 それも、彼が戦う動機だった、愛した女に殺されるなんて。
 こんな結末を、神は望んだというのか……。



「……さよなら。天も地獄もない、無の世界へ」
 ギンガウォーレは笑った。
 銀河が小刀を高く掲げた。
 オレは目を瞑った。

 一瞬が酷く長い。
 ふと、オレは思った。
 これがギンガウォーレの課したオレへの試練だったのだろうか。
 だったら、オレの負けだ。
 オレは、銀河を助けるために戦ってきた。
 そんなオレが、銀河もろともギンガウォーレを倒すなんて、絶対間違ってる。
 ダーツェンにはすまないと思ってる。ギンガウォーレを倒さなくちゃいけなかったのに。
 でも、これだけは譲れない。
 オレの戦った意味。
 それは、愛する女を助けること。

 瞼を開いた。
 怪しく輝く刃が小刻みに揺らいでいた。
 無表情だった銀河の顔が、くしゃくしゃに歪んでいた。
「……まさか?」
 ギンガウォーレはぽつりと呟いた。
 銀河の瞳から、一筋の光が落ちた。
「……そんなの、間違ってます」
 銀河は絞り出すようにして言った。
「わたしは、あなたを……殺したく、ない」
 その言葉に、オレの世界が覚醒する。
 オレはアルメヴィラエールを握り締めた。
「……どうやら、過剰に見積もられた彼を殺す欲求よりも、彼を救う欲求の方が強いみたいだな」
 ダーツェンは人の悪い笑みを浮かべた。
「わたし達も甘かったが……報酬系を弄んだツケを今ここで清算することになりそうだな、ギンガウォーレ?」
「何故だ!? わたしは、報酬系を完全にコントロールしているというのに……」
 ギンガウォーレは声を荒げた。
「それが、人の意志なんだよ。ギンガウォーレ」
 オレはアルメヴィラルエールを振るった。
 銀河の手にした小刀の刀身を、叩き折った。
 その衝撃で、銀河の華奢な身体がよろめく。そして、銀河の背に隠れていたギンガウォーレが姿を現す。
「銀河、オレがおまえを……解き放ってやるっ!」
 ギンガウォーレは声にならない叫び声を上げた。
 その刀身が赤く輝き、銀河もろともオレを吹き飛ばそうと企む。
 オレはよろめいた銀河の腰に手を回すと、アルメヴィラルエールを渾身の力を込めて放った。
 空気との摩擦による火花か、それとも神の鍛えし神聖な投矢だからか、ぼっと音を上げて炎を纏った。
 ギンガウォーレは逃げ場がないと悟り、刀を構えた。
 しかし、アルメヴィラルエールはギンガウォーレをその刀ごと砕き、噴き出した炎は彼女の身体を焦がした。



「ん……」
 瞼が開き、大きな瞳が顔を覗かせた。
 銀河の瞳に、オレの顔が写り込む。
「気がついたか?」
 オレは笑みを浮かべて、銀河の顔を覗き込む。
「……ここは?」
 寝ぼけ眼の銀河もまた愛おしい。
「オレの膝枕の上だ」
 オレは恥ずかしくなって、鼻の頭を擦った。
 オレは優しく、銀河の髪を撫でた。
 もう、おまえの意思を操る奴はいない。
 おまえの気持ちは、おまえだけのものだ。
「終わったんだ。色々と」
 オレは呟いた。
 銀河の手が、オレの服の袖をちょこんと掴んだ。



「ギンガウォーレはどうなるんだ?」
 ダーツェンは顔を傾げた。
「いや、天上界に連れ戻されて、もしかして、裁判にかけられたりするのか?」
 ダーツェンは首を振った。
「さあ。全ては神次第だ。それは神のみぞ知るところとなるだろう」
 彼女は笑った。
 オレは笑みを消した。
「……なあ、帰るのか?」
「神は言っている。ここで帰る定めだと」
 オレはダーツェンの言葉に思わず押し黙ってしまった。
 言いたいことは沢山あるのに、口から出てこない。もどかしい思いがこころのなかで渦巻いていた。
「だから、帰らなくては……」
「……残るとか、は駄目なんだよな」
 ダーツェンは驚いたようだったが、すぐに嫌らしい笑みを浮かべた。
「一人は寂しくないんじゃなかったのか?」
 その言葉にオレは戸惑った。
「ずっと、一人じゃなかったのか?」
「いや、確かに。今までは一人だったけど……」
 オレは声を絞り出した。
「今は、銀河がいて、おまえがいるだろ」
 ダーツェンは目を見張った。
「驚いたな。わたしの存在までも認めるとは」
「まあ、あんまりアシストしてくれなかった駄目天使だったけどな。それでも、おまえはオレの仲間な訳だし」
 オレは途中で言葉を切った。
 やはり、面と向かって言うと気恥ずかしい。
 素直に打ち明けるのは気が引けた。
「いや、寂しくないって言い聞かせていたところはある。おまえみたいに、地球を見下ろすことなんてできなかったし」
「なら、良かったんじゃないか? 銀河と二人っきりで過ごせるぞ?」
 ダーツェンの笑みは、人間みたいに嫌らしくて、どこか儚い。
「また神様にほったらかしにされるんだろ? もうちょっと、ゆっくりしていけよ」
 ダーツェンは首を振った。
「神が天使には与えず、人にのみ与えた力。それは自由。自らの意思で選択する自由だ。他ならぬ、自分の意思で進むべき自分の道をね。己の信ずるもの、善悪、哲学、信仰、信念……」
 ダーツェンは微笑んだ。
「お前は自分にとって最良の未来を思い、自由に選んでいけばいい」
 彼女はオレ肩を優しく叩いた。
「それが人だ」
 そう言うと、ダーツェンの身体が霞んでいく。
 まるで、実体を伴っていない蜃気楼のように。
 虚無の歪みのような、覚束ない像となって虚空へと溶けていく。
 オレは顔を上げた。
「ダーツェン!」
 霞み消えゆくダーツェンを見て叫んだ。
「……ゴッドスピード!」
 ダーツェンは唇を尖らせて、笑った。
 馬鹿、それはわたしの台詞だ、とでも言わんばかりに。

 オレはおまえとの出会いに感謝したい。
 たとえ、それが別れる運命だったとしても。



「何これ……」
 オレは請求書をしげしげと眺めた。
 ゼロが何個も横に並んでいる。
 何年も使い倒したママチャリを、よもや大枚はたいて修理することになろうとは思わなかった。
「結構な額ですね」
 銀河も苦笑している。
 よりにもよって銀河との偶然の再会の際に、自転車の修理見積もりを依頼したので、オレは話をよく聞かずに修理にサインしてしまった。
 この額なら、新しい自転車余裕で買えたっての。しかも、かなり上等な奴が。
 オレが請求額に恐れ戦いて支払いを猶予していると、見かねた店主は修理した自転車を引いてきた。
 銀河はうわ、と声を上げた。
 オレは逆に叫び声を上げそうになるのを必死に抑えた。
「二人乗りは本来禁止なんだがね」
 赤錆びの浮いたママチャリが、スポーティなマウンテンバイクになっていた。
 いや、意味がわからないから。
 ハンドル、サドル、フレーム、タイヤ、グリップ、ペダル……。ありとあらゆるパーツの全とっかえで、もはやかつてのママチャリは原形を留めていない。
 しかし、見違えるように逞しくなったフレームや荷台なら、確かに銀河を乗せて走れるかもしれない。
 オレは指を立てどや顔をしている整備士にウインクして、財布を引っ繰り返した。

 今ならどこへでも行けそうだ。
 夢にまで見た二ケツだ。
 オレは今、横浜という街で好きな女を乗せて自転車を漕いでいる。
「どこか行きたいところはないか!?」
「そうですね……」
 彼女はううむ、と可愛らしいことを呟いて思案している。
「……お任せします」
 彼女は笑みを浮かべた。
 さて、一体どこに行こうか。
 オレは心を躍らせながら、ペダルに力を入れた。
金椎響 8tiPoznsKE
http://kagamimono-nishiki.hatenablog.com/
2010年11月27日(土)22時14分 公開
■この作品の著作権は金椎響さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
 感謝を捧げます――私の小説を読んで下さった全ての方々に。

◆あらすじ◆
 天上界からやってきた天使ダーツェンは神から一つの命を受ける。それは堕天し、下界へ降り立った天使ギンガウォーレの身柄の確保。
 時同じくして、新聞部に所属する「オレ」は、学校伝来の呪術書を学内新聞の記事にしたため、災難に遭う。呪術書の存在を知らせた宇尾江銀河に想いを寄せる中、「オレ」に忍び寄る不穏な気配があった。
「オレ」とダーツェンは、天命のため、そして自らの想いのために、ギンガウォーレと対峙することになるのだが……。

◆作者からのコメント◆
 初めまして。作者の金椎響です。
 『シャッターボタンを全押しにして』、『哲学的な魔女、あとオレとか』に続き、三作目の投稿となります。
 三作の中で一番時間がかかりました。
 わたしは普段、パロディを忌み嫌うタイプなので「安易に他人のネタを使うべきじゃない」などと常々言っておりました。そんなわたしがパロディを扱うのは自己矛盾も甚だしいのですが、自らの殻を割るべく、取り組みました。
 また、わたし自身、今までバトル物は努めて避けてきたのですが、今回は良い機会だと思って書いてしまいました。
 バトルシーン、本当に慣れない作業で死にそうでした。
 今回も100枚を普通にオーバーしてしまい、それ故泣く泣く削ったシーンがあって、本当に残念です。
 この作品ではじめてわたしの作品を読んで「物足りない」と感じられた方は、どうぞ一作目・二作目、そして後の四作目をご覧下さい。空回り気味ですが、他三作の方が気合が入っています(笑)
 この作品は言わば、ボーナストラック。あるいは金椎響のコマーシャル的な位置付けです。
 皆さんからの感想、評価、ご意見、誤字脱字指摘等、お待ちしております。
 
◆哲学的なテーマ◆
 本作は前作と同様、哲学者の理論の引用を極力避け、扱うテーマを「自由意思」一本に絞りこみました。また意思決定、意識、ソリテス・パラドックス、善悪の普遍主義と相対主義、自由というテーマについては要所要所で語っております。
 神の天命のままに生きる天使は、巷で流行っているエルシャダイの概要を見て思いつきました。自らの意思とか自由について、皆さんの問題意識を喚起するのが目的でした。
 報酬系などの脳科学に関しては、リベット、デネット、ガザニガやヘインズの意見を参考にしております。
 今回は前作と同様、小説を通じた哲学的な問題提起、という役割を貫いたと思っています。

◆おわりに◆
 最後に、私のような初心者に、このような機会を与えて下さった飲茶様やうっぴー様をはじめとする企画運営の皆さま、そして、私の作品を読んで下さった全ての読者の方々に心から感謝致します。
 本当に、本当に、ありがとう。

!感想どうもありがとうございます!
 皆さんから頂いた感想には、全てに返事を書きたいと思っております。

最終更新日 2011年02月15日(火)


この作品の感想をお寄せください。

2011年03月13日(日)13時25分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 nさん、こんにちは。作者の金椎響です。
 最初に、返信が遅れてしまい申し訳ありませんでした。なるべく早く返信を記したいと思っておりましたが忙しく、また焦る気持ちでお返事を書きたくなかったのですがこんなにも時間がかかってしまいましたこと、申し訳なく思っております。
 そして、わざわざわたしの作品に対して感想を記して頂けたことに感謝の言葉を表したいと思います。nさん、本当にありがとうございました。

>こういうジャンルの作品を読むのは初めてです。
>なので、完成度など、よく分からないのですが面白かったです。
→ありがとうございます。わたし自身、このようなジャンルとはあんまり縁がなかったのですが、これを良い機会と捉えて挑戦してしまいました。
 作者的に、不完全燃焼といいますか……力量不足が露呈してしまった感がありましたが、nさんにそのように評して頂けると救われます(笑)

>バトルシーンは色彩が豊かで良かったですが、
>動きがいまひとつ想像しづらいところもありました。
→すいません、作者もバトルシーンを描く作業は未知との遭遇だっただけに上手く書き込むことができませんでした。今後は、皆さんのご指摘や助言を踏まえて挑戦していきたいと思っております。

>全体として、白と赤、そして黒っぽい背景のコントラストが鮮やかに感じられました。
→ありがとうございます。色については注意深く描写したいと思っておりましたので、そのように言って頂けると嬉しいです。
>やわらかいものがはためく感じもしました。天使らしい・・・西洋の絵画のように。
→ありがとうございます。本作は全体的に描写を意図的に減らしていたのですが、雰囲気が少しでも読者の皆さんに伝わっていれば幸いです。
>そして銀河ちゃんが感動的に可愛いです。
→ありがとうございます。銀河ちゃんについては作者としても根性を入れて書き込んだつもりですので、nさんに「感動的に可愛い」と言って頂けると嬉しくて嬉しくて飛び跳ねたくなります(笑)

>金椎響さんは、恋愛を描くのが本当に上手ですね。
>どきどきほわほわして気持ちが良いです。
→ありがとうございます。というか、本当ですか!? そのようなお言葉を貰えると本当に嬉しいです! どきどきほわほわ、nさんにそのように感じ気持ちが良くなって頂けると、作者もまた気持ちが良いです(笑)
>しかも今回は甘〜いシーンまで!
>もう自分が押し倒したかのように、胸がぎゅう〜ってなっちゃいました。
→嬉しい反面、恥ずかしいですね(滝汗) あのシーンは書こうかどうか迷いましたが結局書いてしまいました(苦笑) でも、あのシーンを褒めて下さる方も多いので、今は書いて良かったなんて思います。
>女性にも支持される描き方かなぁなんて思います。
→本当ですか!? ありがとうございます。金椎響としては、メインターゲットは10・20代の男子の読者様ですが、本心では男女問わず支持される作品を作り上げたいと思っておりました。なので、nさんからそのようなお言葉を頂けると本当に嬉しくて……なんだか言葉にならないですね。

>もっともっと、恋愛小説を書いてください。読みたいです。
→ありがとうございます。わたし自身も恋愛についてこれからも書いていきたいと思っております。「哲学的な彼女」企画は終わってしまいましたが、これからも別の場所になるかもしれませんが、誰かが誰かを愛し愛される作品を書き綴っていきたいと思います。

 最後に、nさん、わざわざ感想を記して頂いてどうもありがとうございました。そして、返信が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
 企画は終わってしまいましたが、これからもnさんの言葉を胸に、小説を書き続けていきたいと思います。

pass
2011年02月28日(月)00時20分 n  +40点
こういうジャンルの作品を読むのは初めてです。
なので、完成度など、よく分からないのですが面白かったです。
バトルシーンは色彩が豊かで良かったですが、
動きがいまひとつ想像しづらいところもありました。

全体として、白と赤、そして黒っぽい背景のコントラストが鮮やかに感じられました。
やわらかいものがはためく感じもしました。天使らしい・・・西洋の絵画のように。
そして銀河ちゃんが感動的に可愛いです。

金椎響さんは、恋愛を描くのが本当に上手ですね。
どきどきほわほわして気持ちが良いです。
しかも今回は甘〜いシーンまで!
もう自分が押し倒したかのように、胸がぎゅう〜ってなっちゃいました。
女性にも支持される描き方かなぁなんて思います。

もっともっと、恋愛小説を書いてください。読みたいです。
97

pass
2011年02月15日(火)23時54分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 yoshiko_sanさん、こんにちは。作者の金椎響です。
『シャッターボタンを全押しにして』に次いで感想を記して頂けたこと、本当にありがとうございます。
 ついにこの企画も今日で最後ですね。そう思うとなんだかとても感慨深いです。
 作者レスも15日までなのでしょうか? わからないので「これが最後かもしれない」という気持ちで、悔いが残らないよう綴っていきたいと思います。

>もう時間もなさそうなので一言だけ感想、と点数だけしに来ました(質より量…)。
→最後にわざわざ書き込んで頂けて、本当に嬉しいです。というか、申し訳ありませんでした。なんだか感想を無理矢理促す形になってしまって。
 普段は聞くことのできない読者様からの生の声を聞く貴重な機会なだけに、本当にありがたいです。この感想と評価を胸に焼き付けて、小説をこれからも書いていきたいと思います。

>別れのシーンとこのお話のタイトル「She said to me, “GODSPEED”. 」が印象的でありました。
→そのように言って下さると、作者として光栄です。
 個人的に、別れのシーンはこの作品の良いところのなかの一つだと思うので、その点を挙げて評価して頂けて幸せです。
 この作品のタイトルはどちらかというと頑張ってつけた方なので、そう評して頂けると嬉しいです。ネーミング等のセンス皆無な作者としては救われた気分です。ちなみに、当初のタイトルは副題の『舞い降りたキミは「駄」天使』でした。……本当に、今のタイトルが思い浮かんで良かった(笑)

 誤字のご指摘どうもありがとうございます。早速確認して直させて頂きます。

 最後に、大変面白かったという言葉が聞けて、本当に良かったです。
 特に、この作品は作者が自信を持てなかったので、高い評価と肯定的な感想をこの度頂けたことは、大いな励みとなりました。
 これからも、yoshiko_sanさんや読者様の声を胸に、そしてこころに刻んで、小説を綴っていきたいと思います。

 yoshiko_sanさん、本当にどうもありがとうございました。あなたから感想を頂けたこと、本当に嬉しく思っております。
 それでは、またどこかでお会いする日をこころから楽しみにしております。

pass
2011年02月15日(火)00時03分 yoshiko_san  +40点
拝読しました。
もう時間もなさそうなので一言だけ感想、と点数だけしに来ました(質より量…)。
(2月15日までって、15日の午前0時なんだろうなあ。15日まであるのなら…と先延ばしにしすぎたな。)
別れのシーンとこのお話のタイトル「She said to me, “GODSPEED”. 」が印象的でありました。

誤字と思われる箇所は
歩が悪いよね、は「分が悪い」ではないでしょうか。

あ、0時過ぎちゃったけど念のため送信します。
大変おもしろかったです。では、失礼します。
110

pass
2011年01月17日(月)01時59分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 真柴竹門さん、こんにちは。作者の「かなしいひびき」です。
 なんと、真柴竹門さんにわたしの作品を読んで頂くのはこれで三作目となります。読んで頂けると、それだけで作者としては嬉しいのに、わざわざ長い感想を書いて貰えると感無量です。

>実は本題に入る前にちょっと書いておきたいことがあります。(……)
→なるほど、そうだったんですね。
 でも、そのように正直に記して頂けて良かったです。でしたら無理に読まなくても良かったのに。
>金椎響作品全て読むよ! よみゃーいいんだろーっ!!
→作者としましては、読者の方に読んで頂けるのは凄く嬉しいですけど……別に、無理に読まなくても構いませんよ(滝汗)
>「死の季節」で110K1さんが「かなしいひびき」だと? いや、テメーはキンツイキョウだ!
→……真柴竹門さんは本当に、お茶目さんなんですね(怒)
>……くっそー! 余計なこと言わなきゃ俺得だったじゃんか(笑)。……じゃなくて金椎響さん、変な葛藤に追い込んでしまってすみませんでした。
→真柴竹門さんって、誠実で正直ですね。でも、あの時の言葉はどんなに謝って下さったって、絶対忘れませんからね。作者は雄々しいんで!

>では哲学的な観点からですが、正直ボロボロです。五十点与えてもいいくらいのエンタメ作品なのに、この辺で評価を下げざるを得ません。
→その点について説明するには、わたしがこの作品を執筆していた時の、この企画の状況について語らねばならないと思います。
 当時、この企画に投稿されていた作品は、長くても30枚程度の短いショートショートで、男の子と女の子が軽く語り合って、最後にくすりと笑わせるオチがつく、みたいな作風の小説が主流でした。まぁ、これは今もあんまり変わっていませんね。
 わたしは、大賞狙いではありませんが、読者がつかないことに危機感を抱いておりました。苦肉の策で書いたのが第二作でした。しかし、残念ながらその当時は見向きもされませんでした。
 そのなかで、upa・R・upaさんやsvaahaaさんをはじめとする方々が、処女作に続いて二作目も読んで頂いたばかりか予想外の評価を下さったので、嬉しくなってしまったのです。「これからも頑張りましょう」という言葉に、創作熱ばかりが燃え上がってしまって、生み出されたのが本作です。この言葉がなければ、とっくの昔にこの企画とは縁が切れていたと思います。
 そういう意識のなかで書かれた本作なので、基本、哲学性は薄めました。わたしには媚びる様な「萌え」も、ショートショートもエンタメ小説も書けないことがわかっておりましたので、今の形になったのです。
 また、哲学については処女作でだいたい書きたいことは書きましたし、問題提起がメインなのであれば、処女作みたいに哲学者の名前をいちいちあげて読者に滔々と語るスタンスには疑問を持ちました。言葉にして読者に提示するのではなく、物語のなかに内包させた方が、すとんと受け止めて頂けるのでは、と思ったのです。

 ただ、上記の事情は作者の個人的なもので、そんな理由があったから、じゃあ哲学性をおろそかにして良いのか、と問われれば否です。ですので、そのお言葉は真摯に受け止めたいと思います。
 なにより、読者の方が「ボロボロ」と言うからには、この作品の哲学は「ボロボロ」なのです。それは一重に、作者の力量不足以外の何物でもありません。その御指摘はこころして受け止めます。今後は、哲学性も妥協せずに取り組んでいきたいと思います。

>二つ目に移ります。これはかなり重要なポイントです。
>「しかし、ならば三つ目の問題をバッサリとカットしても良かったんじゃないですかね?
→情けないことを言いますけど、今見ると真柴竹門さんの御指摘の通りだと思います。いや、これは本当に。えっと……なんなんでしょうね、わたし。前後不覚にも程度があると思います。全然まわりが見えてない。

>これが三つ目の問題でして、(……)このシーンこそダーツェンに「当人には絶対わからない、ブラックボックス化された意思決定は、一見すると絶望的だけど〜」を語らせればよかったと思います。
→ですよね。強くそう思います。
 基本的に、わかりやすさを重視したはずが全然わかりやすくないという、せっかくの作業が裏目に出てしまってますよね。この御指摘は真摯に受け止めて、猛省するとともに、今後に活かしていきたいです。

>というわけで、こんなふうに修正するのはどうでしょう?
→凄く良いと思います。
 というか、なんでわたしはそういう風に書けないんでしょうね。今、わたしは軽い自己嫌悪に陥ってます。
 特に
>そう、人はギャンブルが出来る存在です。そしてそれこそ、人間が自由を持ってる証、またはかなりの保証になっていると私は認識しています。
→これは妙案だと思います。なんでこんな重要かつ良い手を思いつかなかったのか。いやはや、これがわたしの限界なんでしょうね。

>はっきり言いましょう。凄く面白かったです!
→そう言われちゃうと、凄く嬉しいですね。厳しいお言葉もわたしの小説創作の糧になりますけれど、やっぱり皆さんの温かいお言葉があってはじめて、わたしはキーを叩けるのだと思います。
>まず宇尾江銀河。何この幸薄少女。けっこーヤベー。マジカワイイ。
>キンツイキョウ作品は三作品読みましたが、その中で私のベストがコイツといっても過言ではないでしょう。
→そうそう、読者の方からそういう反応が欲しかったのです。100枚という枚数を無駄に費やした甲斐がありました。その言葉だけで、この小説に費やした労力が報われたようなものですから。叩かれたけど、それでも発表して良かった、って思えますから。
>でもね、銀河からは「萌え」の香りが微かに漂うのですよ。まだまだ「萌え」ではないですけど。
→作者は露骨な「萌え」をあまり好ましく思っていないので、そう言われるとなんとも返答に困りますね。一応、女の子は魅力的に書こう、と思っておりますけれど。
>銀河のほうが光ってます。輝いてます。
→ありがたいお言葉です。なんだかその言葉に舞い上がってしまいそうです。
>忘れてもらっては困るのですが、私はエンターティメント性を求める人間なのです。
→個人的には、エンタメ性を求めるのであれば、他の高い評価の作者様の作品をご覧になった方が有意義なんじゃないかな、と思います。別に、読者の方が、わたしの作品にエンタメを見出すことは読者の自由だと思いますけど。
>キンツイキョウさん、あなたそろそろ「萌え」がわかってきたんじゃないですか?
→どうなんでしょう。わたしは「萌え」というものを、恐らく一生理解できないと思います。
「萌え」というのは、男性が女性に求める「理想の女性像」の究極形態だと思うので。若年層の男の子が有する「理想の女性像」を共有できないわたしには、到底その境地には辿り着けそうにもありません。もっとも、高橋留美子先生のように、女性でも週刊少年漫画で長年連載するような方もおりますから、そこは単なる技術の範囲なのかもしれませんけれど。

>オレは思わず銀河の身体をやんわり押して、ベッドに倒していた。
→こうして抜粋されると、なんだか恥ずかしいですね。プラトニックラブを信条とする金椎響らしからぬ描写だと思います。

>次にバトルシーンですが、私は読みやすかったですよ。
→挙げられたの作品は読んだことがありませんので、なんとも言えないのですが、そのようにポジティブに評価して頂けると幸いです。

>そりゃ純粋なエンターティメント作品は逆につまんないですけど、本作はそんなことありません。
>ちゃんとバトルあり、笑いあり、そして哲学ありでシリアスありの良い感じな娯楽作品に仕上がってますよ。
→ありがとうございます。そのように言って頂けると、恥を覚悟でこの作品を書いた甲斐がありました。ほんと、お恥ずかしい限りです。黒歴史として、この作品を削除してしまいたいくらいなんですけど。

>あと「2957字も超過しているとかありえない」なんかで嘆いているようですが、キンツイキョウさんの知る由もないところ(?)で既に書きましたけど、上には上がいるのですよ?
→その数字は感想欄の文字数です。決して作品の超過枚数ではありませんよ。

>私なんか最初からメッチャ計画的に書いたのにも関わらず14940文字もオーバーしたんですから、まだまだ青い青い。
→なんですか、それは(笑) 全然計画的じゃないですよ。

>それから感想投稿システムがよくわからなくて(……)
→わたしは連続で感想をしたことがないのでよくわかりませんけれど、直近の評価が反映されるのだと思います。30点を上げたい場合は、古い感想を「評価無し」にして、新しいものを「30点」にする、あるいは両方とも評価を「30点」にすれば良いのだと思います。
 個人的には、点数については便宜的なものと捉えておりますけれど、他の読者様にとっては感想の指標に、また主催者にとっては大賞授与の際の判断材料となりますので、その点を考慮して直して頂けるとありがたいです。

>それではまた「哲学的な魔女、あとオレとか」でお会いしましょう。
→え、本当に読んで下さるんですか? わたしの作品のなかで一番平均点が高い作品なので、怖いなあ……。平均点下がったら、嫌だなあ、なんて。
 評価点はあんまり気にしていませんけれど、それでも繊細なわたしのこころには確実にひびが入ります(苦笑)

 最後に、不幸なミスとはいえ、わたしの作品を読んで頂いて、本当にありがとうございます。
 特に、具体的な改善点を指摘して頂けたことは、わたしにとって指針となりました。
 本当に、本当に、ありがとう。

pass
2011年01月16日(日)01時45分 真柴竹門  +30点
<追記>

感想評価システムの方法を教えてもらったおかけで、本当に助かりました。
確かに直近の評価が反映される形みたいですね。

>古い感想を「評価無し」にして、新しいものを「30点」にする

……というやり方で無事に成功しました。ありがとうございます。
けど感想も小説も文字数オーバーする私って一体……(・゚・(ノД`;)・゚・)。



どうも、真柴竹門です。石川輝吉の「ニーチェはこう考えた」を読了して『永劫回帰』という思考実験の巧みさとか勇気付けの見事さを再確認しつつも感想です。

実は本題に入る前にちょっと書いておきたいことがあります。金椎響さん以外の人は、このパラグラフを飛ばしても構いません。
私は一人の作者に入り浸ることなく多くの作家の作品を読むほうが有益だ、というのを旨とする人間です。ですから金椎響さんの作品は、自身の味がよく出ているらしい「シャッターボタンを全押しにして」「死の季節」だけ読む予定でした。
けど、「死の季節」の感想を書くかあって頃に「シャッターボタン〜」の返信レスが届いて、その中でこんなこと書いてましたよね。
>あと、先日メールを頂きました。『She said to me, ”GODSPEED”』の方に感想を記して頂けたみたいなのに、
>返信ができずに申し訳ありませんでした。感想が頂けずとも、少なくとも誰かが読んで下さったということ、本当に感謝しております。
……すみません。読んでませんでした。これには深いわけが、いや浅いわけがあるのです。
そのメールが届いたのは恐らく一月二日ではないでしょうか?(間違ってたらいつの日で、いつの時刻だったのか教えて下さい)。
当時、私は何らかのくだらない理由で「She said〜」のページをクリックして、そのまま放置していたのですよ。くだらない理由だったってのは覚えてるんですが、本当にくだらないことだったためか理由は記憶にありません。
そしてsvaahaaさんの「祈り屋と衒学者」に感想文を投稿しようとしたのですが、「She said〜」のページだと気付かないまま間違って投稿してしまったのです(ちなみに「祈り屋と〜」は面白いので読んでみては? やっぱり宣伝ってダメなんですかね?)。
そんで過ちに気付いた私は、投稿の一分後に削除したのです。しかし、金椎響さんは「感想が届いたら自動的にメールが届くシステム」を有効にしていたのですね。
このまま金椎響さんに誤解を与えたままなのも悪いなあ、と思いまして、釈然としないのですが「She said〜」も読むことにしました。
でもそれじゃあ「哲学的な魔女、あとオレとか」だけが読まれてない形になって不自然な気がしますね。……あーもう、わぁーったよ。金椎響作品全て読むよ! よみゃーいいんだろーっ!!
くっそキンツイキョウめ、ふざけんなよキンツイキョウ! 何でメール機能ONにしてんだよ! ……ん? 「死の季節」で110K1さんが「かなしいひびき」だと? いや、テメーはキンツイキョウだ!(笑)。
……ごめんなさい。信条を捻じ曲げるのは大なり小なりストレスになりましてどうも情緒不安定です。あとそれから……
>ただ、そのように言われますと、そもそも「ミスリードやイリアってどこ?」っていう疑問にはお答えできなくなってしまいますね。
>わたし自身は基本的に、読者の方からの質問に関しては、描写不足あるいは作品のなかで表現すべきなどと評されても、解説することを厭わない態度で臨んできましたけれど、さすがにこのように言われては、わたしの口から申し上げることはできません。
……くっそー! 余計なこと言わなきゃ俺得だったじゃんか(笑)。……じゃなくて金椎響さん、変な葛藤に追い込んでしまってすみませんでした。
まあ、というわけで感想は結構テキトーなのを予めご了承ください。しかしホント「She said〜」を開けてた理由が不明です。どんなに思い出そうとしても無理ですし、当時の心理をシミュレートしてもよくわからないです。不思議です。


本題の感想に入りますが、大まかにいって、辛口評価をしてから甘口評価の予定です。
では哲学的な観点からですが、正直ボロボロです。五十点与えてもいいくらいのエンタメ作品なのに、この辺で評価を下げざるを得ません。
三つのうちの一つ目ですが、それはスニッカーズの山を話すシーンです。これは大したことないですけど。

>「そう、わたしたちはそれを知らない。だが、わたし達は多く積まれたスニッカーズを見て、『ああ、スニッカーズの山だな』という。一本一本の『スニッカーズ』でしかなかったものが、一定数の数が集まった途端、『スニッカーズの山』として認知されるし、そこに意味が生まれ、わたしもおまえもそれを認めた訳だ。で、これは凄いことじゃないか?」

『いや、それを「創発」って呼ぶんだけど』とツッコんじゃいました(笑)。ウィキペディアに載ってますんで、詳細はそちらに任せます。
なぜ「創発」があるのかって観点からは不思議なのかもしれませんが、創発自体は全然驚きじゃありません。
天使ならそれくらい知っといてくださいよ。いや、駄天使なんだから私のツッコミが野暮なのでしょうか?

二つ目に移ります。これはかなり重要なポイントです。

>「それは難しいな。例えばおまえ達は『この仕事が終わったらバイト代がもらえる』などと、長期的な報酬を予測することで、疲労や空腹といった短期的欲求を抑えて仕事を優先できる。
>つまり、銀河の本来の欲求が、ギンガウォーレが過大に見積もった欲求よりも強ければ意思は操られない。しかし、欲求を操作する大本を叩かないと……」

>「……そんなの、間違ってます」
>「わたしは、あなたを……殺したく、ない」
>「……どうやら、過剰に見積もられた彼を殺す欲求よりも、彼を救う欲求の方が強いみたいだな」
>「わたし達も甘かったが……報酬系を弄んだツケを今ここで清算することになりそうだな、ギンガウォーレ?」
>「何故だ!? わたしは、報酬系を完全にコントロールしているというのに……」
>「それが、人の意志なんだよ。ギンガウォーレ」

すみませんがラストバトルだというのに、銀河はまだ報酬系というプライオリティの檻に閉じ込められてる印象を受けました。銀河は本当にこの時、自由だったんですか?
だってこれだけじゃあ、銀河の中でただ単に主人公を想う欲求が強かったからギンガウォーレに逆らったにすぎないって解釈が可能ですもの。いや、実際に私はその解釈をした訳ですし。
勿論、話の辻褄は合ってます。「まさしく主人公への想いが上だったから」という伏線も前もってちゃんと張ってましたし、回収も出来てます。しかし、ならば三つ目の問題をバッサリとカットしても良かったんじゃないですかね?

>「神が天使には与えず、人にのみ与えた力。それは自由。自らの意思で選択する自由だ。他ならぬ、自分の意思で進むべき自分の道をね。己の信ずるもの、善悪、哲学、信仰、信念……」
>「お前は自分にとって最良の未来を思い、自由に選んでいけばいい」
>「それが人だ」

これが三つ目の問題でして、「自由」とか「意志」という曖昧な用語をどういう意味で使ってるのか不明なのが不味いんです。
作者なりに用語の定義をしてくれてないと、この物語で主人公達がどういう問題をクリアしてハッピーエンドを迎えたのかがわからなくなり、下手したら読者がはぐらかされた気分になるでしょう。
このシーンこそダーツェンに「当人には絶対わからない、ブラックボックス化された意思決定は、一見すると絶望的だけど〜」を語らせればよかったと思います。
そしてこれが二つ目の問題とリンクしてて、「シャッターボタン〜」でのク○ ○ ○ のような副題レベルなら些細なことですが、主題レベルの次元で「余計」なのを加えちゃってるのはさすがにいただけません。
というわけで、こんなふうに修正するのはどうでしょう?
ポイントはギャンブルと、思考実験と、「ドラクエ」の木の棒です。
(※続く)

106

pass
2011年01月16日(日)01時40分 真柴竹門 
金椎響「She said to me, “GODSPEED”.」への感想その2


>「賭けてやる。オレはこの命を賭けてやるぜ!」

そう、人はギャンブルが出来る存在です。そしてそれこそ、人間が自由を持ってる証、またはかなりの保証になっていると私は認識しています。
博打の丁半で、例えばある人が何故に丁を賭けたかというと『丁はスーパー(超)だから当たるかなあっと思って』という具合に、言葉遊びが好きだからそれに引っ張られて丁に賭けるということをしたりします。つまり、まだプライオリティの範疇です。
けれどもしも半が出て、外れたりしたら掛け金を支払いますよね? 逆に丁が出たら配当を当然もらいます。つまり人はある結果に対して、例えそれが偶然でも「引き受ける」ことをする存在なのです。
真理というのは言わば一本道です。けれど偶然というのはY字のように二本に分かれています。そして事故や天災のような偶然の出来事に誰も責任を押し付けませんが、そのような事件でも結果を「引き受ける」と明言した責任者(社長、上司)が負債を負うでしょう。
この「引き受ける」というのが大事なのです。さて、ラストバトル前の夜のシーンで、ダーツェンが主人公と銀河に次のような思考実験を持ちかけるのです。
「もしも彼があなたに愛の告白したとして、どうしますか? もちろん肯定するのもいいし、否定するのもいいです。問題はその先。
否定したとして、友達のままでいるのか一切合わないようにしますか? そして肯定したとして、どのような愛を紡いでいきますか?
つまりあなたは告白の返事にどうあるつもりですか?」(ダーツェンの口調じゃねえ〔笑〕)
そしてラストバトルですが、ダーツェンは無数の矢を放つのですけど、それほどギンガウォーレを追い詰めることが出来ずにたまに主人公へ攻撃してくる、という設定に変更です。
さらに銀河がギンガウォーレを守るように立ち塞がります。窮地に立たされる主人公!
ところがそこで主人公は閃き、そこらにあった太くて撲殺も可能な木の棒を拾います。
バルオメロンが言うとおり主人公はアルメヴィラルエールを使いこなせてないので、下手にアルメヴィラルエールで銀河を攻撃すれば死なせてしまいかねません。
そこでバルオメロン戦で述べていた「攻防一体の武器」という発想を逆転させ、アルメヴィラルエールを盾としてのみ使用してギンガウォーレからの攻撃を捌きます。二挺拳銃と二刀流は男のロマンですしね。
そしてギンガウォーレを守ろうとする銀河に対し、主人公は木の棒でボコボコにします。容赦なく殴ります。そうすることで銀河をほぼ行動不能状態にするのです。そこで主人公が……
「俺は銀河に嫌われてもいい! 銀河を救えるのなら、彼女と恋人になれなくなっても、恨まれようとも、俺は構わない!」
……とまあイカす台詞を吐くのです。もし主人公の「ギリギリ感を書きたかった」というのなら、それこそ閃きの前のシーンにて「作者の技量」で何とかして下さい。
それから銀河のほうも主人公の台詞に感銘を受けて、必死になって戦いの場から離れようとするのです。というのも……
「銀河! 無理して動くな! 死んじまうぞ!」
「いいの! あなたを助けるためなら、死んだっていいわ! 例え本当にそれで死んだとしても、わたしはその結果を甘んじて引き受ける!!」
……とまあ熱いことをいってギンガウォーレから離れていくのです。そうすればギンガウォーレは身を守るすべを失い、あとはダーツェンと主人公の連携で倒せばオッケーです。
こうすれば二つ目の問題と三つ目の問題の両方をクリアできるような気がするのですが、いかがでしょう?

では辛口評価はここまで。ここからは甘口評価です。
はっきり言いましょう。凄く面白かったです!
まず宇尾江銀河。何この幸薄少女。けっこーヤベー。マジカワイイ。
キンツイキョウ作品は三作品読みましたが、その中で私のベストがコイツといっても過言ではないでしょう。
左近? 右京? ダーツェン? まあ確かに彼女達は彼女達なりに素敵でしたね。
「それはまたいつか、話すとしよう」「それについては、また今度話そう」と危ない話題はサラリとかわすのも天使らしいです。
でもね、銀河からは「萌え」の香りが微かに漂うのですよ。まだまだ「萌え」ではないですけど。
しかーし、そいつらと比べたら銀河のほうが光ってます。輝いてます。
忘れてもらっては困るのですが、私はエンターティメント性を求める人間なのです。
キンツイキョウさん、あなたそろそろ「萌え」がわかってきたんじゃないですか?

>オレは思わず銀河の身体をやんわり押して、ベッドに倒していた。

よくやったキンツイキョウ! お前は偉い! 下手なエ○ ゲーの下手なエ○ シーンよりよっぽどエ○ いですぜ!
そう、微エ○ はサービス! そしてちょっぴりエ○ スはエンターティメントです!
キンツイキョウさん、あなたやれば出来る子じゃないですか。今度はエ○ 小説に殻破りしてみませんか?!
……ちょっと褒めすぎたかな? 夜も遅いんで頭がおかしくなってきてるのです。作者のほうでマイナス方向の脳内変換しといて下さい。

次にバトルシーンですが、私は読みやすかったですよ。
やってることは良い意味でも悪い意味でもファンタジーバトルでよく見かけるような動きやら展開ですから2・3先のことが何となくわかるので(勿論、外れまくりですが〔笑〕)。
でも私って、「ライトノベル作法研究所」で「戦闘描写意味不明」「戦闘シーンがわからん」と酷評されてる「灼眼のシャ○ 」でも『え? あのバトルシーン、わかりにくいの?』と驚いた人間ですからね。恐らく一般的な意見ではないでしょう。
というわけでキンツイキョウさんのバトル描写力は「シャ○ 」レベルなのかもしれない、ということにしておきましょう。なんか微妙な評価ですなあ(笑)。

小ネタですが「だが断る」くらいしか気付けませんでした。
でも個人的には「ワコール」が妙に印象に残ってます。

ストーリーですが、アラを探せば多く見つかりそうです(悪いけどsvaahaaさんのように)。
けどね、んなこまけえことはどーでもいいんです! 大雑把に把握しておけば十分!
事件に巻き込まれた少年と少女、熱いバトルの中で飄々とする天使、互いを想い守りながら闘ううちに引かれていく男と女、そして二人の愛が起こした奇跡、最後に待っていたのは戦友との涙の別れ。
もうこれでいいじゃないですか。何が不服なんですか! ……どうもまた褒めすぎた気分です。何が書きたいのかよくわからなくなってきました。結構グダグダなんですよ、今の自分。あと私、誰にでも評価が甘い人間みたいですので。
そりゃ純粋なエンターティメント作品は逆につまんないですけど、本作はそんなことありません。
ちゃんとバトルあり、笑いあり、そして哲学ありでシリアスありの良い感じな娯楽作品に仕上がってますよ。
だったら何で五十点をあげないんだっていうと、先ほど申した通り、哲学面がボロボロだからです。当初は五十点マイナス十点の計四十点のつもりでした。
しかしすぐに『いや、ここまで酷いとマイナス二十点だろ?』と考え直し、三十点にしたわけです。四十点、惜しかったですね。
あと「2957字も超過しているとかありえない」なんかで嘆いているようですが、キンツイキョウさんの知る由もないところ(?)で既に書きましたけど、上には上がいるのですよ?
私なんか最初からメッチャ計画的に書いたのにも関わらず14940文字もオーバーしたんですから、まだまだ青い青い。……全然自慢できることじゃねー!(泣)。
というかすんません。最初からまとめる気がなかったのでこんな長文になってしまいました。もし返信レスをするんならポイントだけ摘まんで、で十分です。
それから感想投稿システムがよくわからなくて、「三十点評価の感想」と「点数評価無しの感想」の二つを投稿したせいで、総得点が110点・平均点が1点上がるはずなのに上げられなかった事も謝罪します。ごめんなさい。

さて、点数は三十点です。金椎響エンターティメントは私の脳に報酬系をドバドバ与えてくれました。
それではまた「哲学的な魔女、あとオレとか」でお会いしましょう。

104

pass
2011年01月13日(木)02時26分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 110K1さん、ご感想どうもありがとうございます。
 この作品は、わたしの書いた作品のなかでも特に感想数が少ないだけに、110K1さんの率直な感想が頂けて本当に嬉しいです。

>私の嫌いなライトノベルズという作風に、私は筆舌し難い怒りを感じた。金椎響に求められている作品はこんなものではないはずだ。私は読者としての分別を忘れて激しい憤怒に苛まれた。
→ごめんなさい。確かにそうですよね、「金椎響」に求められている作風は、文学的な要素や、物語性ですよね。わたし自身、この作品を生み出す際は、自分を見失っていたかもしれません。一応、一作品毎に作風を変えよう、とは漠然とこころに決めていましたけれど、もっと他の書き方があったのかもしれません。

>しかし、だ。この作品は第二作『哲学的な魔女、あとオレとか』から続き、『死の季節』に繋がる作者の哲学の変遷だと思えば、許せるような気がする。作者は読者の求めるものを与えるとは限らない。そういうことなのだろう。
→そのように肯定的に捉えて頂けると、作者としても助かります。

>それ故、この作者に作風や描かれている雰囲気に対して文句を言ったところでどうにもならないのだろう。作者金椎響は、読者に定義されるのを嫌っているとしか思えない。
→いえ、さすがにそこまでは思っておりませんよ。ただ、「作者からのコメント」にも記した通り、自分の殻を破ろうと思って、作風を変えておりました。

>本作で作者は意識について踏み込んだ発言をしている。ニューロンは、脳というモジュールは一体どのくらい集まれば、自我を、意識を、『わたし』という人格を生み出すのか。作者は第二作以降、『わたし』という意識と脳科学について、問題提起を行ってきた。あるいは、私達の自己決定、自由意思と本能、欲求という点に対して、平易に読者に問題点を示している。私達の自己決定が、本能だとか欲求というプリミティブな領域に支配されていて、そこに本当の自由が存在しないのならば、それは「自由」意思などと呼べないのではないか。
→哲学的に言及して下さったことを感謝します。わたしの作品に対する感想で、哲学的な追及が少ないので、このように記して頂けると、作者としても嬉しいし助かります。

>作者の百枚という枚数や、素気ない文体についつい読者は目をとられ、本質を見失う。著者の真の狙い、読者への問題提起という最大の課題に対して、読者は目を瞑りがちだ。この企画において、それは顕著に現れている。読者はついつい目先の面白さ、あるいは「萌え」にばかり言及する。読者はこの企画の本旨を忘れているのではないか、私は警鐘を鳴らしたい。
→やはり、作者にできることにも限界があって、読者の方々にそれぞれ考えてもらうきっかけを提示するのが精一杯だと思うんですよね。自分で考える、それが哲学の本質的な部分だと、わたしは思うので。

>作者は自身の作品において、全力で哲学を表現せねばならない。そして、読者は作者の提示する哲学を読み解かねばならない。作者に責任を転嫁するのは簡単なことだ。
 しかし、たとえばこの金椎響のような種類の作者に対して、哲学が何たるかを求める、それはもっとも愚かな行為だ。問題提起がしたい。それは、自分の頭で考えろ、という意思の裏返しだ。
→110K1さんは読者の鑑だと思います。
 あと、「自分の頭で考えろ」とまでは言ってませんよ(滝汗)

>読者は今一度、その原点に立ち返る必要があるのではないだろうか。それがこの企画に対する、謙虚な心構えであろう。
→その通りだと思います。作者として、わたしの口からは強くは申し上げることができませんけれど。

 最後に、110K1さん、感想どうもありがとうございました。
 この作品を通じて、あなたと出会えたこと、感想を記して下さったこと、そして点数を投じてくれたこと。
 そして何よりも、わたしの作品を読んで頂いたこと、本当に嬉しく思っております。

 110K1さん、本当にありがとうございました。

pass
2010年12月26日(日)15時13分 110K1 KI8qrx8iDI +30点
 今まで傍観者として沈黙を守ってきた。しかし、ついに耐えかねて不本意ながらも書き込むことにした。読者の数だけ解釈がある。その言葉に甘えて感想を送る。

 私の嫌いなライトノベルズという作風に、私は筆舌し難い怒りを感じた。金椎響に求められている作品はこんなものではないはずだ。私は読者としての分別を忘れて激しい憤怒に苛まれた。

 しかし、だ。この作品は第二作『哲学的な魔女、あとオレとか』から続き、『死の季節』に繋がる作者の哲学の変遷だと思えば、許せるような気がする。作者は読者の求めるものを与えるとは限らない。そういうことなのだろう。

 それは、第一作目の『シャッターボタンを前押しにして』と第二作目の『哲学的な魔女、あとオレとか』との間に広がる落差がこの作品にも現れている。金椎響は常に自身の作風やスタイルを否定する。第一作目で築いた非ライトノベルズな作風をあっさり翻した。金椎響に前作通りの情報量や恋愛を期待した読者は幻滅しただろう。しかし、作者はそんな読者を尻目にライトノベルズ路線で三作目『She said to me, ”GODSPEED”』を書き、その後は打って変わって処女作を彷彿とさせる重々しい雰囲気と饒舌な文体で『死の季節』を描いた。

 それ故、この作者に作風や描かれている雰囲気に対して文句を言ったところでどうにもならないのだろう。作者金椎響は、読者に定義されるのを嫌っているとしか思えない。

 本作で作者は意識について踏み込んだ発言をしている。ニューロンは、脳というモジュールは一体どのくらい集まれば、自我を、意識を、『わたし』という人格を生み出すのか。作者は第二作以降、『わたし』という意識と脳科学について、問題提起を行ってきた。あるいは、私達の自己決定、自由意思と本能、欲求という点に対して、平易に読者に問題点を示している。私達の自己決定が、本能だとか欲求というプリミティブな領域に支配されていて、そこに本当の自由が存在しないのならば、それは「自由」意思などと呼べないのではないか。
 作者の百枚という枚数や、素気ない文体についつい読者は目をとられ、本質を見失う。著者の真の狙い、読者への問題提起という最大の課題に対して、読者は目を瞑りがちだ。この企画において、それは顕著に現れている。読者はついつい目先の面白さ、あるいは「萌え」にばかり言及する。読者はこの企画の本旨を忘れているのではないか、私は警鐘を鳴らしたい。
 作者は自身の作品において、全力で哲学を表現せねばならない。そして、読者は作者の提示する哲学を読み解かねばならない。作者に責任を転嫁するのは簡単なことだ。
 しかし、たとえばこの金椎響のような種類の作者に対して、哲学が何たるかを求める、それはもっとも愚かな行為だ。問題提起がしたい。それは、自分の頭で考えろ、という意思の裏返しだ。
 読者は今一度、その原点に立ち返る必要があるのではないだろうか。それがこの企画に対する、謙虚な心構えであろう。
 
102

pass
2010年12月20日(月)20時46分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス

 エキセントリクウさん、ご感想どうもありがとうございます。
 金椎響渾身の駄作を、こうして読んで頂いたばかりかご感想まで記して頂けると嬉しい限りです。
 特に、百を超える多くの作品が投稿されているなかで、100枚という枚数を誇るわたしの作品を読んで下さったこと、本当に嬉しく、また誇りに思います。

>投稿3作品で、計299ページ。素晴らしい。感服します。
 ありがとうございます。
 読者の皆さまにとっては、どれも枚数ばかりあって、どうにもえげつない感じが拭いきれませんけど(苦笑)
 エキセントリクウさんにそのように言って頂けると、作者としてこころが落ち着きます(笑)

>意思を操作されている……悪魔や悪霊に憑依されているようにも見えます。
 イメージ的にはそんな感じです。当初の設定ではまさに「取り憑く」形を取っていました。
 作者の狙いとしましては、ギンガウォーレの介入と銀河の想いの境界を曖昧にすることで、「オレ」の疑心暗鬼と「こころが見えたらいいのに」という言葉に繋げたかったんです。
 また「ギンガウォーレを倒すためなら、銀河も傷付けていいの?」というテーマにも触れたかったので。

>「壮大に転んだ」って、好きです。
 作者は読者の笑いどころをわかってるんですよ? 決して作者の日本語が不器用な訳じゃない……嘘です作者日本語下手です。母国語なのに。語り手の「オレ」のお茶目な一面、ということで大目に見て頂けると幸いです。
>バルオメロンの台詞の4回繰り返すの、好きです。
 ありがとうございます。
 個人的に、飄々として掴みどころがないバルオメロンをもっとしっかり描いてあげたかったのですが、枚数の関係でなんだか噛ませ犬になってしまいました。
>「銀河」ってすごくいい名前だと思うのですが、「ギンガウォーレ」はちょっと……。
>「ダーツェン」もちょっと……。
 ……ですよね(爆)
 作者のネーミングセンスが皆無なのは以前から指摘されておりましたので、これからは単なる技術だけでなく、センスも磨いていきたいと思います。
>「報酬系」も、別の言い方の方がいいかな、と。
「報酬系」という言葉は一応脳科学でそういう言葉があります。ただ、エキセントリクウさんの御指摘の通り、確かにここはわたしなりに言い換えた方が良いかもしれませんね。
 最近、素晴らしい小説はその言葉ひとつひとつを大切に、そして作者自身のものにしている、ように感じるようになりました。わたしもそれを見習って、言葉ひとつひとつを飲み下して、わたしなりの世界観を構築していきたいと思います。
>主人公に名前をつけないのはどうしてですか?
 これは第一作目から共通した問題意識なのですが、「物語において本当の主人公は読者だ」という意味を込めて、あえて主人公の名前を明らかにしていません。
 また、読者が「はたして彼はどんな名前なんだろう?」と想いを馳せて頂きたかった、という気持ちもあります。
 読者の方にそのように訊いて頂けると、なんだかとっても嬉しいです。
>「シャッターボタンを全押しにして」途中まで読んだので、あとで続き読みます。
 ありがとうございます。記念すべき処女作であり、問題作でもありますので エキセントリクウさんの感想、楽しみにしております。

 最後に、エキセントリクウさん、この作品を読んで頂いて、本当にありがとうございました。
 エキセントリクウさんのお言葉、確かにこの金椎響のこころに響きましたよ。
 本当に、本当に、ありがとう。エキセントリクウさんに、感謝の言葉を捧げます。

pass
2010年12月20日(月)01時27分 エキセントリクウ  +30点
投稿3作品で、計299ページ。素晴らしい。感服します。

意思を操作されている……悪魔や悪霊に憑依されているようにも見えます。
「壮大に転んだ」って、好きです。
バルオメロンの台詞の4回繰り返すの、好きです。
「銀河」ってすごくいい名前だと思うのですが、「ギンガウォーレ」はちょっと……。
「ダーツェン」もちょっと……。
「報酬系」も、別の言い方の方がいいかな、と。
主人公に名前をつけないのはどうしてですか?

「シャッターボタンを全押しにして」途中まで読んだので、あとで続き読みます。
105

pass
2010年12月09日(木)22時53分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 どうも、こんにちは。作者の金椎響です。
 この感想は、svaahaaさんの感想に対する回答の「後半部分」になります。
 わたしは当企画随一の長文家であることを自負しておりましたが、よもや感想の文字数制限にまで引っ掛かるとは思いもよりませんでした(苦笑)
 なので、まず最初に「前半部分」をご覧になって頂ければ幸いです。

>哲学部分については今回もいろいろ考えさせられました。
→そう言って頂けるとありがたいです。
 第一作以来、読者の方に考えて頂けるよう作品作りに努めて参った次第ですから、そのようなお言葉が頂けると本当に嬉しいです。

>結局どうやってギンガウォーレが銀河を操っているのかが不明瞭でした。
→すいません、わたしの理解では「過剰に見積もる」と記すのが限界でして。
 誤解を恐れずに大胆に言えば、価値誤認です。
 報酬系では「遊びたい!」「寝たい!」「話したい!」といったしたいやりたいが絶えず声を上げています。ギンガウォーレは銀河に「寝かせようかしら」と思ったら「寝たい!」という声をメガホンに通すんです。そうすると、「遊びたい!」や「話したい!」という声が相対的に小さくなったり、あるいは掻き消されてしまうんです。
 で、潜在意識下で一番大きな声だった「寝たい!」という欲求を意思決定・行動に採用します。
 その段階になってはじめて、銀河の意識は「今日は疲れました。目もしょぼしょぼしているような気がします」とか言ってもっともらしい理屈を考えたりします。そして、その理屈に従って最終的に「今日はそろそろ寝ましょう」と思って寝支度を整える訳です。
 ただ、誤解のない様に記しておきますが、わたし自身は、別に報酬系の概念を描きたかったのではなくて、「人の意志ははたして『自由』なんでしょうか」、という問題を皆さんに提起したかったのです。

>ダーツェンはこれが「人の意志」だといいますが、欲求の発生は人の意志そのものではないし、人の意志によるものでもないと思ったのですが(三大欲求しかり)。
→ダーツェンは「わたしが操ってたのに!?」というギンガウォーレに対して言ったのですが、そのニュアンスは「そう、殺す欲求の過大解釈はギンガウォーレ、おまえ自身の思いであって、ただそれを銀河に押しつけてるだけなんだよ」みたいなことを言っている、と理解して頂ければ幸いです。
 ダーツェンは、銀河など人間達当事者にはわからないブラックボックス化された報酬系などの意志決定機関に対して、「わからないんだったら、わたしが介入してもいいよね。当人にはわからない次元の問題なんだし」というあまりにも無遠慮なギンガウォーレの姿勢を批判している……という感じです(二作目の「魔女」は弄る方の「幸せ」についても言及していますが、ギンガウォーレはそこまで考えていない節があります)。
 また、神を捨てたギンガウォーレが、銀河を支配する神のようになってるな、という皮肉もあります。
 しかし、それを「人の意志だ」と評すると、確かに誤解を与えてしまいますね。

 確かに、欲求の発生は人の意志そのものではない。仰る通りです。
 ただ、この物語の理論から言えば、欲求は「人の意志」という次元よりも、もっと深い場所にあります。辞書的な意味では並列的に、あるいは対義的に扱えるかもしれませんが、作中の様な報酬系等の理論を用いた場合、「人の意志」そのものではありませんし、ましてや「人の意志」によるものでもありません。
 大胆に言えば、欲求とは「人の意志」の材料のようなものです。そして、わたし達はその材料を料理する料理人なのではなく、料理されたものを食べるお客なのです。で、そこでは出された料理を食べないことは許されません。わたし達はただ、その料理を文句も言わずに食べるだけです。
 むしろ、わたし達は「わたしは辛いものが好きだから、カレーを食べようと思うの。すいません、カレー一つ!」と言って、さも自分でカレーを自発的に食べているかのように振る舞うのです。

 ただ、ダーツェンはその一方で「神から授けられた真理に囚われない人間は自由」みたいなことを随所で言っています。人は他ならぬ報償系や潜在意識、あるいは自身の脳という器官からは自由になれないけれど、それが直ちに不自由に直結する訳じゃない、と思っている節があります。
 当人には絶対わからない、ブラックボックス化された意思決定は、一見すると絶望的だけど、じゃあ意思決定過程が自明だと、それはそれで明らかな法則に支配されている訳だから、むしろそっちの方が絶望的じゃないの。だったら、何かに支配されているけれど、何かはわからない方が幸せよね、という考えが、ある種ダーツェンの中で葛藤となっている訳です。

>われながら今回は厳しい評価だと思います。ただそれは、金椎響さんに対する期待の裏返しととっていただければ幸いです。
→いえいえ。世の中、厳しいうちが華だとわたし自身も思っておりますので大丈夫です。
 むしろ、読んで頂いた方々の期待に応えられていない自分の不甲斐なさを恥じておりますし、この気持ちをバネにして今後の創作活動に繋げていきたいなと思っております。

>「不真面目」な態度で望まれたということですが、個人的には本作の「真面目」なバージョンが読みたかったな、と。
→「真面目」な態度ではこの作品を描き切ることはできなかったと思います。
 第一作と第二作が二週間で書き上げましたが、この作品は結果的に完成までに一カ月近くかかってしまいました。わたしとしましては、このままお蔵入りでも良かったのですが、直前になって「それは寂しいな」なんて思ってしまいました。
 そこで気持ちを切り替え、開き直ってザクザク改稿作業を行い、ラノベらしく「軽い」雰囲気で仕上げてアップしました。読者の方に誤解を与える表現だったかもしれませんが、「不真面目」という言葉は手を抜いた、あるいは作品に対して真剣に取り組んでいない、というよりは、むしろ今までの金椎響の姿勢とは違った、わたしの新たな境地の開拓、くらいの意味合いを込めて使った……くらいに受け止めて頂ければ幸いです。

>評点は最初10点のつもりでした。私としては、二作目、一作目、本作の順番におもしろいと思っており、前作までの評価を覆さないためにも、本作は低めの評点になっています。
→その姿勢、素晴らしいと思います。
 他人に惑わされず、ブレない自分の尺度を持ち続けることは大切なことだと思います。
 svaahaaさんの言葉と数字を真摯に受け止めて、自身の今後の創作活動にいかしていきたいと思います。

>終わってみれば、ボーナストラックに辛口という、空気の読めない感想を書いてしまいました。他の方の気楽な感想、あるいはもっと真摯な感想が待たれるところです。
→いえいえ。感想に関して言えば、場の空気なんてものは読まずに、御自身の思ったままを伝えて下されば良いと思いますし、わたし自身、そうして頂けた方が嬉しいです。

>読み返すとポジティブな部分がなかったので補足を。おもしろいかおもしろくないかでいえば、おもしろかったです。
→そう言って頂けると嬉しい限りです。
 第三作目は難産でしたがsvaahaaさんからそういったお言葉を頂けると、「こうして世に送り出して良かった」とホッと胸を撫で下ろす事ができますから。

>こういうファンタジーな作品は私の好みですし、私はむしろパロディ大好き人間なので、エルシャダイネタなども楽しめました(ニコ厨乙、ということで)。
→わたし自身は、パロディはあんまり好きじゃないんですが、普段の自分なら挑戦しないことに挑んでみたかったんです。

>まさしくとってつけたようでいいわけがましいですが、楽しめたのは事実です。だからこその辛口だと思っていただければ幸いです。
→いえいえ、むしろ本音で挑んで頂いた方がわたしのためになります。
 作者のわたしと致しましては、読者の上辺だけの社交辞令よりも、厳しくとも本音の方が聞きたいと思っております。たとえその言葉がどんなに、わたしにとってキツく耐え難くとも、ここを乗り越えねば次へと繋がっていきませんから。

 さて、svaahaaさんからこうして真摯な感想を頂けたことに感謝の意を表したいと思います。
 長い小説にはそもそも感想がつきにくい傾向があるこの企画において、最後までわたしの小説を読んで頂いたばかりか、こうして感想を頂けたこと、本当に嬉しく、またありがたいことだと思います。
 特に、svaahaaさんは第一作以来、わたしの作品をずっと読んで頂いて下さっている、その事実がわたしを奮い立たせていると思います。
 第二作で燃え尽きてしまったわたしが今もなおこの企画に齧りついているのは、一重にsvaahaaさんのような方の感想を通じた交流、そして作者同士の切磋琢磨ができるからだと思います。
 こんなに長い文章で、本当に申し訳ないです。もっと上手くまとめられたんじゃないか、と反省しております。
 最後に。svaahaaさん、本当にありがとう。あなたから感想を頂けたこと、本当に嬉しく思っております。

pass
2010年12月09日(木)22時47分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 どうも、こんにちは。作者の金椎響です。返信が大幅に遅れてしまい、申し訳ございません。
 この感想は、svaahaaさんに対する回答の「前半部分」です。
 「後半部分」につきましては、日時の新しい感想をご覧頂ければ幸いです。

 最初に、svaahaaさんには第一作以来、ずっと読んで頂けたことをまず感謝したいと思います。
 なんと金椎響の全三作、合計299枚という無駄に多いだけの作品をこうしてずっと読んでもらえたこと、本当に嬉しく思います。
 今までの感想と違わず、長文注意です。もはやこの警告も意味を成していないような気がしますけど。
 最初に記した通り、メッセージを書き込む時、制限字数をオーバーしてしまいました(2957字も超過しているとかありえない)。
 パソコンを前に「どんだけ長文やねん」と突っ込みを入れてしまいました。寂しい。

>参考にはならないと思いますが、よろしければどうぞ。以下、例によって超長文です。
→いやいや、そんなことはございません。
 svaahaaさんの感想はいつも創作の糧になっております。

 口調の件、御指摘ありがとうございます。
 当初ダーツェンは礼儀正しいキャラだったのですが、後に銀河をメインキャラクターに昇格してしまって「キャラが被るな」と思いまして、現在の硬い口調に変更した経緯があります。
 御指摘頂いた箇所につきましては、変更したいと思います。

>「中々頭に入ってこないなぁ」というのが読んでいたときの率直な感想です。
>描写が薄くなって状況把握が難しく感じました。
→正直に申しますと、どこまで書き込めば良いのか作者としてわからなくなった、というのが本音です。
 二作目でも他の読者から「展開がわかりにくい」という御指摘を頂いていて、作者なりに悩んだところでした。
 書き過ぎると冗長となり、書き足りないと意味不明。
 そのバランスの均衡を見つけることができなかった、と反省しております。

>「何が起きているのか、よくわからなかった」
>キャラの動きを頭に思い描くことが難しかったです。
→作者の技量が足りていなかったと思います。
「どこまで描けば過不足がないか」という点に関して、わたしの文章が空回りしていたんじゃないかな、と思っております。

>何を書きたいかは作者さん次第ですが、もし今後もバトルものを書くおつもりであれば、この手の感想にはめげずにどんどん場数を踏んでいただきたいです。
→厳しい感想こそ自分を強くするとわたしは思っておりますので、その点に関しては気を使って頂かなくて大丈夫です。
 わたし自身はバトル物は読み専門で、自分では書かないつもりでした。
 しかし、素晴らしい企画だったので、せっかくの好機だと思いまして。この機会に挑戦してみた次第です。
 自分の実力と限界を把握したい、という気持ちもありましたし、三作目は前二作とは違ったものに挑戦したいとも前々から思ってました。
 なので、もし四作目に挑むとするならば、今度はまた別のジャンルでいきたいと思います。

>ストーリーについて質問なんですが、神はダーツェンをなぜ「オレ」の下に遣わせたのですか?
→ストーリーについて質問を受けると、何だか嬉しい気分です。
 あまり作者が語り過ぎるのも悪いと思いますが、このような機会は恐らくないと思うので、少々冗長になりますが、書いていきたいと思います。
 一応、作中では天使同士の戦いは神が禁じているので、ダーツェンはギンガウォーレ討伐に対してはあんまり乗り気じゃないんです(神から直々に命令されたことは、干されていた彼女にとっては嬉しかったと思いますが)。それ故、神はアルメヴィラルエールをダーツェンに与えて「オレ」が主体となって戦ってもらう、という感じです。
 また、ダーツェンは「干されて」いて、一人孤独に地球をぼんやり眺めるしかなかったんです。そんな彼女は、ただ地球の「オレ」をずっと見ていた。そこで、神が気を利かせて下界に行って「オレ」と会う機会を作ってあげた……という解釈もできなくもない、かな。
 あるいは、ギンガウォーレ同様、どこか人間に憧れを抱いているダーツェンに対して、神なりの踏み絵だったのかもしれません。
 
>ギンガウォーレが「銀河」として「オレ」に近づいたのは、彼が自分にとって脅威となりうる存在だったからでしょうが、それはいつから分かっていたことなんでしょう? 
→ギンガウォーレとはじめて出会った時の文言から、「オレ」が将来的に自身の脅威になることをギンガウォーレは認識していた、と読者の皆さんは思って頂いて構わないです。
 あえてその問いにお答えするならば、「最初から」となるんでしょうか。

>「オレ」が「銀河」に惚れたからギンガウォーレを討つ役割を負わされた、というのなら分かるのですが、どうもそうじゃない気がしまして。
→「オレ」は作中で「決断を迫られてる」と感じていますが、神自身は「オレ」に対しては寛容な立場です。作中の通り、神は天使には色々と制約を課していますが、人間に対してはかなり「自由」を与えています。
 一応、天使は神の意志という絶対不変の「真理」を与えられていて、それ故善悪は自明の理で迷うことはないのだけれど、逆に神という存在に自らを縛られている。
 逆に、人間は善悪を各々選んでいいけれど、絶対的な真理にはどう頑張っても到達できないように作られた、という感じなので。

>神が「オレ」を指名した理由がよくわからなかったのです。
→神はこの作品において「全知全能」の存在なので、「オレ」が銀河を救いたい一心で、ダーツェンと組んでギンガウォーレを倒すことを「全てお見通し」だったから指名した……のかもしれません。その点に関して言えば、神のみぞ知るところです。
 ただ、この作品を生み出した、金椎響とかいうこの小説においてもっとも「神」に近い人間は、「オレ」を描きたかったから、彼を指名したのかもしれません(笑)

>ギンガウォーレが銀河という隠れ蓑を「作る」必要は本当にあったのでしょうか? 
→作中の流れから言えば、ギンガウォーレは人に感情移入してしまい、人の理解のために神の命を破ってまで人間界へ下りてしまいます。
 そのため、銀河という存在はギンガウォーレにとっては、隠れ家であり人間理解の場だった、という感じです。

>単に人の皮を被って「変装」するだけではダメなのですか。
→それはダメです。絶対ダメです。
 そうすると、「オレ」がギンガウォーレにたぶらかされちゃう展開になってしまいますから(笑) というのは冗談で……実際のところ、自分の大切な存在が自分を脅かすっていう展開にしたかったんです。
 自分の命と自分の大切な存在。秤にかけた時、重いのはどっちだ、という問いって、哲学っぽいかなと感じたので。
「命あっての物種」なのか、大事な存在だから自分の命さえも賭けられるのか。そういうギリギリ感を書きたかったんです。……あんまり上手く描けませんでしたが。
 
>そうすれば、一々意識を操るなんて面倒なことをしなくても済むと思うのですが。ダーツェンは天使の姿のまま下界で過ごしていましたし、ギンガウォーレもそうすればよかったのではないかと。
→それはギンガウォーレは「咎人」で、ダーツェンは「岡っ引き」だからです。
 ギンガウォーレは降りちゃいけない人間界に勝手に降りてしまい、神に背いてしまいました。それ故、同僚の天使の目から姿を隠さねばなりません。
 逆にダーツェンは下級天使なのに神様から任ぜられた、立派な取り締まる側なので、堂々としています。
 ただ、今思うと「いかん、人間状態では能力が使えん!」という展開にして、「オレ」に頑張ってもらうのもアリだったかもしれません。

>自由意思関連の問題を引き入れるために「意識を操る」という要素が必要ならば、銀河という少女に「取り憑く」といった単純な設定でもよかったのではないかと思います。
→当初の設定ではまさに「取り憑く」形を取っていました。
 しかし、やめてしまいました。
 ギンガウォーレの介入と銀河の想いの境界を曖昧にすることで、「オレ」の疑心暗鬼と「こころが見えたらいいのに」という言葉に繋げたかったんです。
「銀河イコール取り憑いたギンガウォーレ」だと、その葛藤がどうしても描けないし、ずっと取り憑きっぱなしだと銀河の人柄が描写できない、という小説上の問題もありました。
 銀河は当初、本当に隠れ蓑でした。ギンガウォーレの仮面、みたいな役割だったんですが、それだと薄いと思ったんです。
 また「ギンガウォーレを倒すためなら、銀河も傷付けていいの?」というテーマにも触れたかったので。

 メッセージの制限字数オーバーのため、ここで感想を区切ります。
 お手数ですが、「後半部分」は次の感想をご覧頂ければ幸いです。

pass
2010年12月01日(水)20時29分 svaahaa I0z7AdLSAc +20点
 投稿小説欄に金椎響さんの名前を見つけてから「お、新作だ」と気になっていたのですが、時間があったので読了しました。参考にはならないと思いますが、よろしければどうぞ。以下、例によって超長文です。

 最初に断っておくと、今回は斜め読み程度に読み進めたので、誤字報告および気になった表現への細かい指摘は割愛させてください。少なくとも、斜め読みレベルで気づくようなものはなかったと思います。
 ただ一つだけ、
>「言ったでしょう? わたしの能力だって」
 ここは、すぐ後で
>「さっき言っただろ。わたしの能力は、
 とあるので、これ以降の口調に合わせて、「言っただろ」に統一すべきかなと思いました。まあ、流していただいて結構です。本質的じゃありませんし。

 さて、あまり深い読み込みではないということを前提にした上で、本作の表現に対する全体的な印象を述べさせていただくと……「中々頭に入ってこないなぁ」というのが読んでいたときの率直な感想です。一作目から比例的に文章の密度が下がってきているので、読みやすかったのは確かです。今回は特に改行が多く使われていて、目がくらむ、なんてこともなかったと思います。これは意図的なことだと思われますが、ただその分なんというか、描写が薄くなって状況把握が難しく感じました。
 この「状況把握の困難」を一番感じたのがバトルシーンでした。正直にいいましょう、「何が起きているのか、よくわからなかった」。戦闘描写が本当に難しいものだというのは私も素人ながら理解しているつもりですし、慣れてないというのも本当なんでしょう。上述の改行の多用から来る枚数制限も原因の一つにあると思います。それでもやはり、キャラの動きを頭に思い描くことが難しかったです。
 何を書きたいかは作者さん次第ですが、もし今後もバトルものを書くおつもりであれば、この手の感想にはめげずにどんどん場数を踏んでいただきたいです。

 ストーリーについて質問なんですが、神はダーツェンをなぜ「オレ」の下に遣わせたのですか? ギンガウォーレが「銀河」として「オレ」に近づいたのは、彼が自分にとって脅威となりうる存在だったからでしょうが、それはいつから分かっていたことなんでしょう? 「オレ」が「銀河」に惚れたからギンガウォーレを討つ役割を負わされた、というのなら分かるのですが、どうもそうじゃない気がしまして。つまり、神が「オレ」を指名した理由がよくわからなかったのです。読解力不足によるものだとは思いますが、説明していただければ幸いです。
 あと、これも前作同様、設定マニアの戯れ言として(「マジレス乙」的に)聞いてほしいのですが、ギンガウォーレが銀河という隠れ蓑を「作る」必要は本当にあったのでしょうか? 単に人の皮を被って「変装」するだけではダメなのですか。そうすれば、一々意識を操るなんて面倒なことをしなくても済むと思うのですが。ダーツェンは天使の姿のまま下界で過ごしていましたし、ギンガウォーレもそうすればよかったのではないかと。自由意思関連の問題を引き入れるために「意識を操る」という要素が必要ならば、銀河という少女に「取り憑く」といった単純な設定でもよかったのではないかと思います。……いずれにせよ、本質的なことではないので、流して忘れてください。

 哲学部分については今回もいろいろ考えさせられました。「報酬系」の話は少し難しかったです。結局どうやってギンガウォーレが銀河を操っているのかが不明瞭でした。「過剰な見積もり」ということばが理解しにくかったのが原因かと。ギンガウォーレは欲求のプライオリティを変えることで銀河を操るようですが、欲求そのものを発生をコントロールできるわけではない。それゆえ最後は銀河に後から生じたより強い欲求によって、彼女のコントロールを失った――ダーツェンはこれが「人の意志」だといいますが、欲求の発生は人の意志そのものではないし、人の意志によるものでもないと思ったのですが(三大欲求しかり)。誤解かもしれませんので、できれば解説がほしいところです。

 われながら今回は厳しい評価だと思います。ただそれは、金椎響さんに対する期待の裏返しととっていただければ幸いです。「不真面目」な態度で望まれたということですが、個人的には本作の「真面目」なバージョンが読みたかったな、と。評点は最初10点のつもりでした。私としては、二作目、一作目、本作の順番におもしろいと思っており、前作までの評価を覆さないためにも、本作は低めの評点になっています。ですが、本作も真面目に書いていただければおもしろくなるだろうと思い、その可能性にかけて+10点しました。とはいえ、私の感想の場合、評点はあまり当てになりませんので、犬に噛まれたと思って気にせず流してください(本当に噛まれた場合は入院ものだと思いますけど)。

 終わってみれば、ボーナストラックに辛口という、空気の読めない感想を書いてしまいました。他の方の気楽な感想、あるいはもっと真摯な感想が待たれるところです。長々と偉そうに書きましたが、これにて。どうもありがとうございました。

追記
 読み返すとポジティブな部分がなかったので補足を。おもしろいかおもしろくないかでいえば、おもしろかったです。こういうファンタジーな作品は私の好みですし、私はむしろパロディ大好き人間なので、エルシャダイネタなども楽しめました(ニコ厨乙、ということで)。また、最初の一文、
>舞い降りたキミは「駄」天使
では早速吹いてしまいました(笑)。キャッチーな一文になっていると思います。
 まさしくとってつけたようでいいわけがましいですが、楽しめたのは事実です。だからこその辛口だと思っていただければ幸いです。以上、付言でした。
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合計 6人 190点


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